「――…デ…、カナデ…起きた?」
気づけば僕は毛布をかけられ、ソラの膝の上で眠っていた。
どのくらい経ったのだろう、ソラのいつもの柔らかな微笑みが、何故だかとても愛おしい。
「…夢を、見ていた気がするんだ。僕は…学才も、力もなくて…優秀な家族たちの笑い者で…、一台の古びたピアノだけが友だった」
そっと、辿るように語ると、ソラは穏やかに微笑んで、次を促した。
「――書庫から音楽の資料を漁って、楽譜の読み方を覚えて…鍵盤と見比べて…みんなが寝静まった真夜中におそるおそる弾いた一音、その響きに、僕は魅了された。…独学で覚えたピアノで、心のままに自由に幾つかの曲を生み出した頃…家族は僕のもとに、先生を連れてきた。…せめて国のために、紡ぎ手となれるようにと…役立たずの僕には、その道が最後の灯火だから、と」
「…夢の中の、カナデの居た国は、どんな国?」
「ん…と、機械技術のかなり発達した国で…、隣の国としょっちゅう争ってるんだ。だから国はより優秀な技術者を育てて兵器の開発に…それから、屈強な兵士を育成するための軍学校も…あって」
「カナデの、お家は?」
「…家は、軍や技術部とのつながりが強い、エリート一家…僕は、三人兄弟の真ん中で…、優秀な兄と弟と、いつも比べられてた。落ちこぼれのお前でも、紡ぎ手…国の歴史を作曲して演奏するピアニスト…力なき者が唯一役立つ職務にはつけるようにって…」
「…うん」
「僕はだんだん才を認められて、紡ぎ手になった…多くの人が称賛してくれた。だけど僕の音楽は欠けているみたいで…このままだともっと上には行けないからと、先生や家族は僕を…寝食以外はピアノにがんじがらめにして…来る日も来る日も、弾くのは国にとって都合のいい歴史音楽ばかり。好きな曲さえ弾けない…それはまるで…」
「…まるで?」
「……鳥籠だった」