原作知識持ちふたなり成り代わり主のため、苦手な方はブラウザバック推奨です。


 生まれ変わった、と自覚したのは、連れてこられた場所を見覚えのある情景だと思ったときだった。似たような男たちが闊歩していて、似た顔の四人の子どもがいて、そのうちの一人がいじめられていて。

 何とも馬鹿らしい光景。現代日本人ならまず声を大にして、いじめだ虐待だと通報される状況。

 現代日本なら? と思ってからは一瞬だった。生まれ変わった。北の海だ。そしてここは──ヴィンスモーク家。
 なーるほど。おれがここに連れて来られた理由も理解した。いわゆるおれは両性具有という状態である。要するに? ……おれはもしかしなくても、検体、だよね?

 あ〜〜〜!! 気づきたくなかった!!
 多分じゃなくて間違いなく両親に売られてる!!
 でもある程度まで育ててくれたし、呪われた子だって殺されなかっただけマシなんだよなぁ!?
 サンキュー両親! ファッキュー両親!

 そしておれはジャッジ……サンジの親父さん、ヴィンスモーク家の当主、つーか国王の下へドナドナされた。

 というか待ってくれ……?
 おれの名前はコゼット……。前世的には最近読んだばかりだから覚えているが、ニジにボコられる女料理長の名前も……コゼットちゃんではなかったかな……?

 ・
 ・
 ・

 あれから十数年、染色体異常であったことがわかったおれはそのまま居付き、前世の知識という下地がある分ジャッジさんの話し相手になったり、人間として問題ないとハンコを押してもらった恩返しに一生懸命働き、料理長になっていた。
 
 そうだよ、料理長だよ。

 ここまで行けばわかるな? やはりおれはあのコゼットちゃんだったようだ。サンジに料理を褒められて泣いて喜ぶコゼットちゃんだよ……。
 一応、もし本当におれがあのコゼットちゃんだった場合でも対処できるように、ニジとはなるべく仲良く……過ごして来たはずだ。多分、殴るようなことはしないし、多分、食事を残すような真似も……しないと思うんだよなぁ……?
 だから今日の朝食会にも呼ばれないは──


「コゼット! お前何した!? 朝食会に呼ばれてるぞ!」

「ほえぇ……?!」


 嘘じゃん。今まで出したことのないような声が出ました。お、おい、わ、わしはジャッジさんのお気に入りやぞ!? 殴る蹴るの暴行はよくない! よくないぞ!
 小物の思考のまま乱れている息を整えながら走り込み、思いっきり頭を下げる。一瞬だけ見えたが、ニジの皿は空になっていた。ニジはチョコレート食べ過ぎてたからちゃんと別メニューにしたんだよ。なに? なんで呼ばれた?


「お呼びと聞いて参上いたしました」

「きみが今日の飯を作ったんだよな!?」

「え? あ、はい……?」


 ニジは突っかかって来ない。興奮した様子でおれに話しかけて来たのは、サンジだった。お、おう? なに? どうしたの?
 混乱していると、サンジは続けざまに料理について褒め称えてくれる。こんなにうまいものを食ったのは久しぶりだ、という褒め言葉には、つい頬が緩んでしまう。


「えへへ……ありがとうございます」


 皆、当たり前のようにおれの飯を食ってるから、誰も褒めてくれないんだよね。同僚はうまいうまいと褒めそやしてくれるが、同僚たちはおれのことを親みたいな感じで客観的なものが若干薄い。いやね、まずかったらちゃんと言うけど、一定のラインを超えると全部「美味しいうちの子すごい!」みたいになっちゃうのね。それはちょっとやりがいってもんがないじゃない?


「それにこの肉、一体どこの肉なんだ?! こんな質のいい脂の豚は初めてだ!」

「気に入っていただけたようで何よりです。あの豚はメリゴー豚とダンダ豚を掛け合わせた新しい品種の豚になります」

「掛け合わせ!?」

「ええ! メリゴー種の脂の差し具合と、ダンダ種の後味のよさ。そのいいとこどりを実現した自慢の豚たちです。現在領地でも飼育中なのですが、見て行かれますか!?」


 ヴィンスモークの化学技術は本当に随一なので、ジャッジさんへの交渉の結果、おれも一枚噛ませていただいている。主に畜産業関連で。ジャッジさんは頑固なタイプではあるものの、まったく話が分からない人というわけでもない。息子たちに感情除去を行っている非人道的な男ではあるが、彼自身に感情がないわけでもないしな。美味いものは美味い。マズいものを食いたいとは思わない。そこらへんは問題なく、話がうまくいった。
 とはいえ、ただの与太話じゃジャッジさんも聞き入れてはくれない。もともとおれはこういう研究をしていた人間だったので、人体と動物という違いはあれどジャッジさんとの話は弾み、今に至るというわけだ。


「コゼットッ!!」


 サンジと食材の話で盛り上がっていたら、ニジが怒鳴り声を上げた。声が完全にキレている。なんでいきなり、とも思わないでもなかったが、基本的にサンジを下に見ているニジのことだ。そんなサンジを楽しませるために盛り上がっているおれが気に食わなかったのだろう。


「ニジ様……いかがいたしました?」


 恐る恐るというように振り返れば、テーブルを叩きつけるようにして立ち上がっていたニジの姿とイチジ、ヨンジ、レイジュさんがニヤニヤしていた。は〜〜〜もうヴィンスモーク家は本当に性格悪いな? レイジュさんはものすごい好みだから全然いいけど!


「お前は──」

「コゼット? 待ってくれ、あの、調理場にいつもいた、コゼットか? 一緒に料理したり、色々教えてくれた?」

「はい! そうです! 覚えていてくださって光栄です!」


 実はおれ、サンジが家出をする前には一番仲良くしていたり……する。いやな、ダメだってわかってたんだよ? 落ちこぼれと言われていたサンジに構ったら、怒られたり殴られたり、最悪捨てられたりするだろうからって。でもさ、現代日本人の知識を持つ人間がさ、DV受けてる子どもを見捨てられるか? 見捨てらんないだろ。
 というわけで、家出するまでは食料を運んだり、料理の知識を教えたり、一緒に料理を作ってアドバイスしたりした。さすがにメイドが嘔吐くような飯を弱っていた奥様に食わせるのはNGだと思ったからである。試作品食ったけど、いまだに思い出せるほど、もしかしてゲロかな? って感じの飯だった。特に謎の酸っぱさがやばかった。なんなのあれ。こわい。


「そうか……おれは、お前のことだけは気がかりで……」

「ご心配ありがとうございます。ですが、ご安心ください。よくしていただいております」


 ていうかまあ、よくしてもらえるように尽力したんだけど、サンジの過去に比べりゃあ大したことはない。七歳かそこらまで、地獄のような日々だったろうに、おれなんかを心配してくれるとは……。
 と思っていたら、皿が飛んで来た。ニジである。おれに向かってではなく、サンジに向かってきたそれは、難なく受け止められ、ギロリとした視線がニジに向かう。


「てめェ! 皿が割れてコゼットに当たったら危ねェだろうが!」

「あァ!? お前には関係ねェ! コゼットはうちの料理人だ! 婿に行くお前にはなァ、なんの、関係も、ねェ!!」


 会話の流れを遮ってしまったから気に食わないのだろう。ついでに仲良くしていたおれを虐げることでサンジに嫌がらせをしようという……。う、うーん……これもしかして殴られるコースかな? 場合によっては、出奔……した方がいいかも?
 このあとニジたちが改心するとはいえ、おれがジャッジさんの、国王様の命令に逆らってサンジと仲良くしていた過去は変えようのない事実であるわけだし……とはいえ、出奔しようにもトットランドじゃなぁ……。毎年寿命取られんのも、食いわずらいにどうこうされるのも面倒くさい……。


「コゼットッ! 来い!!」

「──はい!」


 意識を完全に向こうへやっていたが、ニジの声には反応できた。歩き出そうとするとサンジがおれの腕をつかんだ。心配そうな目をしていた。昔っから本当に、優しくって、できた人間だ。


「大丈夫、ありがとね、サンくん」

「……何かあれば叫べよ、コゼちゃん」


 小声で話し合えば、一層の金切り声でニジがおれの名前を呼んだ。ひっえー。腕と舌だけは勘弁してもらおう。

 ・
 ・
 ・

 ニジはあんな鋭い声でおれを呼んだわりに、部屋から出て腕を引っ張って歩くばかりで、何も言ってこなかった。これどこまで行くんだろうか? ……あれ、もしかして研究室にぶちこまれて検体コースとかじゃないよね? めちゃこわの三乗なんですけど。
 とか思っていたら、ぴたりと足を止めた。誰もいない場所を選んでいたのだろうか。ちょうど廊下には誰もいなかった。


「コゼット」

「は、はい」

「サンジと話すな」

「え、えっと……?」


 後ろを向いたまま何を言い出すかと思えば、サンジと話すな、と? あと三日ほどで結婚する気に食わない弟を孤独にさせようと……? それは大した意味のない嫌がらせだと思うんだが、どうだろうか。というか、一応おれ使用人だからサンジに話しかけられたら、答えなきゃいけないと思うんだよな。それもダメってことか? それに関してはあんまり守る気ないぞ。この先もう二度と話せなくなるだろうしな。


「サンジを見るな。サンジに関わるな。サンジと楽しそうにしてんじゃねェ」


 ん? ……ん? なんだ、この言い方。こんなのまるで、と考えたところで、返事をしないおれを訝しく思ったのか、ニジが振り返った。困惑の視線を向けると、眉間に深い皺ができる。


「何だその顔は……思うことがあれば言え」

「い、いえ、」

「言え」


 ひえ……壁ドン(ガチ)だ。今おれは少女漫画のような追い詰められ方をしているというより、青年誌で父親の借金返済をソープで行えと迫られる身寄りのない少女という追い詰められ方をしている。あまりにも顔が近くで、息がかかるほどである。
 言わなければ原作のようにボコられる可能性があるため、意を決して口を開くことにした。


「他の異性に目を向ける、こ、恋人を叱るような、お言葉でしたので……」


 言い切ってから言ってもこれまずかったのでは、ということに気が付いたら、壁ドンのドンが強化された。ひえ……顔の横の壁が凹んだよぉ……。
 お、怒ってるっぽい……。そりゃそうだよな、餌付けしただけのことはあって結構仲はいいが、あくまでもおれは使用人で相手は王族。しかも王族であることに誇りを持っているタイプだ。あれ? これやっぱりボコられるのでは……?


「は、はァ!? 馬鹿なこと言ってんじゃねェ! お前はおれの隣に立てるような身分じゃねェだろうが!」

「わかっておりますとも。ニジ様はいずれどこかの姫君とご成婚されるのでしょう」


 まあ、今回のことでレヴェリーにも呼ばれなくなるし、いつになるかなんかさっぱりわからんが、ある程度いいとこの子が宛がわれることには間違いないだろう。性格の悪くない子だといいね、と言いたいところだが、ニジの性格に合わせられる子がいいだろうから、性格は間違いなくきつい子になるだろう。


「ま、まァ、なんだ、妾くらいなら、別に構わねェが……」

「あはは、御冗談を。奥方様に嫌われてしまいますよ」


 冗談を言う程度には機嫌が直りかけていたニジだったが、おれのマジレスに気を害したように舌打ちをした。ええ……? どう返答しろってんだよ……。

「コゼット成り代わりでニジお相手、幼い頃からジェルマに仕えていてニジから執着されているが出戻ってきたサンジに良い顔をする主に激おこなニジ」のお話@匿名さん
リクエストありがとうございました!



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -