男鹿と付き合い始めてもうすぐ1ヶ月近くになるが、その間に恋人らしいことは一度もしたことがない。
アドレスはちゃんとその日に交換したってのに連絡は全然寄越さないし、会話も挨拶程度しか交わさない。
普通はもっとこう、頻繁にとはいかなくても少しくらいはメールだとか会話があるもんじゃないのか。そんなだから当然キスもそれ以上のことも問題外。
さすがにしびれを切らして放課後校舎裏に呼び出して詰め寄ったら「お前が俺に本気になるのを待ってた」とかぬかしやがった。
意味がわからなくて更に詰め寄ると、俺が好きだと言わなかったから本当はどう思ってるかわからなかっただと。だから俺から連絡くるまで待ってただと。
馬鹿じゃねえの。本気じゃなかったらそもそも好きだと言われた時に肯定なんかしねえよ。
そう言うと男鹿は嬉しそうにへにゃりと笑った。
「神崎、好きだ」ぎゅっと力強く抱き締められ、耳に直接吹き込まれたのはあの時と同じ言葉。
今度はちゃんと俺も好きだと言ってやった。
そしたら一瞬驚いた顔をして、またさっきみたいな、でも少し照れくさそうな笑顔を向けられて、そんなに嬉しそうにされると何だかこっちまで気恥ずかしくなる。神崎の顔赤い。うっせお前もだろ。どっちもどっちなのにそんなことを言い合う。
それがおかしくてくすくす笑っていると、ふいに男鹿が真剣な少し緊張した表情で俺を見てきた。
「なあ、キスしてえ」
ずっと我慢してた。そう囁かれて拒む理由なんかどこにもないし我慢していたのはこっちだって同じだ。
誘うように服を引っ張れば男鹿の顔がゆっくりと近付いてくる。
それに合わせて目を閉じようとし…た視界の端に映ったものに慌てて閉じかけた目が見開いた。
「ち、ちょっと待て…っ」
「あ?んだよ、止めんなよ」
あと数cmのところの男鹿の顔を押し返す。
迫る男鹿の口元を押さえて制止させると、不満そうにこちらを見てきた。
そんな顔されたって仕方ないだろ。俺だって早くお前とキスしてえよ。
でもだからってガキの目の前で堂々と出来るかって話だ。さすがに無理、つか教育に悪い。
それに背中に乗るガキと目が合ったときの気まずさといったら。
「……ガキ、」
「……あー」
そういう意味を込めて呟くと男鹿は納得したようで、気の抜けた返事をしながら背中からガキを剥がして抱き抱える。
「よーしベル坊、ちょっと我慢だぞー」
ガキの目を片手で柔らかく覆い隠すのを見計らって男鹿の首に腕を絡めた。
ようやく、重なる。