「ジャック、ベビー5を手伝ってやれ」


 ハロウィンパーティーをするために支度をしていたとき、不意に帰ってきたジャックに若様がそう言ってしまったものだからジャックは「アイアイサァ、コモディン」だなんて若様に返事をしてふらふらと私の方へ歩いてきた。ジャックからは血腥い臭いが漂ってきて、パーティー会場にはとても似つかわしくない不潔な状態であることがすぐにわかった。
 「とりあえずシャワーを浴びて清潔にしてからにして」と私が突き放した言い方をすれば、ジャックはふらりと消えてしまった。もう帰ってこなければいいのに。そんなふうに思いながらも絶対にそんなことはないとわかっていた。ジャックという男は若様の言葉を裏切ることがない男だ。必ずや戻ってくるだろう。
 ため息をついてジャックについて考える。ジャックは性格の歪んだ男で、随分と昔から若様と一緒にいて、いつも笑顔で、ジャックというのはファミリーの皆に与えられたコードネームと同じで彼の本当の名前ではない──ということしか私は知らない。好きなものも嫌いなものも普段何をしているかも、よく知らない。貼り付けたような一ミリも変わらない笑顔が不気味でたまらなかった。彼からは暖かみを感じないのだ。まるで人間ではないかのように。
 そんなことを考えていたくなくてカボチャに細工を施していく。上部を切り離し中身を書き出して目や口を切り抜く。あとは乾かせばいいというところになったところで「ふゥん」という声が後ろから響いた。驚いて振り向けば笑顔のジャックがそこにいた。


「い、いたなら声をかけてよ」

「悪い悪い。それにしても上手だなァ、そのカボチャ」

「別に、そんなこともないわよ」

「おれも昔はカブで作った」

「カブで?」

「ああ、こんなふうになァ」


 差し出されたカブの飾り物に思わず「ひっ」と悲鳴が出る。ジャックの作ったものがあまりにも精巧でおどろおどろしいものだったからだ。サイズも人の頭ほどであり、落ち窪んだ眼窩や窶れた頬まで要らぬ再限度を誇り、生首にしか見えぬリアルさがある。カブが薄汚れていて土気色した死体のような色合いをしているから余計だろう。


「ヒヒヒ! 驚いてくれて何より何より」


 ハロウィンという行事を考えれば間違ってはいないのだろうが、こうして人を驚かせて喜んでいるところを見るとつい苛立ちを感じてしまう。食欲を減退させるようなそれをテーブルの上に飾ろうとしていることに気が付き、ジョークにしても度が過ぎていると注意すればその生首もどきは私へと差し出された。


「じゃあ特別にベビー5にやろう」

「……いらないわよ、そんな気味悪いの」

「ンン? ンン、ああ、そうかそうか。ヒヒヒ、お前知らないな?」


 覗き込むようにして笑ってくるジャックは、生首もどきよりもよほど気味が悪かった。その上にいい気になっているようでジャックはひどく上機嫌だ。ジャックにしろその質問にしろ、何がなんだかわからぬものというのは、総じて気分の悪いものである。ジャックは私がキツい視線を向けても上機嫌のままに答えを告げてきた。


「こいつは迷わぬよう道を照らして、善良な霊を引き寄せ悪霊を遠ざけるんだ」


 あまりにも意外なことを口にするものだから呆気に取られた。しょうもない悪戯で人のことを驚かすジャックがまるで私のためにとでも言いたげな言葉を告げてきたのだから変な顔をしてしまう。そんな私にジャックはカブを押し付けてくるものだから、慌ててそれを押し返した。


「それでもそれはいらない!」

「ヒヒヒ、そりゃあ残念だ!」


 嫌われちまったなァ、とカブに話しかけているジャックは気色悪いを通り越して心配になる。大丈夫かと目線を向けているとジャックがぐるりと振り向いて「お前に神のご加護があらんことを」と言った。
 そのときのジャックは、普段の意地の悪い笑顔とは違ってひどく穏やかな顔で微笑み、私の頭をゆっくりと撫でてくる。子供扱いしないでとその手を振り払いたかったのに、どうしてか心地よいその手を振り払うことはできなかった。

ジャック・オ・ランタンを作るベビー5を見守りたい@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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