サッチは白ひげ海賊団の中で結構な古株である。それもそのはず、幼少期からこの船に乗り込み、人生のほとんどの記憶がこの船の中というのだから驚きだ。おれも似たようなものだったがサッチとは十歳以上年が離れているため、言うほど古株でもなく、だからといって新しく入ったとは到底言えないどちらかと言えば古株という妙な立ち位置だ。
 それが気に入らないなんてことはない。それだけオヤジと一緒にいられたということは素直に嬉しいし、これからもずっとオヤジと一緒にいたいと思っている。だけど、そう、だけどという言葉がついてしまう。
 だってサッチは面倒見がものすごくいいから、入ってきたやつに対して誰も彼も面倒を見て可愛がってしまうから。もう末っ子じゃないおれは構ってもらえない。


「寂しくってさァ、おれずっと末っ子でいたかったなァ……」

「グラララ! お前の態度は末っ子そのものじゃねェか!」

「そうかなァ、結構おれ強くなったし前線出てるよ?」

「そういう話じゃあねェんだよ、甘ったれ坊主」


 サッチに構ってもらえなくて寂しいという愚痴をオヤジの膝の上でしていたら、オヤジは上機嫌に笑ってくれたからすこしだけ寂しさも緩和された気がする。ぐりぐりと頭を撫でてくれると心地よくてオヤジの膝の上でこのまま寝てしまおうかなァ、という気になる。そんなときに限って誰かの声が聞こえてきた。だがもはやおれの目蓋は上と下がなかよしこよしだ。おやすみぐっない。


「こら! オヤジの上で寝る馬鹿がどこにいんだよ!」


 ぱこん、と頭を叩かれて目を開ければそこにはサッチがいた。どうやらオヤジいわく甘ったれ坊主のおれを見つけてこっちに来てくれたらしい。嬉しい反面おれはすごく眠くなってしまっていたので、むっとした顔でサッチをにらんだ。


「ここにいるしー、オヤジもダメって言ってないしー、こうなったのはサッチのせいだしー」

「は? おれのせい?」

「うん、そうだよ。ねー、オヤジ」

「そうだな」


 グラララとまたオヤジの笑い声が聞こえてきて、なんだかやっぱり眠くなってきて目を閉じようとすると、ばこんと今度は強めに叩かれた。暴力反対。これはドメスティックバイオレンスというやつではないですかね?
 睨みをきかせるよりも早く、サッチがおれを引きずり下ろした。オヤジが笑いながらおれたちを見ている。助けてくれてもいいのになァ。ひらひらと手を振るとオヤジも手を振ってくれた。もうほんとオヤジ好き。


「で? 何がおれのせいなんだ」


 人を引きずるだけ引きずっていった食堂で、眉を下げて困ったような顔をしてサッチがそう言った。この顔を見るとやっぱりお兄ちゃんなんだなと感じてしまう。問題はおれだけのお兄ちゃんじゃないってことなんだけど、でももし誰かだけのお兄ちゃんだったらそれはもうサッチじゃないんだろうなァとも思うわけで。
 「難しいなァ……」とつぶやけば、「おい話聞いてんのか」と怒られてしまう。それでもサッチの顔はそんなに怒っていない。


「いやね、サッチが構ってくんないからつまんないって話」

「……は?」

「だからオヤジに構ってもらってたの。オーケー?」


 言えば、サッチはきょとんとしたあと、腹を抱えて笑い始めていた。ひどい兄貴分である。すごく傷ついたからオヤジの膝の上で寝るしかない。そうすることでしかおれの傷は癒されないだろう。椅子から立ち上がろうとすると、隣に座っていたサッチがおれの肩をぐっと押してまた座らせた。


「まあまあ、そう怒んなって」

「あん?」

「仕方ねェから構ってやるよ! ったく、お前はいつまでたっても甘えん坊だな!」


 おれの髪の毛を撫で回しながらでれっとした顔をしてくるサッチは、なんだかとても嬉しそうだった。その顔を見てるとおれまで嬉しくなってくるからさきほどの大爆笑については忘れることにして、ごろりとサッチの膝の上に頭を乗せて寝転がった。


「なんだ、構ってくれって言ったわりに眠いのか。ほら、部屋貸してやっからそれまで起きてろー」

「んー……サッチ運んでー……」


 本当に甘え上手なんだから、というサッチの声を聞きながら目をつぶったおれには、周りのさっさとくっつけイチャついてんじゃねえという見当違いな野次は聞こえなかった。

みんなのお兄ちゃんサッチと独占したい主人公でお願いします!@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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