ミホークを無意識に誑し込むの続き


 もしかしてミホークがヤバいのではないかとナマエが気が付いてから数ヶ月。
 見て見ぬふりをしてきたナマエであったが、おそらくヤバい沼に足を突っ込んでいる模様だと判断した。

 例の拠点、シッケアール王国の跡地に連れて行かれて確信した、と言ってもいい。
 ナマエも知っている、原作通りの場所だったことはむしろ悪くないと言えた。自分のしていたことの影響を考えなくていいからだ。たとえ自分の部屋が隣のミホークの部屋と扉一枚で繋がっている部屋だったとしても、さしたる問題はないと言えた。

 だが、誰もいない王国跡で二人きりというのは、どうなのだろうか。

 ナマエは現代日本に生まれ、船乗りのスキルは低い。正確に言えば棺船を乗りこなすことはできるが、あれはミホークという戦力が乗っていてこそ成り立つ船であって、一人では隣の島に着くより先に魚に食われるのがいいオチだろう。そうでもなくても長く一緒に過ごしたミホークを、こんな場所に一人置いていくこともできない。そんな精神的にも物理的にも逃げ出せない、二人きりの滅んだ国という立地。


「……これはヤンデレ、監禁的な……?」


 勿論、そうとは言い切れない。ミホークはひ弱なナマエが誰かから害されないようにしまいこんでるだけで、誰かに取られないようにとか自分しか見ないようにとかそんなふうに監禁しようとしてるわけではないのかもしれない。
 仮に前者だとしてもお気に入りの玩具をしまい込む子どものような発想だが、後者なら最早目も当てられないほどなので気にしてはいけない。

 だが前者と思い込むには、やはり無理があった。ナマエが他人と接触しないように、誰もいない場所に放り込んだと考える方が自然なのだ。
 ナマエはコミュニケーション能力でどうにかなるため、たとえ誰かが害そうとして来てもミホークが助けに来るまでは自分でどうにか対処できるし、実際に今まではそうしてきたわけだ。
 ただそのコミュニケーション能力に伴い、ナマエには知人以上の関係の者が非常に多かった。食事や飲み会に誘われることもそれなりに多い。……要するに、ミホークはそれを嫌ったのではと、あの依存してほしいとばかりのドロドロに甘い瞳を思い出して、これは監禁なのでは、と思ってしまうのだ。


「ナマエ、飯ができたぞ」

「……おー、ありがとう。今行くよ」


 だがこの前とは違い、冷静な状態の今、ナマエの内側に広がるのは恐怖心ではなく、罪悪感だった。剣以外、何もできなかったような子どもが、ナマエのために……いや、ナマエを囲うために拠点を探し、内装を整え、様々なものを買い込んで生活できる環境を作り上げて、ナマエが何もしなくてもいいように色々なスキルを身に着けている。

 ナマエと出会った当初、ミホークには剣しかいらなかった。剣だけで満ちていた。それさえあればよかった。
 だというのに、ナマエという不純物のせいで、ミホークは本来必要もなさそうな料理の腕まで手に入れている。その分、剣に打ち込めば、ミホークはもっと素晴らしい何かになるかもしれないのに、ナマエが余計なことをさせているのでは、ないだろうか。


「……ナマエ、どうした」


 席に着いたナマエの顔色が優れないことを、きっとミホークは一発で見抜いてしまった。ミホークはコミュニケーションを取る気があまりないだけで、観察眼自体はとても鋭い。長く一緒にいたナマエの顔色を見抜くことなど余裕だったのだろう。
 何か言い訳をするべきか、それとも正直に言うべきか、迷いながら開いた口はすぐに言葉を発することはできなくて、ナマエはミホークに先手を譲ってしまっていた。


「おれとここに二人、暮らすのが嫌なのか」

「え? いや、そういうんじゃ、」

「何が不満だ。お前のためならおれは何でもできるぞ」


 ナマエが想像するヤンデレのようにつらつらと何かを並び立てるわけではなかったが、その瞳は以前見せられたドロドロの甘いものよりも一層に酷かった。爛々と輝いた瞳は、どこか危険な色を見せている。
 選択を誤れば殺されるのでは、と思わせるような瞳であると同時に、ナマエは今までの経験からミホークがナマエを殺すような真似をするわけがないとも思っている。病もうが何だろうが、ミホークがナマエを殺すわけがない。それだけは絶対の自信を持って言えた。


「そうじゃなくてな、色々してもらうのはその、申し訳なくってだな」

「おれがしてやりたいんだ」

「そう言われると困るんだが……その、なんだ、お前、剣が好きだろ? だから、邪魔したくないんだよ」


 おれがお前を支えてやりたいんだ──というようなことを言おうと思ったのだが、それよりも早く、ミホークが吠えた。犬や獣のような言い回しになってしまうが、本当に吠えたと言っても過言ではないほど、大きな声だったのである。


「ナマエが邪魔になるものか!!」


 誤解されたくない。おそらく、それだけの感情だったのだろうとナマエは思う。だがテーブルを思い切り叩きつけて立ち上がったミホークを前に、唇を引きつらせてしまったのは仕方のないことだった。


「お、おう……」

「……取り乱した、すまん」

「いや、いいんだけどな……?」


 いいんだけど、いいんだけど……。その先の言葉をナマエは言う気にはなれなかった。もし肯定されたらどうしよう、という些細な惑いからだ。だからナマエは曖昧に微笑んで、ミホークの作ってくれた食事と共に言葉を飲み込んだ。

 ──もしかしてお前、剣よりおれのこと好きなんじゃ。

ミホークを無意識に誑しこむの続きみたいな感じで、ミホークがヤンデレになって監禁する感じのお話 ミホークが主人公に尽くしちゃう感じ@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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