ハーピーという伝説上の生き物がいる。ハルピュイアとも呼ばれ、上半身は女性体、禿鷲の羽根と鷲の爪を持つとされている。神話上の生き物とも言える。悪魔の実があるとしたら間違いなく幻獣種──なのだが、どうしてだかマルコの目の前には今そのハーピーらしき生き物がいる。


「なあ、なあなあ、お前可愛いなァ。おれと番にならないか?」


 しかもおそろしく頭の悪い口説き台詞付きでだ。こいつの頭は腐ってるんじゃあないだろうか、と思ってしまった。鳥頭とはまさにこのこと、かもしれない。あまりにも馬鹿らしくなって迂回しようとしてもどうしてか付いてくる。とかく速い。とかく小回りが利く。とかく……このハーピーに似た何かは飛行技術において自分より勝っているらしかった。
 たてがみのように靡く艷やかな髪。利発そうに見える顔は美しい。曝け出された胸は大きく形もいい。ばさんばさんと大きな音を立てる腕は美しい立派な羽根を持っている。脚も力強い猛禽類を彷彿とさせるものだったが、美しいと思わされる。
 だがしかし。相手はどこからどう見ても人間ではないのである。さきほど海の中に足を突っ込んで魚を取っていたから悪魔の実ではないのだ。確実に化け物の類だった。


「悪いが他をあたってくれねェか」

「そうつれないこと言わないでさ、いいだろ。お前番いないんだろうし」

「失礼なこと言ってくれんじゃねェか……言っとくがおれは選り取りみどりだ。お前なんざ選ばねェよ」


 勝手に話を始めておいて失礼なやつである。マルコはこれでも名高き海賊。嫁でなくとも一晩の相手でもいいからと思う女など数知れない。美人だとしても何が楽しくて鳥女など抱かなくてはならないのか。
 そうでなくともマルコは偵察の途中である。そろそろ船に戻りたいのだがこんなものを連れて船に戻れるわけもない。しかしそれにしてもどうにもこうにも引き離すことはかないそうにない。……敵意がないのなら、連れていっても構わないだろうか。いやしかし……。


「まァお前、美人だもんなァ。おれじゃなくても相手はいるだろうな」

「なら、」

「それでもお前、いないんだろ? ならなんか問題があるんだ。安心しろ、おれがもらってやるから」


 こいつ話を聞かねえタイプの面倒なやつだ。そんなことを思っても言っても伝わらないのでマルコの頭は痛みを訴え始めた。
 そうこうしているうちに船が見えてきた。ヤバい、と思っても、時すでに遅し。この距離ならもう旋回しても意味がないだろう。敵意がないのなら何もしないでどうにか説得して帰ってもらう他ないのだ。
 船の上でわあわあと言う声が聞こえたが、マルコは人間に戻りながら構わず甲板に着地した。振り返ればハーピーが驚いた顔でマルコを見ていた。


「マルコ!? なんだそいつ!」

「悪魔の実の能力者か!?」

「いや、海に脚入れてもなにも起きなかったよい」

「ってことは……化け物ォ!?」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ船を見つめたまま、化け物ことハーピーは動かない。警戒し始めた連中も何かがおかしいと思ったらしく、こそこそとマルコに話しかけて来たものの、マルコにだってどうして固まったかなどわかるはずもない。
 そのうちに周りが「よく見るとすげェ美人じゃね?」「うわおっぱいでけェ」「足もなんかエロくね?」などと馬鹿なことを言い始め、このまま放って置いてもいいか、とマルコが考え始めた頃、ハーピーは羽根を使って器用にマルコを指差した。


「さっきまでの不死鳥ちゃん……?」

「ああ」

「人間?」

「そうだな」


 ハーピーはそれを聞くと絶望しきった顔で思いきりため息をつき、マルコから視線を逸らした。そうして何度も首を横に振り、ゴミを見るようなひどい目でマルコを見下ろしていた。さっきまで熱っぽい目をして追いかけてきたものとは思えない変わりように、本来なら喜ぶべき立場のマルコもカチンときた。


「人間とかねェわ。しかもオス……ねェわ」

「あ? 勝手につきまとったのはてめェだろうが」

「不死鳥ちゃんのときはある意味メスじゃん……ねェわ」

「え」

「え」

「え」

「え?」


 ハーピーは衝撃の発言を残して「じゃあおれメスか何か探しに行くから」と深いため息をついて去っていった。不死鳥は単性で生死を繰り返すことによって幼体にもどるのだからある意味メスだと言ったのはわかっていたが、それを説明してもわからぬものばかりが船に乗っているため、周りからのあまりの空気にマルコはすぐに耐え切れなくなった。そしてハーピーを追いかけるべく空に飛び立ったのである。

ハーピーに求婚されるマルコ@匿名さん
リクエストありがとうございました!



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -