皆様方、ハロウィンと言ったら何を思い浮かべるだろうか。

 おれは仮装──もとい、コスプレである。現在某海賊のてっぺんを目指すような漫画の世界に来てしてしまったとは言え、こちとらバリバリの現代人、しかも日本人だ。ハロウィンなんてもんは格式ばった昔からある行事ではなく、コスプレしてバカ騒ぎするだけのイベントである。

 なんの因果か落ちた先で七武海の一角に拾われ気に入られ男同士なのに恋人にまで成り上がってしまったおれは、戦闘能力は皆無であるものの恋人に対し何をやらかしたとしても殺されない程度に愛されていると思う。
 いや、もちろん裏切って海軍に情報垂れ流したり、他の七武海に本拠地責めさせるようなことをすれば殺されるかもしれないけど、そんなことはしないのでおれの命はきっちり保障されている。安心安全だね!

 なので、おれは恋人にコスプレさせるというチャレンジをしようと思う。

 機嫌が悪くてもぶん殴られる程度で済むだろうし、顔面が腫れるくらいで済むように手加減はしてくれるから、当たって砕けろ精神でやってみるのが大切だ。
 リスクも負わずにリターンがあると思ってはいけない。覚悟を決めて、いざ恋人の執務室へ。もちろんマナーは守り、ノックをして、返事があってから入る。扉を開けて覗き込むと相変わらずダンディな恋人は葉巻をくゆらせてお仕事をしていた。室内には一人。これならやれる。中に入って扉を後ろ手に閉め、ご機嫌をうかがう。


「へいダーリン、今お暇?」

「気色悪い呼び方しやがって……いったいなんの用だ」


 機嫌の悪そうな顔でこっちを見てくる我が恋人──クロコダイルだが、これは圧倒的デレモードだ。気色悪い呼び方だと言うくせに、やめろとは絶対に言わない。対外的に嫌がっている自分を演出しているだけで、おれが好き好きアピールをやめると無言で怒るのだ。なんというツンデレ。可愛すぎかよ。おれを殺す気?


「単刀直入言うと、これを着けてほしい」

「……なんだそれは」


 クロコダイルはおれの持っていたものを見るなり、怪訝そうな目で睨んでくる。だが決して生ゴミに湧く虫を見るような目ではなかったので、案外行けそうな気がしてきた。駆け寄って押し付けるようにクロコダイルの手に握らせる。ニコニコしているとクロコダイルはとても不快そうな表情を作った。作ったが、作っただけだ。
 深いため息をついたクロコダイルは、ものすごく渋々、お前がどうしてもっていうから仕方なくというスタンスで、おれお手製の猫耳カチューシャを着けてくれた。そんなどうしてもって言ってないけどね、とか、本当におれのこと好きだなあ、とか言えることはいくらでもあったはずなんだけど、脳がビビビッと来た刺激を受け取ったら出る言葉は一つだけだった。


「んあ゛〜……! かわいい……! ぎゃんわいい〜……!」

「……お前の目は腐ってやがる」

「はあ!? そんなことない!! クロコダイルがこの世で一番かわいくてキュートでプリティでたまんない生き物なんだよ!! みんなはそれに気付いてないだけなんだよ!! あっでもダメ!! 気付いちゃダメ!! おれ以外には知られたくないっ!!」


 思いの丈をぶつけるべく言葉を吐き出していると、つい手まで動いてしまった。バンバンとクロコダイルの執務机を叩き、熱のこもった力説をぶつける。
 そんなおれにクロコダイルは葉巻の煙を吐き出してくる。まるで気の強い黒猫の女王様に馬鹿にされてるみたいで、著しくおれは興奮した。興奮しすぎて逆にローテンションになってしまうほどに興奮した。とにかく興奮したのだ。


「ああ゛〜……もうダメ可愛すぎてこれは事案……捕まっちゃう……」

「相変わらず意味がわからねェし気持ち悪ィな」

「ありがとうございます! 我々の業界ではご褒美です!」

「変態はお前一人で十分だ」


 貶しているようでクロコダイルは完全にデレている。お前以外にそんなやつはいらない、イコールおれのことは認めてるってことでしょ? ああもう渾身のデレで心臓が持たない。もしかしてクロコダイルっておれのこと殺そうとしてる? クロコダイルに悶えたことが死因……いいな。クロコダイルとしたいこと色々あるし、今はまだ困るけど最期がそれなら本望だよね!?
 おれが脳内で興奮しっぱなしなことに気が付いたのか、クロコダイルは冷たい目でおれを見ながら葉巻を灰皿へと押し付けた。


「仕事するから戻れ」

「わかった……お仕事中ごめんね、ありがと……今日の夜はにゃんにゃんプレイしようね……尻尾も用意しヘブッ!」

「馬鹿なこと言ってねェで早く戻れ」


 外したカチューシャでおれの顔面を殴るだけで済ませてくれたクロコダイルはとても優しい。もしクロコダイルがおれの世界に来ていたら、恋人同士であってもセクハラで訴えられて負けそうな内容なのに……。
 心が海原のように広いクロコダイルに感謝しつつ、おれは部屋に戻ることにした。嫌だとは言わなかったからクロコダイルは尻尾もつけてくれるだろう。となれば話は早い。クロコダイルがいつ来てもいいように尻尾の準備しなきゃ……!

ハロウィンなのでクロコダイルにネコ耳をつけてみた@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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