!ifゾロルート 頂上決戦を終え、原作通りおれの家になった城に戻ったら、原作通りにペローナとゾロがおりましたとさ。オーマイゴット。完全に忘れていた。覚えていたら適当に服でも物でも買ってきたのに……こんな辺境の地じゃあ、入用だろうにな。そしてやはり原作通り、ペローナとゾロはおれの城に住み着くことになったのだが、同じ空間に誰かが居続けるということに慣れてなくてたまに失態を犯していた。 例えばそう、うっかりそこらへんのソファで寝るとか、何も考えずに自分の飯だけ作りそうになって慌てて聞きにいったりだとか、うっかり素っ裸で風呂場から出そうになったりだとか。 何年ぶりじゃなくて、何十年ぶりだからな……共同生活。アイスバーグに世話になっていたときには定住してたってだけで近くにずっとアイスバーグがいたわけでもないし。ひとりぼっちは寂しいもんなを素でやっていたおれだったが、人がいることに慣れないとは……なかなかに可哀想だ。だけどおれが寝ていたら起こさないように毛布をかけてくれたり、飯を作るときに手伝ってくれたりする相手がいるというのは、本当にいいものだ。 ま、これ全部ゾロなんだけどね。ペローナはやってくれって言わなきゃやってくれないんだが、ゾロはおれがやってるとすぐに来て手伝ってくれるのです……なんてできた子なんだ、うちの弟子は! ──ということを語りたかったので、シャンクスから電話来たときにはつい弟子自慢をしてしまった。シャンクスなら弟子ができたことを言いふらすようなこともないだろうと思ってのことだったのだが、なんだか電話の奥のシャンクスは機嫌が悪いような気がする。 「どうかしたのか」 『……いんや? べっつにー?』 「別にという態度ではあるまい。悪いがおれにはお前の機微を察するほどの技量はないぞ」 だから何か言いたいことがあるのなら言え。そういう意味を込めて言ったら、電伝虫が至極嫌そうな顔でおれを見ていた。おそらくシャンクスがそういう顔をしているのだろう。ぶっさいくな面である。相変わらずシャンクスは表情豊かだ。おれも昔はそうだったはずなんだけどな……一人でいる時間が長いと、どうしても顔の筋肉は使わなくなってあんまり動かなくなるんだよな。 おれがくだらないことを考えている間に、シャンクスを真似する電伝虫がため息をついた。なんかムカつく顔をしているが、電伝虫の顔をつねったところで何も解決しないので、すこしばかり睨みつけておいた。 『あー、わかったわかった。言うよ、言やァいいんだろ?』 「何故そんなに嫌そうなんだ」 『……このニブチン』 ニブチンって……なんかすごい久しぶりに聞いたな、それ。それにしてもおれがニブチンだなんて遺憾である。仮におれがニブチンだとしたら、それはおれのせいではなく、海軍が手配書なんぞ作ってくれやがったおかげである。そうでなければおれだってコミュニケーション能力の崩壊など起きなかっただろうに。そんな遺憾の意は伝わらなかったのか、シャンクスはもう一度ため息をついてから口を開いた。 『鷹の目お前、のめり込みすぎじゃねェの、って話。弟子っつっても、お前が目にかけるような男で、お前のこと倒そうとしてんだろ? なれ合いなんかしてたら身を滅ぼすぞ』 「……驚いた。心配してたのか」 『そりゃあ心配くらいするだろうが! おれ以外に負けるとか許さねェからな!』 「お前に負けたことなんぞないが負ける気などない」 『うるせェな! バカ! 今度また飲みに行くからな!』 捨て台詞にしてはなんとも言えない言葉を吐き捨てて、シャンクスは電話を切った。別にいつ飲みに来てもいいが……おれの城には基本ワインばっかで、シャンクスたちの分をすべてまかないきれるほどの酒はないぞ……。まあ、そのうちに買いに行けばいいか、とため息をついてソファに腰を下ろす。 ……たしかに、シャンクスの言うことはもっともだ。いずれは殺し合いをする相手になることだろう。そのとき情が移っていれば、困るのはおれになる、……のかもしれない。おれとシャンクスのように別に親しくても剣を打ち合うことはできるから、問題ないような気もする。 そもそものところ、弟子だのなんだのというのは関係ないのだ。おれは寂しかった分、仲良くしてくれるゾロに入れ込んだんだろう。ペローナは異性だからそこまで近くに置けなかったし、ゾロはなんだかんだと色々と構ってくれたから……つい。 そうなんだよな、ゾロは別に家事が得意ってわけじゃあないんだけど、それでもいじらしく手伝ってくれたりとかしてさ。なんて言うんだろうな、……新妻みたいな? 「!?」 ちょっと待て、今おれは何を考えた? 相手は男だぞ。新妻だなんておかしい。落ち着け。さすがにそれは怒られる。いくらゾロが可愛いから、って、……いやいやいやいや待て待て待て待て。本当に落ち着け。何考えてんだ、相手は男だぞ? いくらおれの後ろをひょこひょこついてくる系のゾロくんだとしても、おれよりも身長が低くても、ゾロは、男で、なおかつおれはそのゾロの、ラスボスだろ? 「おかしい……さすがにそれは……」 まさか、おれ、ゾロのことが好きなのか……? なんだか頭の痛い展開になってきた。一緒にいただけで好きなるってどういうことだ。いや、女であるペローナのことを好きになったわけじゃないんだから、一緒にいたからって理由だけじゃなんだろうけど……いやいや、認めてどうする。本気で、まさか? 「おい鷹の目」 「! ……なん、だ?」 ゾロの声がして振り返ると、そこには風呂上がりのようなゾロの姿があった。いつからここにいたのかまったくわからなかったということは、ずいぶん考え込んでいたらしい。それにしてもすごいリアルタイムで来やがって……いや、ゾロは全く悪いわけじゃないんだけど。おれの態度がおかしいのがわかったのか、ゾロは眉間にシワを寄せながら、おれを見てくる。 「電話の相手となんかあったのか」 「……そこからいたのか」 おれ全然気がつかなかったんだけど、さすがにそれは問題じゃあなかろうか。ゾロの眉間のシワはより一層ひどいことになる。おそらく硬貨を挟もうと思えば挟めるくらいの深いシワだ。 「気が付かねェなんてよっぽど話に集中してたんだな」 ケッと悪態をついたゾロは、なんとも子供っぽい顔をしている。しかし話に集中しているくらいでは部屋に侵入してきた相手の気配に気がつかないだなんてことは、ありえないのである。何をしていたって誰かしらの気配がすれば、わかるはずだ。いくらホームだとは言え、そこまで腑抜けているとは思えない。ということは……? 「……逆だ」 「あ?」 「どうやらおれはお前に気を許しすぎているらしい」 そういうことになるだろう。非っ常に納得しがたい事実ではあるが、おれの警戒が下がるほど、ゾロの傍は心地よいということだ。それはさっきまでのことをすべて含めて鑑みるに……惚れてるってことなんだろう。まったくもって信じられないし、男だということを考えると、絶対に信じたくないが、まぎれもなくおれはゾロに惚れているのだ。……年齢差を考えると、ものすごく犯罪臭がするし……ああ……。 おれが項垂れている横で、ゾロは微動だにしなかった。ゆっくり顔を上げると、ゾロはかちんこちんに固まっていた。様子が変なので、立ち上がってゾロに近づき、手を伸ばすと勢いよく叩き落とされ、──ゾロはおれに一言。 「バカじゃねェのか!?」 何が馬鹿なんだろうとかなんでキレられたんだろうとか、考えるに値することはいくらでもあったはずなのに、おれはびっくりしてそれどころではなくなってしまった。そうして驚いている間に、ゾロはおれの部屋からダッシュで出ていってしまう。……真っ赤な、顔で。 なんというか……今のをおれのいいように解釈するとだな、おれが気を許しているという発言が嬉し恥ずかしくてあんな態度を取った、ということになる。それが恋慕から来るものか尊敬から来るものかはわからないが、決して悪い感情からではないはずだ。 「……追うか」 とりあえずは聞いてみるのがいいとして、尊敬から来るものであるようならば、おれからアプローチをすればいいだけの話だ。なんとなくだが、ゾロのことはわかった。──あれなら押せば落ちる。案外ちょろそうだ。 やめてくれはなしだよ ミホーク成り代わりで、ゾロが成り代わり主の気を引こうと頑張って、最後はその頑張りが報われるような話@匿名さん リクエストありがとうございました! |