「いい加減にしろよ、てめェ……ぶち殺すぞ」


 ユニコーンというのは気性が荒く、その美しい角で躊躇いなく突き刺す獰猛さと勇敢さを持つのは知っていたがこれほどまでとは。ドフラミンゴはニンマリと笑みを作って男を見た。オペオペの実には遠く及ばないが、ユニコーンの血は延命できる秘薬なのである。
 生け捕りにして自分の手元に置いておきたいと考えてはいたが、相手は本物のユニコーンではなくウマウマの実の幻獣種モデル“ユニコーン”を食べた海軍将校なのでそうもいかなかった。しかも大将たちとほぼ同期で仲がいいというのだから余計に手に負えない人材である。
 だからこそ、ドフラミンゴは正面からお願いしたのである。──血をくれ、と。それを怪訝な顔をして断った正統派の美形がキレるまでにそう時間はいらなかった。


「しつけェんだよ、どてっ腹に穴開けてやろうか? ア?」

「フッフッフ、いいじゃねェか! 献血だと思ってわけてくれりゃあよ!」

「おれはなァ、自分の価値はわかってんだよ。誰がてめェなんかにやるかってんだ。とっととおれの前から消えろ」


 相当機嫌が悪そうなその男──ナマエは、海兵として一応七武海を殺すのはまずいと思ってはいるようだ。そうでなかったら今にでも殺しそうなギラギラとした目のままドフラミンゴを見たりはしないだろう。その目を見ていたら、ついつい唇が笑ってしまった。なんて海兵に似合わぬ男だろうか。


「じゃあとりあえず血はいいさ。だからナマエ、うちに来ねェか?」

「ああ? 海賊風情が何言ってやがる。お前におれはもったいねェ……次くだらねェこと言ってみろ、容赦なく腹ァ狙うぜ」


 ギラギラギラギラ。とても海兵とは思えぬ殺気を振りまいて、ナマエはにやりと笑っている。これは怒りから来るものだ。意外とナマエとドフラミンゴは似ているのかもしれない。そんなふうに思ってもう一度笑みを作り直した。ドフラミンゴはユニコーンについてはよく知っている。勿論、彼の弱点となりそうなこともだ。


「うちには正真正銘、疑う余地のない処女がいるぜ」

「……あ?」


 ユニコーンにならず突き刺してもこない時点で、ナマエにとってこれは有用な情報であるということだ。そう、ユニコーンという種族は処女に弱い。処女の前ではその獰猛さをなくし、穏やかになるのだ。ドフラミンゴは笑みを崩さぬまま話を続けた。


「見た目は少女というかガキだが、美人だぜ。ファミリーで大事に育ててきたからなァ、お目にかかれるやつはファミリーの連中だけだ」


 ぴくりとナマエの身体が揺れるのがわかった。話だけ聞けばどう聞いてもロリコンで危ないやつだが、それがユニコーンという生き物の運命だ。もはや変えようもない性癖である。むしろ海兵であるのならその性癖にはかなり苦しんだことだろう。一般の女と付き合える機会も少なく、周りにはこどもなどいるわけもなく、相手をしてくれる可能性があるのは商売女程度。ユニコーンにはなんとも生きづらい世界である。
 さあだからこっちへおいで、と招いてみれば案の定ナマエの心は揺れているようだった。そんなに処女が好きだというのならその血の効力にも利用価値は高そうだ。そんなことを考えているうちに、ナマエはゆっくりと首を振った。


「信憑性に欠けるから却下」

「フッフッフ、残念だ」

「でも本当にいるのならお目にかかりたいのもまた事実」

「ん? じゃあドレスローザへ来い、会わせてやるぞ」

「どうせ交換条件があるんだろ?」


 すこし落ち着いたらしいナマエは言葉とともに息を吐き捨て、背を向けて歩き出してしまう。どうにも時間を与えすぎて冷静になってしまったらしいことがわかって、ドフラミンゴは今日のところは諦めることにした。ここまで生き残っている海軍将校が突然死を迎えるわけもなく、ユニコーンの生死は気にする必要はないだろう。となれば、あとは手に入れる算段を立てるのみである。あの目の奥にくすぶっている本性は、まぎれもなくこちら側のものと同じだ。引きずり込むのは、そう難しくない。ドフラミンゴはゆるく手を振ってナマエの背中を見送った。

ウマウマの実幻獣種モデルユニコーンな男主とその血を狙うヴォルデモート卿()なドフラミンゴ@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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