@150927〜151010


 おれは死んだ。ここまではいい。別に望んで死んだわけじゃあないが、嵐の中の交通事故だ。たまにどこかの誰かが起こしてしまう仕方ないの事故である。死んだおれには、相手が悪いのかおれが悪いのかなんざ知ったこっちゃあねえ。
 おれは生まれ直した。これが目下大きな問題だ。おれの名前は、トラファルガー・D・ワーテル・ロー。ぞっとしたか。おれはぞっとしたさ。フレバンスという国の名前にも、白い町と呼ばれていることにもぞっとした。おれはここを知っている──それも滅亡という最悪の形の未来を。

 どうして、おれが。

 名前を聞いたときからおれはよく泣く赤ん坊になった。そうして考えて考えて、まともに体が動くようになってからは医学と化学を必死に学んだ。まだこの国の終わりは始まっていない。治す方法が見つかっていないのなら、見つければいい。おれは地獄なんて見たくないんだ。ローの過去は知ってる。凄惨という言葉では片付かない地獄だ。あんなの、乗り越えられるわけないだろうに。生まれた妹も、優しい母も、聡明な父も、妙に賢しいおれを仲間外れにしない友人たちも、誰一人亡くしたくはなかった。

「こういう手術はこっちの血管を使うんだ」
「ロー! 行こっ! お祭り」
「お兄さま、おまつり行こうよ〜〜」
「何勉強してるんだ? ……手術!? すげェなァ!」



 亡くしたくは、なかったんだ。



 父と母が“駆除”された。メラメラと病院が燃えている。おれの妹のいる病院が燃えている。その炎の中、駆け込もうとするが病院が崩れる方が先だった。それでも病院に踏み入ると、妹のひしゃげた身体が見つかった。中身をぶちまけたみたいに赤い。いや、みたい、じゃないんだ。白かった身体は今じゃ真っ赤だ。呼吸も心拍も瞳孔も、生きていることを示してはいない。妹を抱えながら父と母の元へ走っていると、外から銃声が響く。友人とシスターが死んでいた。先に抜け出した連中が迎えに来たと言っていたのに。原作なんかとは違ったはずなのに。ああ、どうして。


「どうして、みんなが」


 誠実に生きていただけなのにどうしておれたちがこんな目に遭わなきゃいけないんだ。



 フレバンスを出るには死体に紛れると原作のローが言っていた。それを真似ておれも実行してみると、思いの外、簡単に事が運んだ。トラファルガー・ローを生かそうという天の意思でも働いているのだろうか。でもそれなら、何故おれの家族を生かしてくれなかった。おれの友人を、おれの隣人を、どうして生かしてくれなかった。恨み言を言う暇さえなかった。発症が遅れている。まだ、おれの肌は言うほど白くはない。国さえ出れば貧民街の子どもにしか見えなかった。……ドフラミンゴを探さなければ。コラソンがおれを助けてくれるだとかそんなことはどうでもいい。腹に渦巻くのは生きたいという欲求じゃない。ドフラミンゴなら、おれの命と、情報を有効活用してくれるだろう。服の中にあるトーンダイアルと家族の形見を握り締めた。目指すはそう──港町スパイダーマイルズ。

mae::tsugi

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