ああ、ルフィ…
わらわは、そなたのことを想うだけでこんなにも心満たされ、
そなたがこの目に映るだけで世界は光輝き、こんなにも美しいものだったのかと思い知る。
ああ、これが…恋。
「姉様、さっきからそわそわしすぎね。」
「ルフィに会うたびに舞い上がって、いつになったら慣れるのかしら?」
妹達はまだ恋というものをしたことがないから、わらわの気持ちがわからぬのも仕方あるまい。
こんなにも幸せになれることがこの世にあるのかと、早く知って欲しい。
それに、今日はルフィが仲間達と女ヶ島に来ると報せを聞いて居ても立ってもおられぬ。
何故こうも時間が過ぎるのが遅いのだろうか。
「のう、ニョン婆よ。ルフィの仲間達には何と挨拶をすれば良いのじゃ?」
「何と…とは?普通にすれば良いニョでは?」
「そ、そうか…。わらわのルフィがいつも世話になっておると礼をせねば…。」
「…蛇姫よ…。」
「姉様…。」
皆が不安げな顔をするのも無理はない。
ルフィの仲間ということは、将来的にはわらわの仲間ということ。どんな者達なのか気掛かりなのだろう。
しかし、ルフィの仲間とあれば素晴らしい者達に決まっておる。ああ、早く会いたい。
待っている時間すらも愛おしく思えるものじゃ。
「あっ!姉様、ルフィの船が見えたわ!」
「なっ何!?でででででは、迎えに参るぞ。」
「………姉様。」
ルフィの船よりも早く湾岸に到着し、使いの者達に食事の準備をさせる。
わらわは、そなたのためにこんなことしか出来ぬが少しでも役に立てれば幸せじゃ…。
船が到着して、ルフィがこちらに手を振っている。その瞳にはわらわが映っているのだろうか。
「おー!ハンコックー!久しぶりだなー!」
船から飛び降りたルフィが、わらわの元へ駆け寄る。
こ、これはもしやプロポーズ!?
両手を広げたわらわを通り過ぎて、ルフィは後ろの食料に飛び付く。
「すんげー!これ、食っても良いのか?」
「も、もちろんじゃ!!全て、そなたのために用意した。足りなければ、また持ってこさせる。」
「サンキュー!」
「おい、ルフィ。目的が違うだろ?」
「船の修理する間、匿ってもらうだけだ………そそそそそこにいるのはいつぞやの絶世の美女!?」
ルフィに続いて船から降りてきたのは、緑色と金色。
それから、鼻と獣とガイコツとロボ。
そして最後に降りてきたのが、
「すごいわ…女ヶ島…本で読んだときから、いつかは来たいと思っていた…。」
「もー!ルフィ、食べてばっかりいないで、ちゃんと事情を説明したの?」
黒髪の女と、少し背の低いオレンジ色の髪の女。
仲間に女がいないとは言っていなかったが…。
それにしても、ルフィの仲間達は不思議な者達が多い。
わらわに初めて会ったものは皆、この美貌を前にして平伏すというのに、金色とガイコツ以外は何ともないようじゃ。
「あなたがハンコック?ルフィから色々聞いてるわ。」
「おお、ルフィからわらわのことを…。そなたは?」
「あ、失礼。私はナミ、よろしくね。」
何であろうか。この、今まで感じたことのない焦燥感。
何処にでもいるような普通の娘。
ルフィの大切な仲間なのに、わらわは何を…。
「み、皆も船旅で疲れているであろう。少し、城で休んではどうじゃ?」
それだけ告げて、その場を後にした。
「どうしたのかしら?蛇姫様、さっきから溜め息ばかり。」
「ルフィに会えてさぞ喜ばれていると思ったのに、何だか浮かない顔ね。」
皆が不思議がっているが、わらわにもわからぬ。
何故こうも心が晴れぬのか。ルフィの無事な姿を見れただけで、満たされたはずなのに。
もしかしたら、さっきは顔をよく見れなかったからかもしれぬ。
「ルフィは今どこじゃ?」
「えっと、ルフィなら船の方に戻ったと思います。さっき走って行くのが見えたから。」
「そうか、わらわも少し出掛ける。」
「あっ、じゃあ力車を用意させます。」
「よい。歩いて行く。」
「えっ!蛇姫様が歩いて…。」
「たまには歩きたい気分の時もある。使いの者はいらぬ。一人で行く。」
ざわめく城を後にして、一人湾岸に向かった。
きっと、ルフィの顔を見ればこの得体の知れぬ不安も消えるはず。そう、思っていたのに。
麦わら帽子を見つけて近付くと、それを被っていのはルフィではなくて、オレンジ色の髪の…確かナミという娘。
そしてナミの膝を枕にして、スヤスヤと眠っているルフィの姿。
何故か、足が地面に貼り付いたかのように動かぬ。
「あ、ハンコック。どうしたの?」
気配に気付いたナミがこちらを振り返る。
「もしかして、ルフィに用があった?コイツ、寝ちゃったみたいで。」
そう言いながら、ナミの指がルフィの前髪を梳く。その指は無意識だろう。
「わらわも、そちらへ行っても良いか?」
「どうぞ。」
一瞬キョトンとしたナミが、微笑む。
「いちいち聞かなくても良いのに。」
自分でも何故聞いたのかはわからぬ。
ただ、見えない壁を感じた。
ルフィの寝顔は今まで何度か見たことがあるが、そのどれとも違っていた。
「ぐっすり寝ちゃってるみたいで…その内お腹が空いて起きると思うんだけどね。」
声は困っているようだが、横顔は決してそんなことはない。
「食べて遊んで寝て、子供かっつーの。」
「…ルフィの寝顔はいつ見ても美しい。」
「うっ、美しい!?コイツが?」
ナミがまじまじと顔を覗き込んでくる。
そんなに可笑しなことを言ったつもりはないが。
「そなたは、そう思わぬのか?」
「う、うーん…美しいかぁ…。美の解釈は人それぞれよね…。」
「その麦わら帽子は、ルフィの大切なものだと聞いている。」
「ああ、これ?うん。宝物だって言ってるくせに、すぐボロボロにするんだけどね。」
ナミが頭の上の麦わら帽子をつつきながら答える。
一言、一言が、何故か心に波風を立てる。
わらわは一体どうしたというのだ。
「ルフィのことは、どう思っている?」
「ど、どうって…仲間…だけど。」
「大切か?」
「何だか質問攻めね。」
「大切ではないのか?」
「もちろん大切よ。仲間だもの。たくさん助けてもらって、たくさん守られてきた。だから今度は私が助けるって決めたの。」
心の中が真っ暗になったように何も見えない。
「そなたに、ルフィを助けることが出来るのか?」
「出来なくてもやるの。そのために二年間離れてたんだもの。もう一人にしないって決めたの。」
「わらわは実力の過信は好かぬ。時として、それが弱点となる。」
「…何か、怒ってる?」
「怒ってなどおらぬ!何故、わらわが怒らねばならぬのだ。」
「それなら良いんだけど。」
「もうすぐ夕食の時間じゃ。わらわは先に城に戻る。」
ナミの言葉を待たずに立ち去った。
わらわの方がルフィのことを大切に想っておる。
わらわの方がいざという時、ルフィの力になれる。
なのに、何故…。
翌日、城の中にはルフィの声が響いていた。
「ルフィ、どうしたのじゃ?」
「おお、ハンコック。ナミ、どこ行ったか知らねぇか?探してんだけど、見つかんねぇんだよ。」
「ナミは知らぬが…何かあったのか?」
「それがよー、見てくれよ。これ。」
差し出されたのは麦わら帽子。
「また、穴開いちまってよー!ナミに直してもらわねぇと。」
「わらわが直そう。」
「お前、直せんのか?」
「裁縫係に言い付けて、今よりも破れにくく補強させる。」
「んん、そうかー。でも、やっぱいいや。ナミに直してもらう。」
最近の自分は何かがおかしい。
それは、ナミが来てからか。
「わらわが、どうしても直したいと言ってもか?」
何故そんなことを言ったのか自分でもわからぬが、気が付けば口から勝手に出ていた。
ルフィは少しだけ不思議そうな顔をしたが、満面の笑みで答える。
「わりぃな!これは、ナミに直してもらうって決めてるんだ。」
何故、そんなにも眩しく笑うのか。
何故、ナミに直してもらうのか。
そんな無粋なことは聞かぬ。ルフィのことじゃ、理由などは無いのだろう。
「そうか…ナミなら、もしかしたら城の地下に行ったかもしれぬ。ロビンとやらと、城の文書に興味を示しておった。」
「そっか。ハンコック、サンキューな!行ってみる!」
走り出した背中が眩しく、わらわには決して届かぬもの。
「姉様、ここ数日は毎日溜め息ばかり。何かあったのかしら?」
「…のう、ソニア。マリーよ。恋とは、辛いものじゃ。」
「あっ姉様!?」
「ルフィと何かあったの?」
ルフィと何かあれば、どんなに幸せなことか。
何もない。わらわには、何もないのじゃ。
「こんなにもルフィのことを想い、運命さえ感じたのに…何故じゃ。」
「姉様…。」
「これから先、ルフィほどわらわの心を締め付ける男は現れぬ。胸が張り裂けそうに苦しくても、どうにもならぬ。」
ルフィのことを想っているからこそ、ルフィの心の中に誰がいるのかが見えてしまう。
美しいだけではない。
醜いのも、恋。
「不思議なものじゃ。こんなにも苦しく、こんなにも辛くても、ルフィに出会わなければ良かったとは決して思わぬ。」
これが、恋。
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リク内容は「二年後でハン→ルフィ→←ナミかハン→ルナミ」でした!
ハンコ様が別人28号ですみません…別人28号とか古いこと言ってすみません…。
女同士の熾烈なバトルにしたくなかったので、完全片想いの可哀想な感じになってしまいました。
ちなみに、久しぶりに女ヶ島編読み返そうと思ったら単行本が見つからず想像で書きました←
ハンコ様、難しいですね。。
でも難しかったけど、初ハンコ様楽しかったです!
素敵なリクエストありがとうございました!!
二年後設定が活かしきれてなくてすみませーん(>_<)
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