人外主、メドゥーサについて色々捏造


 ミホークが久しぶりに拠点にしている城に帰ってくると、ふらりとその城から出てくる影があった。とはいえ、見知らぬ侵入者などではなく、ミホークが許可をして城に住んでいるナマエという男だった。


「おかえり」

「ただいま」


 ふんわりと柔らかく笑うナマエの瞳は革製のベルトのようなもので隠されている。異様なのはそれだけではなく、彼の髪は生き物のようにうねっていた。──ことさら正確に言うのなら、彼の髪に当たる部分は、ある意味生き物に相違なかった。
 髪の束のような蛇が首をもたげる。ちろちろと舌を出してミホークの帰りを歓迎しているようだった。

 ナマエは俗に言うメドゥーサという化け物である。

 髪の部分が蛇で、目を合わせると石になる神話の化け物と同じ性質を持つのだ。ただし神話のように神にその姿を変えられたわけではなく、始めからそういった生き物で、メドゥーサという名称は自分達に似た生き物が出てくる人間の神話から取っただけだという。
 むしろたまたま出会ってしまった人間がナマエの一族に対して勝手にメドゥーサという名前をつけられたのだろうとミホークは思ったが、卵が先か鶏が先かという不毛な話になりかねないため、この件については頷くだけに留めた。

 ミホークは部屋を目指して歩きながら、ナマエに促されるまま、巡ってきた世界について口にする。
 海、空、鳥、海王類、出会った海賊に、ちょっかいをかけてきた剣士。
 ナマエと出会う前であればすぐに忘れてしまっていたであろうそれらを、ナマエに伝えるためだけに吐き出した。人に話すことを得手としないミホークの言葉でも喜色を露にするナマエに、ミホークはつい憐れみの視線を向けてしまう。


「自分で見るのはとっくに諦めた。お前の言葉だけで十分楽しいよ」


 ミホークの視線に気づいたようで、ナマエはそう言った。ナマエはメドゥーサの中でも特に規格外の素質を持っていたようで、視界に入れた一族以外のものすべてを石に変えてしまう目を持っているらしかった。生き物も、死体も、景色でさえもすべて石に変えてしまうのだ。しかも石になってしまったものは二度と戻らない。そのためナマエの瞳は常に閉じられ、服や食べ物などを映さないようにしている。強力すぎる力は生活をする上ではひどく不便で、景色の一つも満足に見ることが叶わない。
 いっそ哀れと言ってしまってもいいかもしれない。一族の中には目と目を合わせたときだけ数分ほど石化させるだけの力を持つものもいるというのだから、ナマエの能力が如何に強力かわかるというものだ。


「だが、お前の目は見たい」


 世界を見ることは諦めたのに、ナマエはミホークの目を見ることは諦めていないという。
 その意味を理解しているミホークは困ったように言葉を発することしかできない。


「……もう少し辛抱してくれ」

「わかってる。ここまで我慢したのにお前を石にするようなことはしないよ」


 メドゥーサという生き物は瞳に恋をし、瞳に愛を誓う生き物なのだとナマエは教えてくれた。だって目は口程に物を言うだろう? と笑うナマエは、メドゥーサとしての本能なのか、瞳は嘘をつかず性格を表すものだと信じて疑わない。


「早くお前がおれの一族になればいいのになァ」


 ミホークはそうだな、と頷きながら、自分がナマエの一族になってしまうのがとても怖かった。目をあわせることができるようになって、もしナマエが失望したら? 思っていた瞳と違ったら? きっとナマエは瞳でしか価値観を判断できない。期待外れのミホークは捨てられてしまうだろう。
 だからミホークは方法がわかってからもあと一歩のところで、ずっと尻込みしている。今ならば、ナマエはミホークの性格だけで判断して傍にいてくれるのだ。これ以上は何も望まない。例え、瞳を見ていないという理由だけでナマエが愛を言葉にせずとも、キスの一つもしてくれなくとも、捨てられてしまうよりは余程いいのだから。

「メドゥーサ主×ミホーク」瞳に重点を置いた噺で、ミホークを石にするのは無しでお願い致します。@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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