ふわっ
柔らかい外からの風と共に良い匂いが鼻を掠めた。本物の苺のような、爽やかな匂いがした
「あれ?なんか良い匂いしなかった?」
「信助も?実はおれも感じたんだよね」
すんすんと辺りの匂いを確かめていると、隣の席で葵と喋っている名前が視界に入った。背中まである名前の髪の毛はふわふわ風に靡いていて、さっきと同じ良い匂いが漂っていた
「名前!何か髪につけてる?すごく良い匂いがするんだけど!」
「ん?えへへ、わかるー?気分転換に髪にミスト吹き付けてきたの!」
「霧野先輩の技?」
「ちがーう!もう、信助ったら。天馬は良い匂いだと思う?」
「へ?」
急に名前に話を振られ、変な声が出てしまった。おれが名前を好きな事を知ってる葵は口元に手を当てて笑っていた。幼馴染なんだから、フォローぐらいしてよ!
「う、うん!名前にピッタリで良い匂いだと思うよ!」
「うふふ、ありがとう!もっと褒めてー!」
嬉しかったのか、名前はずいずいと近付いて来る。うっ、おれの心臓がもたないよー!
「天馬に褒められると何か嬉しい!」
「え、あ、ありがとう…!」
名前は元々人懐こい性格だから、誰にでも抱きつくし、キスする。(もちろん女子限定にだけど)
だからこそ、おれの事を友達としてしか見てくれないんだ
「んもう、鈍いな!」
名前はいきなり立ち上がり、おれの腕を掴んだ
「私を捕まえる事ができたら、天馬に私の好きな人教えてあげる!」
「っえ、」
「鈍感なんだから、こうでもしなきゃ天馬に気付いてもらえないでしょ?」
「えっ!?じゃあ名前の好きな人ってもしかして…」
鈍いおれでも、分かってしまった。顔がだんだん熱くなる
「あ、そよステは禁止だよ!よーいスタート!」
「ま、待ってー!!」
「…まったく、天馬は鈍感なんだから。」
「名前、捕まっちゃうかな?」
「そりゃ、ね。」
名前の後を追いかけるものの、そよかぜステップを禁じられているから中々追い付けない。
疲れて来たのか、名前の走るスピードが落ちて来た。チャンスだ!!
「捕まえた!!」
「うわぁ!?」
名前はおれの腕の中にすっぽりはまってしまった。こんなに近くで触れる事なんて今までなかったから心臓がやばい。名前の髪についている苺の匂いで気持ちに余裕が無くなり、くらくらする。
「あーあ、捕まっちゃった。」
「名前、」
「ふふ、天馬…好きだよ。」
「っあ、お、おれも…!おれも好き!!」
「うん!」
嬉しくてぎゅうっと強く抱き締めると、名前もおれの背中に手を回してくれた。心臓の音が聞こえないか不安だけど…
「天馬、好きになってくれてありがとう。」
「こ、こちらこそ!」
「私、世界で今一番幸せな女かも。」
今だけ、じゃ終わらせない
ずっと幸せにしてみせる!!
今はまだ子供だから言えないけど、もう少し大人になったら名前に伝えたいんだ
愛してるって。
それまでは、まだこのままで。
おれは名前の形の良い唇にキスをした。
瞬間、苺の良い匂いに包まれた