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――…

……





あたたかな声の余韻が、消えていく。

朦朧とした意識で手繰り寄せたのは、手繰り寄せたくなかった現実だった。

「――カナデ、起きたのか」

唸るような低い声に、カナデは指先が冷たくなるのを感じた。

「…父…さん…?」

白い天井、白いベッド、一定のリズムを刻む機械と、それに繋がれた自分…。

「お前が一度目を開いたと、連絡があった。それからまた眠っていたようだな。…ようやく起きたか、全く、お前は私達に迷惑をかけるばかりだ」

「…僕は…」

「お前は、五階の窓から裏庭に落ちたんだ。…裏庭から鳥の群れが離れずに鳴き続けてうるさくてかなわんと庭師から苦情が来てな、仕方なしに見に行ったら茂みにお前が倒れていた」

顔をしかめ、ため息をついた父親は、眉間に深い皺を刻んだまま言葉を継ぐ。

「…いいか、くれぐれも馬鹿な真似はするな。お前の行動は私達の顔でもある。妙な行動をして私達の顔に泥を塗るな」

「――ちが…。違うんです、僕は…落ちたくて落ちたのではなくて…その、小鳥が…」

頭の部分が橙色で、背や羽根が鮮やかな青の小鳥。

その小鳥は、いつからか窓から見える近くの屋根に羽休めに訪れるようになって。
軽やかに飛ぶその姿が、とても眩しかった…。

あの日もピアノを弾いていたら、いつもと違う鳴き声がして…窓の下の少しだけ低めのその屋根を見たら、小鳥が大きなカラスに襲われていて。

「…怪我を、していたから、その…助け、たくて…」

ぽつりぽつりと呟くと、嫌悪感の混じった声が返ってきた。

「理由などどうでもいい。お前はもう私達に迷惑をかけるな。それだけだ」

「父さん…あの…」

「私は忙しい。お前は一刻も早く身体を治して、無事だったその両手で紡ぎ手の仕事と練習を再開しろ」

パタン、とドアが閉まって、父親は足早に去っていった。

カナデは小さくため息をつくと、父親と入れ替わりで入ってきた医師たちに応答した。

「目が覚めて何よりです」

医師の一言が、皮肉のように、心にくすぶっていた。



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