「はァ〜、どうすっかなー」

「受け取らなきゃよかったんじゃねェの」


 ロッカールームでチョコの入ったダンボール箱を抱えたナマエがため息をつくと、後ろから続いて入ってきたローがそう言った。その手には似たようにチョコレートが抱えられている。モテるであろうローから考えれば大して多いとも言えぬ量であった。
 ベンチに座るとチョコレートの箱を開け、中に入っていたチョコレートの説明用紙をちらりと確認すると蓋を閉じた。それをいくつか繰り返して重ね、ぽんぽんと容赦なく紙袋の中に突っ込んでいった。蓋が開いてしまったのかバラバラというチョコレートの出てくる音がして、ナマエはついつい笑ってしまった。


「うーわ、ローってばドクズ〜。渡されたチョコ捨てる気?」

「甘いもんこんなに食えるかよ」

「そもそも渡してくれた相手覚えてないっしょ」

「覚える必要なんかねェだろ。直接渡してきたやつは断ってる」


 食う気がないと言いたげな扱いにツッコミを入れれば、ローは否定しなかった。箱を見る限りめったに買わないお高いチョコレートだというのに何も思うところはないようであった。そもそもこんなところを見られたら何も思うところがないどころか、人の心がないと思われても仕方のない行いだ。期待を持たせない分、本命チョコを受け取らないだけ優しいのかもしれない。


「本命チョコは、だろ。ナース一同から渡されたその義理チョコのお返しどうすんですか、ロー先生?」

「適当に菓子折りでも渡しゃあいいだろ。どら焼きとか」

「あー、どら焼きか。どら焼きは美味いよな」


 チョコレートの匂いが充満しているせいだろうか、どら焼きと聞いてナマエの唾液腺が刺激された。甘いものが特別好きというわけでもないが、チョコレートばかりだとすればどら焼きのようにすこし味の違ったものが欲しくなるというものだ。


「じゃあおれからはどら焼きでいいか」

「それどら焼き。チョコレートじゃねェんですけど」


 顔立ちやスタイルがいいため、女性陣から異様にモテる二人ではあったが、その実二人は男同士で付き合っている。勿論おおっぴらにしているわけではないが、聞かれれば冗談めかして本当の事を簡単に口にしているため、本当のことだと気付いているものもいるかもしれない。
 ローは自分の鞄から明らかにお高いであろう包装の箱をナマエに放り投げた。難なく箱を受け取ったナマエは見覚えのある箱に思わず唇がニヤニヤと笑ってしまう。


「視線がうるせェ」

「いっやァもうおれ愛されてるよね? ここのチョコ食べたいって言ってたの覚えてた?」

「うるせェ」

「もー素直じゃないんだからァ」

「いいからお前もさっさと寄越せ」


 からかうようなナマエに対しローが催促をするように手を差し出してくる。ナマエもローと同じように用意していたチョコレートを投げれば、ローは容赦なく包装用の紐を引きちぎって箱を開け、コーヒーが前面に押し出された甘さ控えめのチョコレートを口の中に放り込んだ。「まあ美味いんじゃねェの」という些か雑な感想ではあったが、甘いものを好まないローが食べてくれたというだけでナマエは十分嬉しかった。


「いや〜、本当に愛されてんなァ」

「何回言えば気が済むんだお前」

「そういうわけでこのダンボール箱の分のお返しについておれと考えようか」

「死ね」


 そんなキツイ言葉を発しておきながら、外面を大事にしているナマエのためにローがお返しを一緒に考えてくれることをナマエは知っている。フフフ、とナマエが笑うとローから鋭い舌打ちが向けられた。

現パロで、本命義理問わず沢山チョコを貰ったローさんと主人公さんがホワイトデーのお返しの相談やお互いへのプレゼント交換をするお話@匿名さん
リクエストありがとうございました!



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