正しい終焉の迎え方 | ナノ



「あなたが鏡音リン?」
「はい。よろしくお願いします」
 レンより先に生み出されたリンは、一足早くVOCALOIDとしての活動を開始することになり、手始めとして先輩である初音ミクとKAITO、MEIKOの三名と顔を合わせる。先に生み出され、VOCALOIDとしての活動をしている彼らに詳しいことを教えてもらうように二人の科学者に広間に連れて行かれ、簡単に自己紹介をして今に至る訳だが、これからどうすればいいのかリンはわからずただ沈黙を通す。
 生まれたばかりで、まだ思考機能も正常に働いているとは言い難く、プログラムと身体も馴染んでいない――そんなリンをあとは任せたと言うようにミクたちに任せて、さっさと行ってしまった彼らは傍から見れば薄情だろうが、そんなことを思う者はこの場には誰もいない。
「確か鏡音は二人いるって話だったはずだけど……。リンちゃん一人なの?」
「いえ、鏡音は二人です。レンはまだ完成していなくて、先に生まれた私だけが先輩たちにいろいろ学ぶように、と言われました」
 レンがいる時に学べば何度も同じことをする必要はないのでは、とMEIKOは思ったが、鏡音のコンセプトを思い出し、科学者たちの目論見を悟る。鏡音は二人で一つと言われていて、リンとレンは繋がっている――つまりリンが学んだことはレンに伝わり、その場にいなくても同じように知識と経験を得ることができる――と言ってもそれは同調を終えて、完全に繋がった状態のみできることだった。
「ってことは、レンくんはまだなんだ」
「みたいです。すぐにレンもできるとは言ってましたけど……」
 すぐにとも言ってもリンを基準にレンは作られているため、いろいろ難航することは簡単に予測でき、時間も運が悪ければかなりの時間を要することになる。つまり鏡音のお披露目は早くても来月の頭、遅ければ終わりになるので、リンはまだ日の下に当たることはできない。
「つまりリンちゃんはたくさん練習する時間があるってことだよね。私たちでよければいろいろ教えてあげるからなんでも訊いてね!」
「ありがとうございます」
 ミクに感謝の意を込めてリンは頭を深く下げると、ミクは慌てたようにリンに顔を上げるように告げる。ミクにとってリンは初めての後輩であり、妹という存在になるので、そんな風に仰々しくされるのは遠慮したかった。先輩と後輩という間柄にもなる訳だが、どちらかの関係を取るのなら先輩後輩より、家族の方を取りたい。
「私のことはミクって呼んで! あ、ミクお姉ちゃんでもいいよ?」
「ミクお姉ちゃん……?」
 聴き慣れない言葉に首を傾げながら反芻すると、唐突にミクに抱き着かれ、驚いたリンは思わず悲鳴を上げる。突進にも似た抱擁にリンの身体はバランスを崩し倒れそうになるが、MEIKOがミクを掴み、KAITOがリンの身体を支えることで転倒は防がれた。
「コラ、ミク。感情のまま行動しない」
「だって可愛かったんだもん。それに初めての妹なんだよ! 感情的にもなるよ!」
「リンちゃん大丈夫?」
「は、はい……。ありがとうございます」
 KAITOに支えてもらいながらリンは自分の足で立つと、流石に転倒しかけたことには罪悪感が生まれたようで、ミクが小さく謝罪をする。同じボーカロイドなのに、どうしてそんなにも感情豊かなのか理解できず、リンは三人をじっと見据えた。
 プロフラムや身体に違いがあるとは思えないリンが導き出した答えは、活動している時間だった。リンは生まれたばかりで、動き出してからまだ一時間も経っていないが、彼らはもう数えることも難しいほどの時を過ごしている。つまり同じように過ごせば、彼らのように感情豊かになれるのではないかとリンは考えた。
「リン? 本当に大丈夫? ミクに突進された時にエラーでも生じてない?」
「大丈夫です。私の身体に問題はありません」
「それならいいけど……。不具合を感じたらすぐにマスターのところに行くこと。マスターは今のところ六人いるから誰か捕まえることはできるでしょ」
「マスターは彼らだけではないんですか?」
 MEIKOの言葉にリンは微かに目を見開き、疑問をMEIKOにぶつける。目を開けた時に目の前にいたのは金髪の少年と少女の二人で、他には誰もいなかったことからマスターは二人なのだと思っていた。
「リンが会ったマスターは最年少のマスターね。彼らの他にもあと四人いるんだけど、今は巡音ルカの製作と、仕事で外に出ているわ。たぶんそのうち会えるんじゃないからしら」
「それとも今からルカを作っているマスターに会いに行く?」
 KAITOの提案にリンは逡巡したのち、静かに首を横に振った。マスターがたくさんいることはわかったが、リンが最初にマスターに与えられたことは、ミクたちから話を聞いていろいろ学ぶことで、それに今会わなくともいずれはどこかで会うことになる。
「マスターには今度会います。今会わなくてもいつかは会えるんですよね?」
「大抵はラボにいるからね」
「でも最近はラボを留守にすることが多いマスターもいるよね。あ、でもそれにはリンちゃんはもう会っているから問題ないか」
 新たに得た情報を書き込んでいきながら、リンはボーカロイドとして知っておきたいことを次々とミクたちに尋ねた。



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