朝。


いつものように朝練を終えて松風が教室に入って来た。



私は毎日、松風に意地悪をしている。
特に理由なんかないけど、反応が面白いからやっている。



私の席は、松風の後ろ…つまり、絶好の意地悪スポットだ。


今日は椅子をずらしてみよう


向こうを向いているうちに松風の椅子をずらした。



「よいしょ…って、うわぁ!!」



松風は当然椅子があると思い込んでたみたいで、その場で尻餅をついた



一人で笑いを堪えていると松風が怒ったような顔で私の方へ振り返った



「…名字さん…また君がやったの?」

「さぁ?なんのことやら。」


わざとらしく言ってたら、松風は無言で椅子を直して前を向いて座った。




自分でもなんでこんなことをしてるのかは分からない。



松風に特別な想いなんて、無い


そう思っていたのに







放課後、一人で水道にいるユニフォーム姿の松風を見つけたので、そーっと後ろから忍び寄り、隣に置いてあったサッカーボールをひょいっと奪ってみた



「…名字さんでしょ?」


「おっ、なんで分かったのー?」


「もう、俺の邪魔はしないでよ。迷惑」


手を洗いながらこちらを見ずに淡々と喋る松風はなんだか声が低く、いつもと雰囲気が違った


「えっ…?ま、松風…なに言ってんの?」


「うるさい!!もう…俺に関わるな」



冷たく言い放たれた松風の言葉に、私は何も言い返せなかった。






あの日から1ヶ月。


松風とはあれから一切話していない。いや、話せなかった。私にはもう松風に話しかける権利なんか無い。



そんなある日、委員長の提案で、席替えを始めることになった



やっと、松風から離れられるんだ…嬉しい反面、何故か寂しくなった





くじを引き、広げてみると小さな白い紙には手書きで23と書かれていた



やった…窓側の一番後ろだ。



「よし、全員の手元に渡ったな。では席替え開始!」



先生の合図でみんなが机をガタゴトと動かし始めた。





隣の席になる人物は、私がよく知る人だった。


見覚えのある天パ




「えっ…。」


「ま、松風…」



向こうも驚いたみたいで、パチパチと瞬きをしている。



あの水道での出来事を思い出した。…謝るなら今しかない!


「ま、松風!あの…。あの時は、その…」


「…。」



あの日のような冷たい目で睨まれてしまって、私は何も言えなくなってしまった






放課後、私は謝りたい一心で、部活に行こうとする松風の腕を掴んだ。



「…何?」


相変わらず冷たい目。怖い、だけど…言わなきゃいけない。謝らなきゃ。泣いちゃダメだ、そう思う程、涙がこみ上げてくる。




「ま、松風…あの、私、ごめんなさい…!!」


「…どうして、俺が嫌がるような事したの?」


「わ、かんない…っ、

でも…松風に、嫌われたく、ない…!!」


咽び泣いていると、松風が私を抱きしめた。松風から、お日様みたいな…なんだかとても安心するような匂いがした



「…ようやく素直になったね、名字さん。」



さっきとは違う優しい声に驚き、顔を上げるとそこにはニッコリと笑った松風の顔が。



「もう意地悪しない?」


「絶対、しない!」


「ん、分かった。もう怒ってないから、泣かないで…?」




子供をあやすみたいに頭をポンポンと撫でられて、なんだかくすぐったいような気分になる




「どうして俺に嫌われたくなかったの?」


「…松風はね、他の人とは違うの。水道で喧嘩したときも…どうしようって、ずっと考えてて…これが、好きって事なのかな、」


「…っ、ごめん!
俺も、名字さんと同じ気持ちなんだ。ごめんね…辛い思いさせちゃって。」


「!!…あの、えっ?」


「…っ、名字さん…好きだよ、」




気付いたら私は松風にキスされていた。


唇を押し付けられるような、キス。


初めての感覚に、くらくらした。




「ん、んぅ…!!」


「ん、はぁ…っ、」



誰もいない教室での初めてのキスは、私には少し刺激が強すぎたみたいで…私は腰が抜けてしまったけど、松風が支えてくれた。



「松風っ、」


「天馬って呼んで…名前。」


「て、んま…好き、大好き!!」



天馬の背中に手を回すと、答えるように天馬も同じように抱き締め返してくれた。







意地悪してた本当の理由、


好きな人に構ってもらいたかったんだ。




自分の気持ちに、やっと素直になれた。

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