ほにゃらら禁止令(短編)の続編/下品な言葉がいくつかあります


 ローはあのあとすぐにナマエを追いかけたものの、ナマエの機嫌は損ねたままで不愉快そうな視線を向けられるばかりだった。数日が経った今も、船長としてローが話しかけるならまだしも私用で話しかけようとすると、不機嫌な顔を隠そうともしなかった。
 このままではいずれ破局するかもしれない。そうなればナマエは有無を言わさず船を降りてしまうだろう。自分の事情よりも船の中の空気感を優先するような男なのだ。船を降りてしまえば恋人に戻る機会も失われてしまうことだろう。となれば、本格的に関係がこじれる前に改めて話し合う必要があるため、ローはナマエを呼び出すことにした。

 ナマエは未だ不機嫌そうな顔ではあったが、ローの呼び出しにきちんと応え、船長室までやって来た。セックスのときやあのときのように部屋に鍵をかけることはしなかった。いつでも出ていくぞ、という意思を感じてしまって、ローの唇はほんの少し引きつった。ローがあの日のことを謝ると、ナマエは眉間にくっと皺を寄せて、余計に表情を厳しくさせてしまった。


「……キャプテン、おれが怒ってる理由、わかってねェだろ」


 言われて、ローは首を傾げた。怒っている理由なんてわかりきっているではないか。ローが馬鹿みたいに盛っていることが原因だろう。性欲が薄いナマエにはローの遅れて来た思春期真っ盛りの脳内快楽物質についていけないという話のはずだ。


「おれが欲に忠実過ぎるって話だろ」

「そうじゃねェ。ガキみてェに盛ってんのはこの際構わねェよ。好きなやつに求められて、おれだって嫌なわけじゃねェ」


 意外だった。嫌よ嫌よも好きの内とはこのことか、と思わず思ってしまうほどには。ローに喜色が浮かんだことがわかったのだろう。ナマエは顔を顰めて「限度はあるがな」と釘を刺してくる。ローのは度を越していると言いたいのだろう。
 ナマエはため息を一回、それからローの顔をまっすぐに見た。怒りはほんの少しだけ薄れているような顔をしていた。


「おれが怒ってんのは、キャプテンがすぐ浮気しただのと騒ぐことだよ」

「……悪かった」


 浮気してもいないのに疑われたらそりゃあ気分も悪いだろう。それに関してローは自分が謝っていなかったことを思い出し、素直に謝罪する。


「それがわかってねェって言ってんだよ」


 だがナマエはローの謝罪が気に入らなかったようで、切って捨てるようなことを言う。そんな態度を向けられて謝罪している側であるローも、ついムッとしてしまう。
 謝ったじゃねェか。何が悪いんだ。──怒られた子供が逆ギレするかのような感想を持ってしまった。いや違う、これではまるきり子供なのだ。すぐに浮気だなんだと騒いで、時間を奪って自分に縛り付けようとして、恋愛なんて呼べるほど上等な行いではない。ローの妬心は子供染みた杜撰なものだった。


「頭いいくせにこういうときばっかり察しが悪いな」


 黙り込んだローに、ナマエはもう一度ため息をついた。愛想を尽かされても仕方のないことをしている自覚があるだけに、ローは言葉を紡げなくなる。思わず視線を下げる。顔を見ていたら、何かとんでもないことを言ってしまいそうな気がしたからだ。


「おれがキャプテンのことどれだけ好きかわかってねェって言ってんだよ」


 要するに、ナマエの言いたいことは──どうしておれの気持ちを疑うんだ、おれはこんなに好きなのに、ということだ。まさか。思い切り顔を上げて、ぽかんと間抜けな顔を晒してしまった。


「だから、その、気持ちを疑われんのはいい気分しねェってことだ」


 言いながら頭をガリガリ掻いて、目線は明後日の方向で、頬はほんのり赤く色づいていて。見たこともないナマエの姿にローの口角は吊り上がった。
 どうやらナマエは思いのほかローのことが好きでたまらないらしい。浮気に対して苛烈に反応するローではあるが、正直に言ってしまうとローに対する気持ちを疑っていたわけではない。身体を繋ぐのと、好きになるのは、ローの中で全く別物である。ただ好きな相手とした方が飛びぬけて気持ちがいいし、所有欲が強いからナマエを独占したいというだけで。


「ふうん、なら安心させるためにもお前から誘ってくれてもいいんだぜ」

「キャプテンが誘う回数減らしてくれねェと無理だろ」


 それはローが我慢すれば、ナマエから襲ってくれるということだろうか。とてもいい案だが、残念ながらローには堪え性がない。手に入れるために我慢することはできても、手に入れたものを我慢する必要は感じられないのだ。できるだろうか、と頭を捻っていると、ナマエからわざとらしい咳払いが聞こえて来た。


「……あのな、どっちにしても、しばらくセックスはしねェからな?」

「いや待て。治ったかどうか確認しねェとまずいぞ」


 人はそれを口実という。ナマエは首を横に振って、ローの提案を拒否した。


「気分が乗ったときに自分で見るからいい」

「その場に医者がいてもいいだろ」

「医者の顔でいられなくなるくせによく言う」


 恋人のオナニーシーンを見せられて平静としているのならそれはもう不能なのではないだろうか?
 そんな顔をしていたら、深い深いため息をつかれた。けれどナマエの瞳に剣呑な光はなく、いつものように穏やかに、仕方ないやつだと笑っていた。

“ほにゃらら禁止令”続編で仲直りしようと頑張るローさんをお願いします!@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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