「…そのドレス、いつものナミさんと雰囲気違いますね。」

サンジ君の言葉で、改めて自分のドレスを見返す。

「そ、そうかしら?たまには違うのも良いかなと思って。…変?」
「いや!ナミさんは何を着てもお似合いですっ!その上品なデザインが更にナミさんの魅力を引き立てていてお美しい!!」
「…ありがと。」
 
 
サンジ君の言うとおり何を着たって似合うのだけど、本当はこんな地味なデザイン全然好みじゃない。
私はもっと大胆なカットの方が好きなのだけど、肌なんてほとんど出ない襟付きのデザイン、しかもそういったドレスは地味なものしか見つからなかった。

 

でも、まあ今回のパーティ潜入は目的が違うし、そうも文句は言ってられない。

 

 

 

「では、レディ。お手をどうぞ。」

 

会場の前に到着すると、そう言ってサンジ君が腕を差し出した。

 

肘に手をかける直前に念のため周りをキョロキョロを見回して確認をする。

 

「ナミさん、どうかしました?」
「ううん、何でもないわ。」

 

…まさか、ここまで付いてきて無いわよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

事の始まりは昨夜、この島に到着してから。

 

食料や必需品の調達で立ち寄って、ついでに酒場で食事をしている時に噂話が耳に入ってきた。

それはこの島で秘密裏に存在しているらしいカジノ。

表向きは社交界のパーティだけど、そこで行われているのは裏取引。

 

お金と情報の匂い、行かないわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でサンジなんだよー!」
「だから何回も言ってるでしょ?」

 

パーティにはパートナー同伴が必須だから、参加するのは私と後一人。

翌朝のパーティ当日になって、その一人を誰にするかで揉めている。揉めているというか、ルフィ一人が文句を言っているだけなのだけど。

 

 

男女ペアだから勿論最初からロビンは除外するとして。
フランキーとブルックは目立ちすぎて論外。あと、チョッパーもやっぱり目立っちゃうからダメ。
ウソップは…とチラリと見ると「うっ…パーティに行ってはいけない病が…!」と、私を守ってくれそうにないので却下。となると残るはルフィ、ゾロ、サンジ君なのだけど。

「アンタとゾロはすぐ誰かと揉め事起こすし、大騒ぎになるからダメなの。」
「サンジだって、すぐケンカするぞ!」
「アンタ達がいなければ大丈夫。それにサンジ君なら手配書で顔も割れてないし。」
「俺は認めないぞ!」
「アンタは認めなくても、もう決めたの。サンジ君よろしくね。」
「ハイッッ!!喜んでお供をさせて頂きます!ナミさんの身は命に代えても守るのでご安心を!!」
「はいはい、ありがとね。でも、そこまで大袈裟じゃないから。」
「ということで、お前は用無しだルフィ。」
「もー!そうやって煽らないのっ!」

サンジ君とルフィが今にも掴み合いになりそうなのを何とか引き剥がす。

パーティに着て行くドレスを買わなきゃいけないし、その後もずっと文句を言い続けるルフィのことは無視をしてロビンと出掛けることにした。

 

 

 

「ルフィのご機嫌損ねたままでいいの?」


船を下りて二人で歩いていると、ロビンがそんなことを言う。

 

「アイツの我侭に付き合ってられないし良いのよ。」

 

そう、いつもアイツの我侭が通るなんて思わせちゃいけない。
それにパーティなんて興味ないくせに、何で今日に限ってあんなに食いついてきたのか理解できない。

「どうせ美味しい物が食べたいだけなんだから、気にしないでいいのっ。」
「…後が大変だと思うけど。」

 

ロビンが意味深なことを言ったけど、聞き返しても微笑むだけではぐらかされてしまった。

 

 

 

 

私達が立ち寄った島は富裕層が多く住むところらしく、街の中心は立派な建物が建ち並んでいる。

高級そうなドレスブティックもすぐに見つかった。

敷居の高そうな重々しい扉をドアマンが開ける瞬間、少しだけ心が躍る。
 
「わぁ…素敵っ!!」

いつもは動き易さ重視でカジュアルな服装が多いけど、ドレスに興味が無いわけじゃない。着る機会が無かっただけで、憧れはあった。

繊細なオーガンジーのドレスに、品のある光沢感のサテンドレス、普段の生活には全くといって良いほど必要の無いものなのに、目に留まるもの全てがキラキラして見える。


「ねえねえロビン!コレ、素敵じゃない?」

手に取ったのはワインレッドのカクテルドレス。背中が大きく開いたデザインがとても魅力的。

「あら素敵ね。あ、後こういうのもナミに似合うと思うわ。」

ロビンが選んだのは、マーメイドラインのロングドレス。深いスリットが入っていて、かなりセクシー。

「わあ!私、こういうのも好きよ。流石、ロビンね。もー、色々あって悩んじゃう!」
「そうね。取り敢えず試着してきたら?」
「うん、そうするわ!」
 
他にも何着か手にとって試着室に向かう。

高級店というだけあって試着室も豪華。壁一面の大きな鏡に、猫足のソファ。試着室というより、まるで部屋みたい。

まずは一着目のドレスを手にとって、身に着けて行く。
ワインレッドのドレスは想像通り良く似合っていて、鏡の中の私はまるでどこかの貴族みたい。

ポーズを取ってみたり、ターンをしてみたりと暫く見惚れていたら、ガチャリとドアの開く音がする。

「えっ、ちょっと…」

鍵を掛けたはずなのに。
慌てて振り向くと、そこにいたのはロビンでもお店の人でもない。


「…ルフィ、アンタ何やってるのよ?ていうか、鍵かかってなかった?」
「ん?簡単に開いたぞ。」
「開いたぞじゃなくて、鍵かかってたら普通は開けないのよ…。何しに来たの?」
「別に何も。」
「じゃあ着替えてる最中だからドア閉めて。」
「おお、わりぃ。」

おとなしくドアを閉めたかと思ったら、何故かルフィも試着室の中に入ってくる。

「ちょっと!何考えて…。」
「え?お前がドア閉めろって。」
「着替えてるんだから出てってよ。」
「いいじゃねぇか、こんな広いんだしよ。」

そう言うと、まるで自分の部屋のようにソファに寝そべる。

広い狭いの問題じゃないのだけど、ここで私が何を言ってもルフィが出て行く気配は無い。

「…その服、着てくのか?」

どうしたものかと睨むでもなくルフィを見つめていたら、意外なことを聞かれた。
ルフィが服に興味を持つことは、かなり珍しい。

「うん、今…選んでるとこ。ど、どう?似合う?」
「普通。」
「…あっそ。」

少しでも期待した自分がバカだった。ルフィにそういう感覚が無いことぐらい知っていたはず。

パーティまで時間も無いし、ルフィはいないものと考えて一つ溜め息を漏らしてから背を向けて着替えを続ける。


「俺もパーティ行くぞ。」
「ダメだって行ってるでしょ。」
「俺だって美味いもん食いたい。」
「だから、今回はそういうパーティじゃないのっ!」

鏡越しに睨みつけると「…わかった。」と拍子抜けするほど素直な反応。

そんな風にされると少し可哀そうだったかな…と仏心を出して油断したのがまずかった。
 

「こっちでガマンする。」
「えっ…?」


腕を取られて体が反転したと思ったら、ソファに座るルフィの膝の上に抱き込まれていた。

至近距離で見詰め合うルフィの目の色が違う。
これは、スイッチが入っている時の、ルフィ。

ゆっくりと顔が近付いてきて、唇が触れる寸前で咄嗟に顔を逸らせた。
危うく雰囲気に流されそうになったけど、私だって一応はこんな公共の場でそんなことをしてはいけないという常識ぐらいはある。

「何で避けんだよ?」
「……。」

不満そうなルフィの腕はガッチリ私の腰に回されて離してくれそうにない。
何とか説得してこの場を抑えないと、と
考えているうちにルフィは勝手に先に進めていく。

何とか顔は逸らしているものの、ガラ空きの胸元にチュ、チュと音を立てながら吸い付いてくる。

「や、ちょっと、やめてって!」

外に聞こえてしまいそうで、出来るだけ声を落として咎める。


「ナミ。」

いつもより少し低い声で私を呼ぶ。
その声に弱いことを知っていて名前を呼ぶなんてずるい。
頬に手を添えられてゆっくりと顔が近付く。

ダメなのに。


ルフィにキスされると頭がボーッとしてきて何も考えられなくなる。

私の背中を撫で回している手が何かの存在に気付いて動きを止める。そして、すぐにファスナーを下ろす音が聞こえてきた。

慌てて肩を叩いて抵抗の意思を伝える。

「ちょ、ちょ、ちょっと!」
「何だよ?」
「何だよじゃなくて!何考えてるのよっ。」
「大丈夫だって。最後まではしねぇから。」
「さ、最後って……んっ…!」

確実な意思を持ったルフィの手の中で抵抗のすることも出来ず、その後はもう流されるままに、なし崩しに翻弄されてしまった。

こんなところで、ドレスも着たまま。
いや、試着室とは言え、こんなところで全部脱がされても困るのだけど。
















何とか呼吸を整える私を腕の中に、ルフィはニコニコご機嫌な様子。

「じゃあ、俺パーティは行かないことにしたから!」
「ああ、そう…。納得してくれたみたいで良かったわ。」
「船で待ってることにする!」
「そうしてちょうだい。」


何だかもう色々と疲れた果てた私と対照的に足取りも軽くそのまま豪快にドアを開けそうになるルフィを慌てて止める。

ドアをそっと、こぶし一つ分程度開けて辺りを見渡す。

誰もいないことを確認してから、ルフィを追い出した。二人で出ていくところを誰かに見られるなんて、たまったもんじゃない。
そもそも、ルフィが入ってくる時も誰かに見られていたんじゃないかと思うと気が気じゃない。


ルフィが出ていった後のドアを閉めて一息つく。いい加減試着室から出ていかないと、いくらなんでも時間がかかりすぎで変に思われてしまう。

そう思っていると、ちょうどドアを叩く音がした。

「ナミ?ドレス、まだ悩んでるの?」

ロビンの声だ。
ドレスなんて結局一着しか着てないけど、もう選んでる暇はない。

「あ、う、うん!」

大丈夫。普通にしてれば何もバレていないはず。

一呼吸置いてからドアを開けた。


「この、赤いドレスにしようと思って。ど、どうかしら?」
「そうねぇ…ナミに似合っていて、とっても素敵だけど。ちょっと刺激が強すぎるかしら?」

ロビンが何かを含んだようにクスリと笑う。

「でも、仲直りできたみたいで良かったわ。」
「はっ?」

ロビンの視線を追って、自分の胸元を見下ろすと一面に花を散らしたようなキスマークの痕。
まさかと思って後ろの鏡を振り返ると、背中も同じように…。


あ、アイツ……いつの間に!!


「ちっ違!これは、その…!!」

しどろもどろになって何か言い訳しようとしても、ロビンの笑顔を前にして、言い訳なんて何の意味もないことを知る。


ルフィのやつ、絶っ対に許さないんだから…!!


















結局、そのお店にあったドレスの中で一番肌の露出の少ないデザインを買うしかなかった。

サンジ君と潜入したパーティも、カジノで勝てたぐらいで、役に立ちそうな情報は何も得られなかったし。本当に骨折り損。

クタクタになって船に帰り着く。疲れた原因はパーティと言うよりも試着室での出来事のせいなのだけど。


「お、ナミ。おかえり!土産は?」

サンジ君と別れて、女部屋に向かおうとすると船の縁に腰掛けたルフィが私を見つけて、ふざけたことを聞いてくる。

「はあ?観光に行ったんじゃないんだから、お土産なんてあるわけないでしょ!」

それに、今日は本当に許さないって決めたんだから。
背を向けてさっさと部屋に向かおうとすると、いきなり体がフワッと浮いてルフィの肩に担がれていた。

「俺、約束通りにちゃんと留守番してたぞ。」
「だから何?私、すっごい怒ってるの。降ろしてくれない?」
「ダメだ。土産が先だ。」
「もー、お土産なんて無いって…」
「さっきの続き。」
「はあ!?冗談じゃないわよ!降ろしてってば!」
「その服良いな。すげー似合ってる。」
「こんな地味なドレス、誰のせいだと思ってんのよ!!」


笑いを押し殺して肩が震えてるのが余計に腹が立つ。


「もー!降ろしなさいよ!バカー!!」



船に響き渡る声を聞いたロビンが「だから、ルフィのご機嫌治しておいた方が良いって言ったのよ。」と呟いたのを、同時刻、身をもって実感していた。





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