おれは大変遺憾である。それもこれも上官である大将黄猿によるセクハラが原因だった。初対面でいきなり人のケツ触ってきたかと思えば、『オ〜なんかいい尻してたから』だのなんだのと訳の分からないことを言われて正直肝が冷えたものだが、今では本当にいい迷惑でしかない。そりゃな、最初は大将にケツ狙われてる? おれの貞操危うい? 逃げ出していい? とか思って怯えてたけど、そういうんじゃなくてただ単におれのケツの形がいい形だな〜と思って触っているだけらしいと知ってからはただひたすらうざかった。
 大将だけでも厄介なのに、大将がやるから他のやつらも真似して人のケツをバンバン触ってくるのである。悪乗りしたやつなんか『へっへっ、おいねえちゃんいいケツしてんじゃねえか』などとふざけてくるものだから即行で鉄拳制裁した。大将は上官で明らかにおれより強いからそういうことできなかったんだが、ついにおれの堪忍袋の緒が切れた。
 なんでかって? おれが好きになった給仕の女の子が『ナマエさんって大将黄猿とお付き合いなさってるんですよね』っていう盛大な勘違いをぶちかましてくれたからだよ。何度否定しても彼女の中では事実となっているようで、何を言っても聞いてくれなかった。もうあれはだめだ。っていうかどこ行ってもダメそうつらい。


「と、い、う、わ、け、で、す」

「いや、ごめんねェ〜本当」

「謝る気ないでしょう、大将」

「あ、バレちゃったかァ〜」


 あははと朗らかに笑っている大将黄猿が三大将の中で一番まともとか言ったのどこのどいつだよ、前出ろ、おれが殺してやる!
 それくらい殺意の波動に目覚めているというのに、大将はお構いなしに差し入れのお菓子を食べて笑っている。ものすごく腹は立つが、自分勝手なくせに悪意すらないので始末に負えない。この人、本当にまるっきりすこしも悪いって思ってないんだよなァ……。


「なのでおれがどれほど嫌な思いをしたかちょっくら身体にわからせてやります」

「ん? え?」


 おれの発言に驚いている間に、がちゃんと海楼石の手錠をかけてやればさすがの大将でもこれがどういう状況把握出来たらしい。今更かよ、クソ馬鹿ですね。
 詰るのは内心だけにしておく。これからすること考えたらクビが飛ぶかもしれないので言ってやってもよかった気がするけど、余計なこと言ってクビがより確実なものになるのを避けたいというクソ小心者としては正しい判断だったと思う。


「ナマエ〜、あの、これは」

「わからせてやる、と言いましたよね。セクハラし返します」

「えっ」

「言っときますけど! おれだって好きでおっさん触るわけじゃないんですからね!」


 言い訳になるかもわからない言葉を吐き捨てて、ぺたぺたと大将の身体に触れていく。あー、なんだろう、やっぱ身体の出来が違うよなァ……もうちょっとおれも鍛えねェとダメだな。
 真面目にそんなことを考えながら胸筋だの腹筋だのを触っていると、「そんなとこ普段触ってないでしょうが!」と批判を浴びた。恥ずかしいからそんなことを言ったんだろうけど、ともすればそれはケツを触れと言っているようなものだと気がつかないらしい。アホかよ。


「ははははは、大将ケツ触って欲しいんで、……」


 すか、と続くはずだった言葉は喉の奥に引っ込んだ。サングラスの奥の瞳はわずかに潤みせわしなく動き、ほんのりと血色がよくなって、息がか細く吐き出されている。正直に言って色っぽかった。男にそんなことを思ってしまった自分が嫌で、思いきり大将の身体を反転させてケツをわしづかむと「ひっ」と声を上げながらびくっと大将が震えた。
 今おれ、大将のこと可愛いって思っちゃった……やだもう死にたい……。大将にダメージを与えるはずが、おれへのダメージの方が大きいってどういうことなの? ケツから手を離し、うなだれながらもう一度大将を反転させて海楼石を取るとなんとも言えない空気が部屋には流れた。大体おれのせいです。


「……いいですか、こんな目にあいたくなかったら、もう二度としないでくださいね」

「わかったよォ〜……悪かったねェ」

「いえ……それじゃあ……」


 気まずくなりながら部屋を出て数日後、いつものように船で会い、しばらく航海していたら大将にケツを触られた。『あ』って顔をしてたから多分ほぼ無意識だったんだと思うが、おれは顔を引き攣らせて大将がひとりのときに部屋を訪れて「なんなんすか? そんなにおれに触られたいんすか?」と半ばキレ気味で言った。
 おれが大将のあの姿を思い出して悶々としてたことなんか当然知らないだろうが、おれはかなりつらいのである。おっさんをオカズに抜きたくなんかない。あの反応にうっかりほれてしまったなんて思いたくない。だから極力接触して欲しくはないのだ。
 だというのに大将は「そんなことないよォ!」と自分の姿を思い出してかほんのりと顔を赤くして言ってくるものだから、ああああああああもう!!!

セクハラしてくる黄猿にセクハラし返したら可愛い反応されて惚れちゃう海軍主@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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