メイド長さんから仕事を承って、それから適当にホームメイドっぽいことをして、休憩をしていいと言われて夕飯を食って、食器洗いやらなんやらをして、長官さんとこに挨拶に行って、一日が終わりを告げた現在九時。おれの就業時間九時五時なんですけどとは言うまい。一週間のことだし、時間外労働に関しては海軍からその分の休みなり、給料なりをいただければそれでいい。
 たまにカク少年からの視線を感じることもあったが、目があって手を振られそれに頭を下げる程度だ。それくらいなら特に困ることもなく、部屋に戻るべく廊下を歩いていたら肩に鳩を乗せている御仁が前から歩いてきている。それだけでも十分関わりたくない雰囲気を醸し出しているというのに、あの人もメアリちゃん陥落計画に参加してるかもしれないとかすごく面倒臭い。ネタ挟む余地もないくらい面倒臭い。
 しかし通りすがりに無視とかはできないので、通り過ぎる前に端に避けて頭を下げ、それからおれも歩みを再開する。鳩野郎さんはおれにこんなやつそういやいたな、みたいな視線を投げ掛けていたようだが、それだけだ。多分興味がないのだろう。やだ安心! とか思ったら、


「おい」


 背後から声。ひえっ。ゆっくり振り向くと、鳩野郎さんが近付いてきていた。改めて見ると整った顔なのに変な髭をしている。なんなんだろ、それ、おしゃれなのかな……。世の中には髭を縛ったりする人もいるし、剃り込みみたいなもんなんだろうけど……おれまだ髭生えないからなー。キスするときとかじょりじょりしないんだろうか。
 余計なお世話なことを考えながらこっちも近寄れば、鳩野郎さんは手を伸ばせば触れる距離にまで近づいていた。


「どうかいたしまし、」

「落としたぞ」


 おれが言い切る前におれに押し付けられたハンカチは、確かにおれのものだった。頭を下げて礼を言えば、返事もせずにすたすたと歩いていってしまう。どうやら彼はただの親切な人だったらしい。……演技じゃなければね?
 語尾がこれになりそうで怖い。一週間だけでいいのと、ジャブラさんなら別に変なアプローチかけてこないだろうっていうのだけが救いだ。


「ありがとうございます!」


 その背中にお礼の言葉をかけても鳩野郎さんは振り返らないし、特にこれといった反応を見せることなくさっさといなくなってしまった。クール! ソークール!
 クザンさんだったらひらひらと手を振るくらいのことはするだろうな、と考えながら部屋に戻り、鍵を閉める。監視用の電伝虫がいないことを確認してからソファに飛び込んだ。


「あ〜、だっる」


 明日仕事六時からですって。五時半くらいに起きたんじゃダメだよなァ……どれくらい前に顔出すのが普通なんだ? 新人なんだから早めに顔出さないとまずいだろうし……五時に起きて支度できたら向かえばいいか。
 ため息をつきながら起き上がる。だれている場合ではないのだ。服を脱ぎ散らかしながら風呂場に向かう。いろんなことがあって忘れていたが、おれ、今日あんまり寝てないんだったわ。さっさと風呂入って寝ーようっと。


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