今日のお仕事の内容は〜? 倉庫の整理です!

 まあここまでならなんの問題もないんだけどな、隣にな、なんでか知らんが暇らしいカクさんが長官さんの命令で参戦しておってな、ぶっちゃけ逃げ出したい。暗殺してる人が隣にいるって結構な精神的負荷だからね? 命令なければ殺さないってことなんだろうけど同時にそれ、命令あればおれ殺されるってことだからね?
 一昨日カリファさんとマリーちゃんの会話からCP9が暗殺機関だということを知ってびくびくしつつ過ごしていたのだが、一昨日昨日はカクさんと鳩の人とあとカリファさんとすれ違って軽く挨拶する程度で特にこれといったことはなかったのだ。あ、でもジャブラさんとは一回一緒に飯食った。おかず交換してくれてマジいい人。でもそんなもんだ。だからマジ超余裕とか思ってたらそんなことなかった。も〜嫌なんですけど〜とどこぞの若い女の子のような声でも出したいところだが、怖すぎて無理。おれは、自分の命が一番大事系男子です。


「うわ……なんじゃこの倉庫……きったな……」

「結構埃っぽいですね……」

「埃っぽいとかそういうレベルじゃないぞ? こんなことを押し付けおってあのクソ長官め……」


 カクさんの言葉はおそらく心からの言葉だろう。おれももし上司にこれ押し付けられたら割りとそういう顔になると思う。おれはメイドだしそれが仕事ならするけど、彼らは暗殺がメインならそのためにたくさん体も技も鍛えているのだし、こんなことは仕事じゃないはずだ。そう思うとすこしばかり可哀想だし、ついでに隣にいてほしくもないので「わたし一人でも出来ますので、カク様は、」どうぞ引き取りやがれですの、という旨を伝えようとしたら、カクさんは緩慢な動作で首を横に振った。


「メアリひとりにやらせるわけにはいかん。それに、一人よりは二人の方がいいじゃろ」


 にっかりと笑ってくれたカクさんはなんとも爽やかで、本心から言っているようにしか聞こえなかった。……これ、演技なんだよな、多分。暗殺なんか生業にしてたら美人ってだけで惚れたりしないように教育されてると思うんだわ。だからおれがどれほどの美少女だからって、カクさんがおれに惚れる理由はないわけで。でもだからって危険を感じるわけでもなくて。……うーん、まあ、ジャブラさん情報だとおれを惚れさせることが目的なら、今のとこ殺す気はないんだろうし、ここにいる間は普通に接してれば平気か。
 あまり考えてもハゲそうなのでもうここらへんで考えるのは放棄した。クロコダイルさん並みの色気の持ち主でもない限り、男相手にころっと行くわけもないので気にしなくていいだろう。


「お気遣いありがとうございます。では、掃除を始めましょうか」

「おう、そうするか」


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 そうしておれがカクさんにすっかり慣れて適当に会話をしながら掃除を進めていると、予想外のものを発見した。ここは政府の機関である。しかも司法の塔とかいう名前のついた建物があることから司法に関連し、さらには司法で裁かないであろう暗殺を担当する連中もいる。そんなところの倉庫に、なんでヴァイオリン。


「ヴァイオリン……じゃな」

「そうですね」

「処分してもいいんじゃろうが、ふむ、そこそこ値打ちものっぽいぞ」

「そうなんですか。すこし見るだけでわかるなんてさすがですね」


 じっくり見ようともおれにはわからないし、本当にすごいと思う。暗殺ってありとあらゆる能力がいるって某タコ型先生の漫画でも言ってたしな。ラスボスがまさかあの人とは……いや、そんな話はどうでもいい。おれの目の前でちょっと照れたようになってるカクさんの方が問題である。こんなことで照れるわけもないと思うので、おれから見たカクさんの胡散臭さがマッハでやばい。


「長官さんに聞いてみて、それから処分を検討しましょう」

「そうするか。あとで何かと言われると面倒じゃ」

「ではあともう少しで終わりますので、さっくりとやってしまいましょうか」

「おう、任せとけ」


 カクさんは歯を見せて子どものように笑う。これが本来あるべき姿なのかな、と思うと、暗殺という仕事にどうこう言いたいわけではないが、なんとなしに苦笑いが浮かんでしまった。まだ、子どもなのになぁ。

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 一緒に掃除をしている間に、多少なりともメアリの空気が緩んだように感じた。仕事中であるからか、わかりやすすぎる変化はないものの、表情が柔らかくなったように感じたのだ。ここまでくれば相手の感情は手に取るようにわかる。だってわし、暗殺者だし。
 そうして結論、メアリは本当に少しもこちらに恋愛感情を持ってはいない。仕事の出先であるという理由なのか、友だちとすら思われていないだろう。むむ、これはなかなか難しい。メアリという少女は、本当に少女に似つかわしくない真面目さを持ち合わせている。このままではルッチに勝ちを譲ることになるのだろうか。しかしルッチはほとんど接触していないようにも見える。もしかして、途中で馬鹿らしくなってしまった、とか。どうせ一番キツい人殺しの仕事はルッチに回ってくるのだから、こんな面倒なことをしなくてもいいとか思ってそうだ。でも負けず嫌いだし、と答えは出ない。


「のうメアリ、」

「はい、なんでしょうか」


 声をかけても手を止めない。そこらへんの女なら喜んで愛想を振りまいてくれるというのに、とちょっと笑ってしまった。ここまで興味を持たれないと、かえって興味が湧いてくるというものだ。


「メアリはどんな人が好みなんじゃ?」

「はい?」

「好きなタイプじゃ、恋愛的に」


 聞こえていなかったのか、聞かれたくなかったのか、振り返ったメアリは首をかしげていた。わしがどストレートにそう言葉を向ければ、初めて隙のある表情を見せて目をしばたたかせた。今まで続けてきた純情ぶった演技を半ば捨てて、ただの興味本位で聞いたからだろう。
 だからだろうか、メアリはすこし考えるような素振りをしてみせた。仕事中にくだらない話にだけ集中するような性格ではないと思っていただけに、手を止めたその動きには何故か視線が向かってしまう。


「タイプ……タイプですか」

「大まかだと難しいのなら、もっと簡単でいいぞ。年上年下、長身小さめ、善人悪人、とかな」

「ああそれなら年上の方がいいですかね、というか年下となると犯罪臭が……」


 さらりとそう答えたメアリの顔はいつになく真剣で、しかしその答えがなんともマヌケで、わしは面食らってしまった。なんだろう、さっきまでと雰囲気が全然違う。澄んだような張り詰めた仕事のできるメイドではなく、年相応の子どもが目の前にいるように感じてしまったのだ。もっと簡単に言えば、バカっぽい。


「……わはは! たしかにそうじゃな!」


 だからつい、本心から笑ってしまった。こいつもしかして面白いのではないか。このやり取りでただの興味のない美人でしかなかったメアリを、そんなふうに思ってしまったのだった。


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