ベックマンに憧れて、赤髪海賊船に乗り込みたいと言ってきた少年がいた。もうずいぶんと前のことで、その頃のシャンクスやベックマンはまだルーキーと言われる程度でしかなくて、キラキラとした目に当てられて覚悟があるのならと船に乗り込むことを許した。少年──ナマエはとても働き者だったし、手先が器用で、あと涙脆くてすぐに赤髪海賊団に馴染んだ。それからしばらくしてシャンクスが腕をなくしたときなんて人目をはばからず大きな声で泣き喚いたものだ。
 そんなたくさんの思い出を持ったナマエも、ずいぶんと大きくなり、少年は感じのいい青年になった。無駄のない筋肉と正確無比な射撃の腕、そしてへらりと笑うと八重歯が出るすこし幼さを残した顔立ち。それに加え、人と同調しやすい優しい性格に、気が付けばシャンクスはころっとやられてしまっていた。


「なあナマエ、おれのこと格好いいと思わねェか?」

「そうですね。お頭も格好いいですよ!」

「…………うちの副船長ベン・ベックマンの次に?」

「はい、ベックさんの次に!」


 きらきらとしたあの目は今も健在で、ベックマンを見るときだけ輝くのだ。その瞳を好いてはいたものの、向けられることのない瞳を追うのはなかなか精神的に来るものがある。すこしでもいいからおれに向けてくれればいいのに、と唇を尖らせたところで、自分に向いたときにはすでにそのきらきらはどこかに消失しているのだけれど。
 ナマエはひどく穏やかな目でシャンクスを見る。その目も勿論好きだったのだが、一度くらいはあのきらきらとした目を向けられてみたいと思ってしまうのが、男の性というものだ。


「寂しいもんだなァ」

「何がです?」

「船長なのに一番に見てもらえねェってこと」


 そんなもの今さらなのに、入ってから十何年も経ってから言うことではないと思いながらも口は止まらなかった。自分を見て欲しいという欲求はなかなか消えるもんじゃあない。注目され慣れているから余計かもしれない。ナマエの視線を独占したいと思うなんて。
 ナマエは不思議そうにほんのすこしだけ首をかしげた。何を言われているのかわからないといった顔だ。そりゃあそうだろう、乗せるときに言えよという話だ。シャンクスが悪かった忘れてくれと言ってしまおうと口を開きかけたとき、ナマエもまた口を開いていた。


「よくわかんないんですけど、お頭はお頭で一番ですよ。ベックさんの一番とは別の一番なんで」

「……そうなのか」

「あ、船長だから一番にしてるってのとはまた別で、なんかこう、お頭見てると胸がほっこりするっていうか安心するっていうか」


 ヒナの刷り込みみたいなもんですかねェと笑うナマエの目はやはり穏やかで、その目が自分を一番に見てくれるのだと知って、シャンクスの頬は微かに熱を持った。じんわりと熱くなった頬はおそらく色づいたのだろう。ナマエが八重歯を出していたずらに笑った。


「あ、お頭照れてるー」

「……うるせー」


 新たな発見もあったことだし、しばらくはまだこの関係のままでもいいだろう。朗らかに笑うナマエを見ながらシャンクスも穏やかに笑みを作った。

ベックマンに憧れてる主人公のことが好きなシャンクス@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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