@130716〜130727


 おれは、ミホークが、好きだ。どういう好きかと言えば、恋愛としての好きだと断言できる。初めはただルーキーの名を欲しいままにしていた男が気になっただけ、次に殺そうと思えば殺せたおれを絶対に殺したりしないから余計に気になってちょっかいを出し続けても殺されることはなくて友人になってみたいと思った。そのあとはちょっと仲良くなって話すようになっておれの腕がなくなったとき自分の腕がなくなったように顔を歪めて「馬鹿者が」と悲痛な目をしてくれたものだから、つい、こう、コロッと落ちてしまった。
 けれどミホークとどうにかなりたいだとか、そういったことは、全然な……かったらよかったのだろうが、人間は欲の塊だ。できることなら好きになってほしいし、できることならキスがしたいし、できることなら肌を重ねたい。肌を重ねたいなどと表現を取るのはセックスという言葉を使うのが恥ずかしいからでも、おれが詩的な考えを持つからでもなく、何とも言えない感情だからだ。男といたしてしまったことはおれにもあるが、あんなふうにミホークを喘がせたいとは思わないし、だからと言って喘がされたいと思うわけでもない。ただ、余裕のない顔は見たい。余裕のない声を聞きたい。どうやって女を抱くのか知りたい──最後のは最早嫉妬だが、となると抱かれたいということになるのだろうか? まあ抱きたいとは思わないし、抱いてくれるというのなら抱かれるのもやぶさかでない。……まあ、ミホークは男に気があるかどうかどころか性欲さえなさそうな気もするけど。

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 航海中にボートのような棺船を見付けられたのはラッキーだった。ミホークは海をただ漂うだけで明確な目的地を定めない事が多いので、こうして見つけられることは珍しいのである。つーか、明確な目的地なんてあったら追いかけ回しちまうからそんなものはない方がおれにとってもいいのだろう。
 他のやつらに棺船につけろだとか宴の準備をするように言って、おれは船首の方に走り出した。早くミホークの顔が見たい一心でだ。


「おーい、鷹の目ー!」


 ぼうっとしていたミホークが振り返る。金色の目を細めて、おれを見てくる。顔が整っているだとかの理由よりも、その目がたまらなく好きで、今はおれしか見ていないのだと思うと笑い出してしまいそうなくらい嬉しい。その気持ちのまま棺船に向かって飛び込んだ。


「行くぞー!」


 どすん、と音がしたものの着地には成功する。ミホークはおれをじろりと見てくる。何で飛び降りてくるんだ、という非難の意志を感じたけれどそんなことは気にしない。というか気にしていたらミホークの相手なんてできないのだ。おれしか見ていないという悦楽に唇がニッと上がる。笑いながらミホークの眉間のシワをぐりぐりと無遠慮に押せば、眼力が二割増しになった。


「おいおい、ずっとそんな顔してるとマジでそんな顔になっちまうぞ」

「もう片方の腕も切り落とされたいのか」

「冗談だろ、冗談。まったくもー」


 言いながら手を離すと、ミホークはため息でもつきそうな顔をしていた。怒らない。そんなところも好きだと声高に叫びたくなるのだから恋というものはおそろしい。降りてきた縄梯子をつかみ、「じゃあ上行こうぜ、上」と言うとミホークがじとりとおれの手を見た。


「……赤髪、その腕で上がれるのか」


 ミホークがどうやらおれが上がれないと思っているらしいと気がついて、忘れてたというアピールをしてみる。もしかしたらおれのこと担いで行ってくれないかなァ、なんていう浅はかな下心ゆえにだ。おれのそのアピールにはイラッとしたみたいだけれど、ミホークは怒鳴り散らすこともあきれて無視をするわけでもなく、棺船をレッド・フォース号に繋いでおれを肩に担ぎ上げた。


「うおっ!?」


 まさか本当に担ぎ上げてくれるとは思わず、心臓が無駄に活発に動き始めた。……あーもう、なんだよ、バカだな、お前がおれを抱えて片手で上がれんだからおれだって上がれるって気付けよ。ミホークというやつは海賊に似合わず人を信じやすすぎる。それがおれだから、という理由ならば嬉しいけれど、そこまではわからない。つーか、そんなこと考えてられないくらい、触れてるとこが全部熱い。おれはガキか。服越しだろうと、ミホークの手の形まで意識してしまう。
 そんなふうに悶々としていたら容赦なく甲板に落とされた。ぐえ、と変な声が出てしまった。ミホークのことばかり考えていたせいで受け身も取れずに背中を強打したからだ。痛ェ……いきなり落とすことはねェんじゃねェか、とミホークを見上げる。


「いってーよ! もう少し優しく扱ってくれてもいいんじゃねェか?」

「上につれてきてやっただけでも十分な優しさだと思うがな」


 至極全うな言葉を返されて、おれは笑いながら礼を言う。たしかにその通りだった。ミホークは優しい。そんなことよく知っている。ミホークは甲板の上を見渡して、おれたちが宴の準備をしていたということを理解したらしい。お前らまたやってんのか、って顔をしてるもんなァ。でもやるぞ。ミホークがいるのならやらなきゃ損ってやつだ。


「よーし、鷹の目も来たことだし宴始めるぞー!」

「おー!」


 ミホークの登場で萎縮していた新入りたちもおれの掛け声で大いに盛り上がる。ミホークも軽く息を吐いて、仕方ないと参加の意を示した。そうしておれたちの宴は始まった。


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