「…ねえ、カナデ。おなか、すかない?」

不意にソラが言って、カナデはピアノを弾く手を止めた。

「…おなか、すく、って…なんだっけ…?」

「何かが食べたくなるってことだよ。こんがり焼いたパンに木苺のジャム、それからサラダを少し」

「…たべた…い?」

「そう。あと…あったかいミルクティー」

遠くを眺めていたソラは、どこか哀しげに微笑む。
腰まである長い髪をひとふさ、指先でつまんで少し見つめてから、ぱらぱらと元に戻した。

「……? よく…わからない…けど、今は一人になれたんだし、好きな曲を弾きたいな」

口にしてから、カナデははっと息を飲む。

(今、僕は何て言った…?)

眉間に皺を寄せたまま、椅子から床に座り込んだカナデは、ずきずきと痛み始めた頭を必死に押さえた。

痛みは、だんだん強くなって――。

「……こころをなくした、あおたちは」

ぽつりぽつりと小さな歌が、暗くなった視界に響いていた。



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