おれは俗に言うオトメン、というやつである。裁縫が好き、お菓子作りが好き、テディベアが好き、とまあ、そんなおれに対する世間の目は厳しいが、別に可愛いものが好きなだけであっておれが可愛くなりたいとかそんなんじゃないので勘違いしないで欲しい。訂正するのも面倒くさいのでしないけど。友だちに合コンでネタ扱いされても笑って許すけど。カマ扱いしたやつはさすがにぶん殴るけど。
 そんなおれの目下一番可愛いものは、コラソンである。本名はロシナンテというらしいが、コラソンの兄貴でおれの友人ドフラミンゴに紹介されたときはコラソンと呼ばれていたので、おれの中ではコラソンという名前でインプットされている。いや、それは別にどうだっていいんだけど、そのコラソン、おれ並みに図体がデカいくせして行動がめっちゃくちゃ可愛いんだよなァ……ドジっ子相手に萌えるおれの心臓を全部持っていく気なんだろうかこのデカ男は……。


「というわけで、可愛い子には可愛いものを持たせよう作戦なわけだ。これを受け取れ」

「いや意味わかんねェし、なんだよこれ」

「チョコレートケーキだが?」

「今日バレンタインじゃねェか……?」

「そうだが?」

「えっ、な、え?」


 どんだけ純情なんだこいつ。男同士でチョコレート渡したくらいでどうにかなるわけねェだろ。パティシエの男は全員ホモだと思ってんのか? 大体おれはオトメンだが普通に女の子が好きだし、格好だって普通に男だ。少女漫画に心躍らせてもヒーローに惚れてるわけじゃあない。だが訂正するのも面倒で「ほらほら食え。せっかく作ったんだから早々に食え」と押し付ければ、コラソンは出されたケーキを食べ始めた。嫌々だったが出されたものを食べるあたり育ちがいいと思う。さすがドフラミンゴの弟。
 チョコレートクリームの乗ったシフォンケーキをずいぶんとお気に召してくれたようで、まるで小動物系ヒロインのように口の中に詰め込んで食べている姿はなんともおれの心をくすぐってくる。いかん、めっちゃ少女漫画読みたくなってきた。


「美味いか?」

「ん、んっ! はふ、んん!」

「何か言いたいのはわかった。でも食ってからでいいから」


 口の中にものが詰まった状態で懸命に感想を伝えようとするコラソンは可愛い。コラソンが女だったらきっと可愛いの上にえろいも追加されていただろう。いやー、コラソンが女じゃなくて本当によかったわ。ドフラミンゴの家族に手なんか出したらぶっ殺されそうだし。アイツの家族愛尋常じゃなくね? 怖いわ。
 そんなことを考えていると、おれのスマホがドフラミンゴからの着信を告げた。食っているコラソンに断りを入れてから電話に出ると『おれの可愛い弟はそこにいるか?』と考えていたことがダイレクトに伝わったのかと思うほどストレートに物を聞かれた。


「おう、今ケーキ食ってるぞ」

『ナマエお前、コラソンのこと餌付けする気か?』

「いや、食ってる姿が可愛いから食わせてるだけ。写真撮って送ってやろうか?」

『相変わらず気色悪ィなお前』

「あん? 人の趣味にとやかくうるせェぞ」


 人を傷つけて喜ぶというおれより数段悪趣味のドフラミンゴには何も言われたくない。おれにその趣味が向けられない限りは悪趣味でも構わねェと思うあたり、おれも類友というやつなんだろうけどそれとこれとはまったくの別問題である。
 ドフラミンゴは出かけるから戸締りをしっかりしろとコラソンに伝えてくれと言って来た。コラソンのことガキ扱いしすぎなんじゃねェの、と思ったが、コラソンは本当にドジっ子なので過保護になっても仕方ない。ドフラミンゴも苦労してんだな……。
 兄からの伝言を教えようとコラソンを見ると、若干顔が赤くなっていた。多分、可愛いと言われたからだろう。これでもコラソンの感情の機微はよくわかっているつもりだ。目があうと、つ、とそらされた。


「いやァ、お前やっぱ可愛いな」

「……うるせェ」


 そうやって笑っただけでまさかこのコラソンがおれに落ちていたなんて誰が思うでしょうか。フラグ立ててねェぞ! どこのギャルゲエロゲ少女漫画だよ! 現実にそんな簡単に落ちるヒロイン属性の男なんて居てたまるか! ……なんて思うのにコラソンが健気で可愛すぎて男だというのにぐらついてしまったりだなんてまさかそんな馬鹿な。

現パロ設定でコラさんお相手のオトメン主人公が読んでみたいです。バレンタインデー手作りする主人公とか@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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