クリスマスに冬島だなんてラッキーである、と着く直前のおれは思っていた。なんせおれは船長のルフィと恋仲。クリスマスなんて恋人同士のイベントの代表格だ。雪の一つでも降っていればそれだけでロマンチックだし、寒ければ身を寄せ合うこともできるだろう。普段は色気のいの字もないおれたちだが雰囲気さえよければ多少は──なんて考えは相当甘いものだったと思い知る。
 着いた途端、雪がちらつく中ルフィは島の中心部へと走り出していってしまった。おれが「ルフィ!?」と声を上げても「いい匂いがすんだ! 先行くぞナマエ!」と振り返ることもしなかった。返事をしてくれるだけマシだと思っても、おれの脳内は嫌な予感でいっぱいである。ルフィが行った方向に手を伸ばしたまま固まっていたおれだったが、ナミに見失うな勝手をさせるな目を離すなとせっつかされて追いかければ、待っていたのは世にも恐ろしい光景だった。
 屋台、屋台、屋台、屋台、屋台! 唖然としているおれの視界で、ルフィが馬鹿みたいに飯を食っていた。あ、これダメだわ。もうだめだわ、おれの計画丸つぶれだわ。泣きそうになりながらルフィのいる屋台に入ると、おれよりも青い顔をしたおっちゃんがルフィのことを見ていた。ルフィはすごい勢いで屋台の肉を平らげていた。


「あー……ルフィ? いきなり飛び出すなよ、みんな心配するだろ?」


 ものすごく建前。一ミリも本心がないとは言わないが、ルフィなら何かあっても大丈夫だろうと誰もが思っている。他のクルーの心配はルフィの身の心配というより、ルフィが起こす問題に対する心配だ。
 おれがルフィに話しかけたのを見たおっちゃんは「あの、この子兄さんの連れ? 金、平気だよね?」と聞いてきた。心配してたのはそこかよ、と思いながら、迷惑量も込めて少々多めに渡すとおっちゃんはやつれたような顔で笑った。
 その横で食べ終えたらしいルフィがいい笑顔で「ごちそうさま! おっちゃんすげェうまかった!」と言って席を立ち上がった。ああ、もう次か。すこし遠い目をしているとルフィがおれの手をつかんで走り出した。転びそうになりながらルフィのあとを追いかける。


「次あっち行こう!」

「ルフィ、おれの話聞いてた?」

「聞いてた。どうせナマエが来るんだからいいじゃねェか!」


 いやそうだけど。絶対に追いかけるけど。少しでもお前の傍にいたいからそうでもしないと一緒にいられないんだってわかってる?
 きっとわかってないんだろうなァ、と思ってもしょうがない。だっておれはそういうルフィを好きになったんだから、合わせてくれってのはおかしな話だ。飾らないそのままのルフィでいてくれりゃあそれでいいんだ。……本当はちょっとくらいおれに構って欲しいけど!
 そんな欲望は口から出すことはしなかった。だがルフィが足を止め、おれをじっと見てきたかと思うととんでもないことを言ってきた。


「なんだよ、おれといんの嫌なのか?」

「まさか! そんなわけないって!」


 こんなに好き好きアピールしてんのに伝わってないのかと焦ったが、ルフィはすぐに笑顔に戻って「しししし! そうだよな!」とまた走り出した。すぐに近くの屋台に入って、自分のものに加えおれの分まで頼んでいた。すぐに出されたよくわからない肉を食いながら、ちらりとルフィを見ると何故だかルフィもおれのことを見ていてどきりとしてしまう。


「ど、どうした?」


 ルフィが食事中に飯以外のものに気を取られることなどほとんどないはずだ。普段から死ぬほどルフィを観察しているおれが言うんだから間違いない。なのになんでまたおれを見ているんだろう。宴の最中とかならまだしも、ルフィは食事にこれでもかと集中するタイプなのに、どうしておれと見つめ合ってるんだろう。ルフィはしばらくおれを見て、それからゆっくりと首を傾げた。


「なんかわかんねェけどナマエと一緒に飯食うと、他のときよりずっとうめェんだよ。なんでだろうな?」


 あ、やばい超幸せ。

ルフィと色気より食い気な食い倒れクリスマスしてるけど、なんだかんだで幸せなお話@匿名さん
リクエストありがとうございました!


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