「もうダメよ。今日はおしまい。」

先程までの熱が残る唇を離してそう告げる。ひとつしかない枕を自分の胸に抱きかかえてルフィに背を向けると「えー!やだ!おれはまだしたいんだ。」と、大きな手にすぐに掴まってしまう。狭いシングルベッドの上で逃げられるはずもない。

「もうっ!ダメって言ってるのに…。」

本心ではダメだなんて、ちっとも思っていない。けれどそう言ってしまうのは、ルフィが必ず甘えてくるのを知っているから。

「ナミ。」

名前を呼んだその唇で私の耳の裏にキスをして、首筋から肩へ、ゆっくりと啄ばみながら移動していく。
くすぐったくて、もどかしい感覚に思わず吐息が漏れる。

それを肯定と捉えて、ルフィの手の動きは大胆にそして図々しくなっていく。かさついた指先。硬い皮膚の感触が好きで、抵抗する素振りも見せずに身を任せた。



ルフィと一緒に暮らし始めてから、ほぼ毎晩こんな風にベッドの上でじゃれ合っている。以前の私だったら想像もつかない。


ルフィは人探しをしているらしく、仕事を介して情報を探りながら色々な街を渡り歩いている。
私もそんな生活をしているから定職に就くことは出来ず、短期のアルバイトで食いつないでいる状態。もちろん前のように贅沢は出来ないけれど、そこに不満は全く無かった。


ルフィは今も仕事のことは詳しくは教えてくれない。それで良いと思った。ルフィが何者でも。例え犯罪者でも。

それでも、たまに帰ってこない日があって、その時はたまらなく不安で悪いことばかり想像してしまう。
もし私以外に女がいたら…そう考えるだけで気が狂いそうになる。ルフィと一緒になって初めて自分が嫉妬深い女だと知った。
今のところ女の影はないけれど、想像だけで独占欲が剥き出しになるほど。

こんな感情、知りたくなかった。


「ナミ、お前何考えてんだ?」

ルフィの不機嫌そうな声で我に返る。

「ううん、何も。」
「嘘付け。」

彼は私の集中が逸れることを嫌がる。滅多に私に怒ることはないのだけど、こういう時はとても不機嫌になる。

でも、それは私への執着心の表れだから嫌いじゃない。

ふてくされたルフィの顔が年齢よりも幼く見えて可愛いから、たまに怒らせてみるのも悪くはないんだけど、一度機嫌を損ねると後が面倒くさい。それを知っているから、何とか空気を変える。

「ねえ、汗かいちゃった。一緒にシャワー浴びない?」

古いマンションのユニットバスはとても狭くて二人だと少し窮屈。
けれど10月も終わりに近づいて、隙間風が入ってくる肌寒いこの季節はふたりでピッタリくっついて入るのがちょうどいい。

コックを捻ると熱めのシャワーが勢いよく出てきて、頭からかぶったルフィが犬みたいに顔を振って水をはらう。

「洗ってあげる。」

手のひらでボディソープを粟立てて、ルフィの肌を撫でていく。首から鎖骨、肩を辿って、抱きしめるように背中に腕を回す。

「くすぐってェ。」
「洗ってあげてるんだから文句言わないの。」
「うう…わかった。我慢する…。」
「わかったなら良し。」

会話しながら唇は近づいていて、どちらからともなくキスをした。

何度してもしたりない。この感覚は何だろう。舌を絡ませて、もっと深く繋がりたくて、どんなに混ざり合っても決してひとつにはなれない。

吐息も唾液の滴る音も、シャワーが全てかき消してくれる。


小さなバスルームには湯気が充満していて、このままだとのぼせてしまいそう。

「はい、おわり。」

ルフィの体を洗う手を止めて、少しだけ距離を取る。

「もうおわり?上だけ?」
「当たり前でしょ。」
「下は洗ってくんねェの?」
「自分でやって。」
「ケチ!」
「何とでも言って。」

ルフィは口を尖らせて不満そうにしていたけど、すぐに何かを思い付いたようで表情を変える。

「じゃあ、いいや。今度は俺がナミを洗ってやるよ。」

そう言って私の腰を掴んで引き寄せると、背中とお尻を無遠慮に手が這い回る。ボディソープなんてつけていなくて勿論洗うつもりが更々ないのは知ってる。

リップ音を立てて唇に軽めのキスを落とされて、そこからルフィの唇は顎のラインを辿ってきて耳朶を甘噛みする。

「……あ…。」

触れられるところ全部が気持ちよくて、体の神経がまるでそこにしか無いみたい。ルフィの唇だけを感じていて、それ以外のことは何も考えられない。

ルフィの熱と室内の湯気で段々と頭がボーっとしてきた。














「ねえ…本当にここでするの?」
「ダメか?」
「ダメっていう訳じゃないけど…。」

壁に手をついて、ルフィの方にお尻を突き出すような格好が異様に恥ずかしい。

「ちゃんと外に出すからいいだろ。」
「そういう問題じゃ…。」

じゃあどういう問題なんだと聞かれても上手く説明できる気がしない。

ルフィと出会う前までは私の中に絶対として存在していた常識やモラルはどんどん無くなっていく。それが良いことなのか悪いことなのかはわからない。
でも以前とは違って、偽りの私はいない。誰かに建前を言ったり、取り繕うこともなくなった。自分に正直な私しかいない。

ルフィに抱きしめられると早く気持ち良くして欲しくて、ひとつになりたくて、何もかも考えることを放棄した。


バスルーム中に声が響く。もしかしたら外に漏れているかもしれないけれど、それもどうでも良かった。
肌を重ねている時だけが、私が私であることを実感できた。
先が見えなくても、未来がなくても、今この瞬間さえあれば他には何もいらないと本気でそう思えた。

ルフィの律動が速くなって、いつもより低い声と荒い息遣いで耳元に囁きかけられる。

「やっぱり中で出したい。」
「えっ…!」

いきなりだったから、止める間もなく全てを注がれてしまった。



















「あー…、やっぱり風呂場は狭いなァ。次引っ越す時は風呂が多いとこにするか。」
「えー!広くても嫌よ。私、ベッドがいい。」
「風呂場も楽しいだろ?」
「楽しくないわよ。疲れちゃった。」
「そうかァ?」

また二人して狭いシングルベッドに戻って、そんな会話をしている。
ルフィの体温が心地よくて、きっともう一人には戻れない。

寝心地のいい場所を探して、ルフィの首筋に顔を埋める。深呼吸するとボディソープの爽やかな香りがした。

「おやすみ、ルフィ。」
「ん、おやすみ。」


まるで、ままごとみたいな恋だ。






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