「飯食う?」
「食う」
「何がいい?」
「別に特に」
「じゃああの安いバーガーでい〜い?」
「あれはやめろ、不味い」
「も〜ワガママだなー。何がいいのさ?」
「なんでもいい」
「なんでもよくないじゃんも〜。じゃあ適当になんか作るよー?」
「おう」
「あ、そういえばさァ、この漫画読んだ?」
「案外面白かった。内容はむちゃくちゃだけどな」
「やっぱそっちの世界的にもありえない展開なんだ?」
「ありえねェだろ、あんなの」
「そうなんだー。つーか、この番組クソつまんないね〜?」
「じゃあ変えろよ。時間の無駄だろ」
「生き急いでんの? ダメだよ、若者は無駄に生きないと」
「そんなんだとジジイになったときに後悔すんだよ。早いほうがいいに決まってんだろ」
「うわ、ユースタス・“キャプテン”・キッドのくせに真面目で生意気ィ」
「くせにってなんだ。ぶん殴るぞ」
「やめて、おれ耐久力低めだから」
「だろうなひょろ男」
「ひょろ男って傷つくわァ……脱いだら案外すごいんだからねっ」
「あ? じゃあ脱いでみろ」
「え? マジ?」
「マジだっつーの。さっさと脱げよオラ」
「やだ完全にこの子ヤンキーだわ」
「ヤンキーじゃねェよ、海賊だ」
「一気に悪化した。この世の終わりである」
「は、そんなことで世界が終わるわけなんかねェだろアホか」
「やめてよ〜自覚あるんだから〜」
「つーか脱げよ。さっさと脱げ」
「え。まだ言ってんの? 普通に考えなよ、明らかにオニーサンよりおれ貧弱じゃん。絶対にディスられんじゃん」
「うるせェな……さっさと脱げっつってんのがわかんねェのか?」
「え? なんかすごい根にもってない? めっちゃ怖いんだけど〜」
「せめて怖がってから言えよ」
「いやん、服に手ぇかけないで〜」
「……気色悪ィ声出しやがって」
「あ、オニーサン激鳥肌立ってるクソワロ」
「ぶん殴るぞマジで」
「言いながらもぶん殴らないところに優しさと愛を感じるわ」
「……」
「え、ちょ、鳥肌すげェ!」
「笑うな! マジで気色悪ィんだよテメェ!」

 ・
 ・
 ・

 とりとめのない会話。テンポばかりがよくて、中身なんてまったく感じられない会話。初めて会った頃のことなんて、この家に来たばかりの頃のことなんてまるで感じさせないほど、シュウとの会話は弾んでいた。一切会話らしい会話をしなかったり、返事をしなかった頃とはまるで比べ物にならない。
 本当にくだらない会話で、それこそキッドの言う無駄に当たる行為だ。意味も無い会話で時間とエネルギーを浪費して、馬鹿らしい。なのにその行為をやめない理由があるとすれば、それはキッドがシュウに心を許し始めているということである。友人としてなのか、あるいは知り合いとしてだけなのか、関係性はわからないものの、会話をするに値する人物だと思っている。だからこそ苛立つこともなくなって、ぼんやりと無駄でなんの意味もない言葉をくり返しあっている。


「あ。そういえばさァ、オニーサン、今日五日目だね」


 五日目。そう言われて初め、その言葉の意味をキッドは理解できなかった。けれどすぐに、今日を含めあと三日しかこっちにいないのだという意味だと理解した。そして、その三日しか、という思考にひどく驚いた。
 一週間、さほど長くはない期間だが決して短い期間とも言い切れない。その期間を終えて、早く帰りたいと思っていたキッドは、もはやここに存在していなかった。帰ろうとは思っている。思っているのだ。自分のいる場所はここではない。あの海賊船の、自分の旗印の、あの元である。こんな自堕落で、何もしない平和な場所が、自分の居場所であるわけがない。
 ……唐突に、恐ろしくなった。毒されているのではないか。この場所にいたいと思っているのではないか。それはすべて──


「あれ、オニーサン? どうかした?」


 この男の、せいではないか。


「……寝る」

「え、あ、おやすみ?」


 戸惑っているシュウを置いて、キッドはリビングを後にした。いつもならその場で寝てしまうところだが、持ってきていた布団を手に取り、用意された部屋に向かって歩き出した。おそらくそれだけでシュウはキッドの様子がおかしいことに気が付いただろう。それを向こうへ意識させたことも気に入らなかったが、そんなことを言っている場合でもなかった。
 戸を開いて、すぐに閉める。簡素な、埃っぽい部屋。使っていないことが明らかな部屋のベッドに飛び込んで、キッドは布団を被る。何も考えたくない。けれど思考は止まらない。
 シュウが、あのへらへらと笑う男がいるから、おれはこんな場所にいたいと思うのか?
 ただぼんやりと背の高い、銃に関する技術を持つ、鬱陶しいはずの男がいるだけでこの世界を気に入ったのか。それとも、この世界の安寧さに絆されたとでもいうのか。馬鹿らしい。馬鹿らしい。
 キッドの居場所は、ここではない。キッドの夢は、ここでは手に入れることのできないものだ。それだけのために生きてきた。それだけのために道を歩んできたのだ。今更違う道を歩むことなどするわけも──できるわけもない。そんな考えを持つことさえ嫌で嫌でたまらない。意味が分からない。まるで自分じゃないようだ。
 目を瞑る。忘れろ、全部。


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