アイゼルネ・ユングフラウ番外編


 ほっぺにちゅー? なんのことかわからんな。

 というわけで本部ではハロウィンに仮装パーティーが行なわれることになった。どういうわけだって? こまけぇこたぁいいんだよ!
 仮装パーティーになったのはまあなんだ、下っぱからの声がメインだった。可愛いナマエちゃんに違う格好してもらいたいってだけの話らしい。上層部もいいんじゃねってなったようで……それでいいのか海軍本部。


「で、衣装を決めなきゃいけないんですよね〜」

「思いっきり期待を裏切る格好してやればいいんじゃない?」


 相談してみたところ、クザンさんは本日もおれ以外の部下を思いやる気持ちがないようだ。正直おれはコスプ……仮装なんてどうでもいいんだけどな。人がしてるのを見たりするのは楽しいけど、何かになりきってやるのは実年齢的にも気恥ずかしいものがある。
 性的な意味でのコスチュームプレイやらイメージプレイなら大歓迎なんだが、生憎相手がいないのでおれの性癖はただただしまい込んでおくだけになることだろう。さすがに仮装した上司や海兵さんたちを見てハアハアするのは間違っているような気がするし。


「裏切るって例えばどんなですか?」

「うーん……」


 少し考えていたクザンさんだったが、間があいたかと思ったら、驚いたような表情でおれを見てくる。なんだなんだ。何に気づいてしまったんだ。


「ナマエ可愛いから何着ても期待裏切らないんじゃ……」

「全面的にお褒めいただきありがとうございます」


 どうやらクザンさんの想像の中のおれは何を着てもばっちり似合ってしまったらしい。だったら何を着ても大抵同じ。となればここは無難に海軍の制服でも借りて着てしまえばいいだろうか。元手もかからないし、洗って返せばこれから誰かしらが着るだろうし無駄になることもない。すごく無難。おれも楽だし、超名案なのでは?


「ここの制服をお借りするって言うのはどうでしょう。無難じゃないですか?」

「いや、それはやめた方がいい」


 真顔で否定されて首を傾げた。そこまではっきり否定する理由なんかあったか? だが首を傾げて頭を斜めにしてみても何も出てくることはなかった。
 クザンさんは困ったような顔で口を開けたり閉めたりしている。どうやら言いにくい理由であるようだ。クザンさんがおれに言いにくいような内容ってなんだ? ……あっ、わかった。


「要するにオナネ、」

「お前そういうのどこで仕入れてくんの!?」


 ばっと手で口を塞がれてしまったが、言いたいことは十二分に伝わったようで何よりだ。クザンさんからの質問には、はははと笑って誤魔化しておく。現代の情報量を舐めちゃいかんがこれについての説明はしんどいしな。
 でも海兵コスはやめておいた方がよさそうだな。祖父や父親くらい年の離れている方々は孫や子供のように微笑ましい目線を向けてくれるだろうが、若い連中だと有り余って仕方ない性欲に火をつけかねない。可愛い可愛いナマエちゃんが同じ制服着てたら妄想の一つや二つ、はかどって仕方がないことだろう。嫌だよおれ、ただでさえオナネタに使われてそうなのにスーパーオナネタアイドルに格上げされるの。


「じゃあどうしましょうかねぇ……なんか面倒くさくないやつ……」

「前みたいにシーツお化けじゃダメなの?」

「さすがにあれはクオリティ低すぎません?」


 前もってやるって言われているだけにシーツ被るだけってのはさすがに手抜き過ぎるだろ。舐めプにも程がある。ていうかあれはあれでお化けだぞーがおーって襲ってきた彼女にへー確かめてみよっかなーとか言いながら襲い返すプレイだって妄想できるし……あれ……もしかしておれ、オナネタアイドル不可避?
 自分の妄想力により大変悲しいことに気が付いてしまったおれは、一時仮装について考えるのは放棄した。最悪すみません不参加です〜とか調子のいいこと言って逃げるか、スーパーオナネタアイドルとして君臨する覚悟を決めればいい。


「ていうかこのパーティーってクザンさんとかも参加するんですか?」

「一応適当に全員参加ってことになってるな。パーティーの時間に本部にいる暇なやつは、だけど」

「ならサカズキさんも?」

「ぶっ! っ、ふは、い、いきなり面白ェこと言うの、なしでしょ」


 やっぱサカズキさんは参加しそうにないか。そういうのでバカ騒ぎするタイプじゃないもんな〜。むしろ仕事しないでそんなことやってるなんて、って感じで本当は怒ってそう。参加したら絶対面白いのになぁ。周りが。
 ……ん? 待てよ。もしかしておれ次第では、サカズキさん参加させられるんじゃないか? サカズキさん過保護だし。おれのお願いには弱そうだし。
 すこしピピンと来ることがあったので、おれは今までお茶をしていた席から立ち上がった。クザンさんがおれの行動に驚いているうちに、すちゃっと手を挙げて宣言した。


「サカズキさんを参加させる方法を思いついたので、ちょっくら突撃してきます!」

「マジか。いってらっしゃい」

「行ってきます!」


 クザンさんの執務室を抜け出して、サカズキさんの執務室へと向かう。善は急げ。サカズキさんと一緒に仮装してみせるぞ!

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 あのあと戻って来たナマエはなんとも満足そうな顔でサムズアップしてきた。どうやら許可を取り付けたらしい。どうやってサカズキを呼び出したのか気になったものの、方法は当日まで内緒だと言っていたし、その流れで仮装についても決めて来たらしい。サカズキと一緒に決めたのなら変な服じゃないだろうし、サカズキが来るってことはナマエにちょっかいかけるやつらを牽制する目的だろうから、多分ナマエの安全は保障されたはずだ。
 ……と、安心していたのが悪かったのだろうか。仮装パーティー当日、おれはとんでもないものを見た。

 狼の着ぐるみを着た大小二つの生き物が入って来たとき、おれは飲んでいたものを噴き出した。

 近づいて話しかけなければわからないが、あれは確実にナマエとサカズキだと思う。安全を考慮するあまり、顔を隠すという暴挙はサカズキらしいっちゃサカズキらしいし、発せられる威圧感がサカズキ感を強めているのだが……なんと言ったらいいのやら。
 そのうちの小さい方が駆け寄っていて、大きい方がのっしのっしとついてくる。やっべすげぇシュール。


「クザンさーん、トリック・オア・トリートです」

「うん、まあ、いいんだけどさ」


 手に持っていた菓子を渡せば、ナマエはしっかり喜んでくれた。サカズキが後ろで仁王立ちしてんの怖ェよ。しかもずっと黙ってるし。なんだよ、怖ェよ。


「あのさ、なんでその格好?」

「サカズキさんが参加するなら被り物かなって。お揃いならやってくれるだろうと思ったんです。あ、露出度もちゃんと控えた結果ですよ!」

「うん……まあ……そうだね」

「すごいでしょう! このクオリティ! ふさふさですよ!」


 もう何も言うまい。ナマエに可愛い格好をしてほしかったであろう連中はかなり可哀想なことになってしまったが、ナマエは楽しそうだし、危ない目に合うこともないし、いいってことだろう。

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 初めて行われた仮装パーティーであったが、来年より着ぐるみは全面禁止される運びとなった。犯罪者等の侵入の危険を避けるため、というもっともらしい理由も告示されていたが、クザンは顔も見られない若い連中からよほど批判があったんだろうなァ、と思った。

海軍ハロウィン仮装パーティーでメアリちゃんのお話を読みたいです!@匿名さん
アイゼルネのメアリさんも今回はコスプレどうでしょう…@氷雨さん
リクエストありがとうございました!



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