有り体に言えば、おれは結婚詐欺師である。

 この海賊がのさばるご時世ではちゃっちい犯罪者ではあるが、人の身体に傷を付けることはないがスリルを味わえるというところを気に入っていた。人はちょっと傷つくが、別段大金を奪うようなこともしない。金持ちから生活費をちょろまかして事故死したことにして出ていくのだ。元から変装しているから死んだことにしてまたどこかで会っても問題ない。相手は人を愛せないような人格の持ち主で、どいつもこいつも性格が悪い。しかしおれという恋人を得て、婚約者を得て、そうして愛を知るところりと性格が変わる。愛する人を失う悲しみは辛いだろうが、そのあと彼らは優しい人間になるのだ。何が悪い。ちょっとの金と愛する人を失うだけで彼らは他の人間から愛を注がれる素晴らしい人間になれるのだから、安いものだろう。
 そんな偽善的なプロジェクトを成し遂げることに心血を注いでいるおれは、傍から見れば馬鹿だろう。だがそれでいい。大事なのはおれが楽しむことなのだから。

 とまあ、盛大な自分語りの前置きはそのくらいにしておいて、今のおれのターゲットはあの三大将のひとり“赤犬”サカズキである。
 過激、苛烈といいところのなさそうなキツすぎる男をいい人に変えられたらそりゃあ面白そうだな、と思ったのだ。男だから結婚することはできないけれど、ずっと傍にいると言えばそれだけで十分だ。いつもどおり、事はうまく進んでいた。……そう、進んで、いたのだけれど。


「……それが、お前の本当の顔か」


 これが、見られちまったんだよなァ……。元々相手はプロだからバレるだろうということで、トラウマがあって見られたくないのだと告げていたのだが、うっかり、ついうっかりだ。気を抜きすぎて眠ってしまったのである。その隙にぺろりと剥がれてしまった。いや、ぺろりと剥がれるようなものではないのだから、剥がされたといった方が正しいだろう。
 見られた。よりにもよって“赤犬”にだ。やばい。捕まる。頭の中に浮かんだのはそればかりだ。おれが顔を真っ青にさせていると、サカズキはおれを手招いた。ここで逃げ出すことなんてできやしないだろう。緊張しながらも近寄れば、ぎゅっと抱きしめられた。サカズキという男らしからぬ抱擁に驚いている間に、思ってもいなかった言葉が口から放たれる。


「トラウマなんぞ気にしのうてええ、わしがおる」


 やめろ、笑いそうになっただろうが! そんな甘い言葉がサカズキの口から出たことに身体が震えた。勿論笑いを堪えるためだったのだが、サカズキはそれをいい方へ勘違いしてくれたようで抱き締める力を強めてきた。やめてくれ、マジで笑っちまうから。

 で、次の日、バレちまったもんはしょうがねえと顔面晒してサカズキの家で飯を作りながら、帰りを待っていたら戸が開く音がした。迎えに行くか、と良妻気取りでおたま片手に向かって「サカズキ、おかえり」と玄関に顔を出して、慌てて顔を隠して引っ込んだ。待て待て待て! どうして! ここに! 他の三大将が!? お前べつに誰かと仲良くしてるタイプじゃねェだろ!
 隠れたおれに、サカズキが家に上がって近づいてきた。ぎらりと睨みつけると「悪い、隠しとると思っとった」と謝ってきたが、謝って済むなら海軍はいらないのである。謝りながらもどことなく嬉しそうにしてるサカズキには苛立って仕方なかった。おれは苦い顔をしながら「顔隠すもん、取ってくる」と言って奥に引っ込んだ。とはいえ顔を隠すものなんて本格的で犯罪臭のするものしかない。サカズキはおれを盲目的に好いてくれているからどうとでもなるが、他の二人は騙しきれないだろう。仕方がなく袋を目のところだけをくりぬいていると、三大将の会話が聞こえてくる。


「はー、男って聞いてたから頭イカレたかと思ってたけど結構可愛い顔してんね」

「……見世物と違うぞ」

「じゃあおれたち呼ぶなっていう話でしょうが。ノロケたいのはわかるけど怒るのはお門違いだっての」

「なんじゃと?」

「まあまあ。顔晒してると思ってなかったんだろォ〜?」

「ああ」

「それってさァ、なんか悪いことしてるとかじゃねェの? 顔隠すとか犯罪者くせェ」

「おォ〜、それわっしも思ったよォ。……サカズキ、そんなに怖い顔しなくてもいいだろうに。冗談だよ、冗談」


 あ、やべえ、マジで逃げ場失った。これ逃げたら面倒なことになるパターンのやつだ。死体用意しなかったらどこかでバレかねないし、今貯金もあまりない。普通に逃げ出したらおれの主義に反する。だが逃げたら結婚詐欺師としてくさい飯を食うことになりかねない。ああああああどうすっかなァ!?

スリル狂の結婚詐欺師が次の標的に選んだのは赤犬大将だったが外堀全部埋められてもう逃げられない!@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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