酔っているという自覚はあるようなないような。それが酔っぱらいの考えであるということもなんとなくしかわかっていないほど、おれはへべれけに酔っ払っていた。だから同期のくせに階級がかなり上になってしまったボルサリーノがおれを家まで送ってくれるなんてことになったのだろう。途中まではおれも敬語で大将とか言ってはずなのに、気が付いたときにはばしんばしんと背中を叩きながら笑っていたような気がする。海軍主催のクリスマスパーティーだったのにあそこまで酔ったのは多分おれとあと数人だろう。明日が怖いなァ、とぼんやり思いながら、おれに肩を貸すボルサリーノを見た。 「んん? どうしたんだい」 「いんやァ、年取ったなァと思ってよ」 「そういうナマエも年取ってるんだからねェ〜」 「そりゃそうだ」 はははと笑いながら雪道を歩く。ホワイトクリスマスとはまたなんとも美しいものだと思うが、最早おっさん同士でしかないおれたちには似合わないものになってしまっていた。昔は恋人同士という関係だったはずなのに、気が付いたらおれたちは終わっていた。階級が離れて、忙しくなって時間が合わなくなって、わざわざ連絡を取ることもしなかったから仕方ないことだと思うが同時にとても寂しかったのを覚えている。大人の恋愛って、こんなもんかって。 借りていた肩から腕を退けて、誰も歩いていない道をバーッと思いきり走る。振り返ってみれば、何やってるんだとばかりにボルサリーノはため息をつきながらおれのことを見ていた。そういうところは変わってないなァと思う。ぼんやりとイルミネーションの中のボルサリーノを眺めていると、昔のことを思い出した。ボルサリーノは今ほど感情の起伏が小さくなくて、驚いたりなどの些細なことで感情が高ぶったときにピカピカと光っていたのである。湧いて出たのはいたずら心というやつだ。 「ボルサリーノ〜!」 「近所迷惑だから大声は、」 「好きだぞ〜!」 驚いてくれればいいな、と思った。多分、嫌な顔をされたときの言い訳を思いついたから酔った勢いでそんなことを言ったのだ。昔は驚いただけで光ってたからちょっと驚かせて見ようと思ったんだよ、と言えば問題ないから、今も思っていることをそんな簡単に告げたのだ。 そうしたらボルサリーノはぽかんとして、それから俯いて座り込んでしまった。だというのに恐ろしいまでに発光していて、おれの方がぽかんとしてしまう。そこまで光るとは思っていなかった。驚いたときのようにちょっとピカッと光って終わりだと思ったのに、持続的に光が強くなったり弱まったりを繰り返していた。……あれ、照れてるよな。初めて告白したときと、まったく同じ光り方だった。きっと今頃顔は真っ赤に違いない。そう思ったら安心して口が緩んだ。笑い声が容赦なく漏れる。 「ぶはっ、ははははは! イルミネーションみてェ!」 「ナマエがさせたんだろォ〜!」 「怒るなよ、お前が綺麗って意味だろ!」 言えばもっとピカピカと光り始めて、おれと言えば抱腹絶倒。どうやら本当に感情による制御が効かないらしい。いい年したおっさんがなんて可愛いんだろうか。おれは走り寄ってボルサリーノの顔を覗き込む。やっぱり真っ赤だった。その顔にキスをひとつして、ピカピカと光る手を取って、このまま家に連れ込んでしまおう。それから離れていた分の愛を込めて可愛がろう。明日の出勤が遅くなろうが、行けなかろうが、そんなことは知ったことではない。ヨリを戻せそうなんだから誰も構わずおれたちを放っておいてくれ! イルミネーション並みにボルサリーノさんをピカピカさせたい@匿名さん リクエストありがとうございました! |