遅刻しないようにと頑張って朝起きたら少し早すぎたので、飯を食いながら新聞を読んでぼうっとしていたらついつい食いすぎてしまった。普段食わないのにこんなに食って平気だろうか。それから昨晩急いで適当に突っ込んだ荷物を持って本部に出向く。なんか足りないものあったら向こうで買えばいいやという呑気な思考だ。金ならあるし、本部から近いだけのことはあって流通も盛んなので大抵のものは買えるだろう。


「おはようございます!」

「おー、おはよう」


 メアリの声に振り向けば、普段着のメアリがいる。仕事中には見ることのできない格好だがおれは送っていくことがあるため、それなりには見覚えのある格好である。だが当然、他の海兵たちはめったに見ることのできない格好だ。だからあっちこっちからの視線がうるさくてたまらない。ふわりとしたいいとこのお嬢さんらしい服装は海軍本部内ではやけに目立つし、その服を着ているのが美少女なのだから視線を集めないわけがないのだ。ため息は内心だけにとどめながら、メアリの荷物を持ち上げる。


「荷物はこれだけ?」

「あ、はい。というかクザンさん、持たなくていいですよ。大したものが入ってるわけじゃないですし自分で、」

「いいからいいから」


 仕事しなくていいのはメアリのおかげみたいなもんだし、とは言わないでおいた。何故なら見送るつもりらしいサカズキが窓からじろりとおれを睨んでいたからだ。ボルサリーノも暇だったのか、窓からひらひらと手を振っている。「気を付けて行ってくるんだよォ〜」というボルサリーノの声が聞こえてくる。メアリはそれにひらりと手を振り返した。

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 巡視船に乗ってメアリと海を眺めているうちに、目的のシャボンディ諸島にたどり着いた。目と鼻の先とはまさにこのことか。メアリはかなりはしゃいだせいかグロッキー状態になっていたが、地に足が着くとすっかり元気になってしまった。これが若さだろうか、と見つめているとメアリが不思議そうに振り向いた。「なんでもねェよ」と声をかけ、歩き出す。ホテルの場所は船の中で聞いたので問題なかった。


「で、ここでどう一週間過ごす予定?」

「とりあえず遊園地! …………ということしか考えてないんですよね」


 なんとも子供らしい考えに笑ってしまう。本当に遊ぶことしか考えていないようだった。この年の女子にしては珍しくメアリはショッピングというものにあまり興味がないようだし、どうすれば休暇を活用できるだろうか。せっかくだからいい思い出を作ってあげたいと思う。できれば、汚いところを見せずに。


「あ、でも遊園地に行けそうな服がないので先にそれですかね」

「服?」

「こんな服で行ったらはしゃげません!」


 アピールするかのようにひらひらとスカートが舞った。たしかにどこかに引っ掛けでもしたら切れるなんてものじゃすまないだろう。裂けたりしてあられもない姿になるだけならまだしも、機械に巻き込まれようものなら怪我をする可能性もある。メアリの判断は懸命と言えるだろう。


「じゃあ荷物置いたら買い物行くか」

「そうしましょー! 道分からないんでお願いしますね!」

「了解」


 そうしてホテルまで他愛もない話をしながら歩き、着いた先のホテルはここらじゃ一等に高いところだった。シャボンを固めて作る丸い部屋が主流のこの島で、一等地に立つごく普通の高級ホテル。メアリの持つ遺産やおれの地位なんかを考えればまあ、間違いではないのだけれどサカズキの顔がちらつくのは何故だろうか。安全性を考えて高級ホテルに泊まらせようとしたんじゃないだろうかとかそういうことばかり考えてしまう。
 ロビーに入ると、すぐさま気が付いたらしい支配人が揉み手をしながら寄ってきた。ご苦労なことである。指の皺が消えるぞ。


「クザン様とメアリ様でいらっしゃいますか?」

「よくわかったね」

「お話は聞かされておりますので。お部屋へご案内させていただいても?」

「ああ」


 行くよ、と振り返ってみると、メアリは後ろですごいなァとでも言いたげな表情をしていた。そういう純真な目を向けられるとすこし照れそうになる。カウンターの奥に消えていた支配人が戻ってきて、メアリと二人でそのあとに着いていく。ホテルという場所には慣れていないのか、メアリはあたりをきょろきょろとしていた。エレベーターで一番上の階に着き、支配人が鍵を開けて扉を開け放った。ずいぶんとまあ広い部屋である。


「お二人のお部屋はこちらになります」


 ……二人の、部屋? おれが固まっている間に「ありがとうございますー」だなんてメアリは鍵を受け取っていた。支配人が「何かありましたらいつでもお呼びください」と言って立ち去ってから、おれはハッとしてすでに部屋に入ってしまったメアリを追いかけた。いや、同じ部屋はまずいでしょ! 色々と!


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