「カナデ…」
ゆっくりと起き上がると、ふらふらした足取りで、カナデはピアノの椅子に腰掛ける。
すっと鍵盤に手を置くと、深呼吸してから、いつもの曲を奏で始めた。
「――いやな、夢だった。大好きなこの曲さえ、弾けない日々なんて」
指は、鍵盤の白と黒を繋いでゆく。
涙のように響く音色は、カナデ自身のようだと、ソラは瞳を閉じて…
そして、透き通る声で言葉を発した。
「ごめんね、カナデ。カナデの夢は、夢じゃないの。ソラがカナデを、ここに連れてきちゃったから…だから、ソラがちゃんとカナデを連れて帰るね」
「…ソラ?」
「カナデ。もう、起きる時間だよ。…カナデの音は、きれいなんだから…だから、カナデがカナデの翼を思い出せばいい。カナデの鳥籠には、鍵はかかっていないはずだから――」