カリカリと羽ペンが紙を削る音がする。
その音が心地よくて、俺は昼寝をしに時々ここへ来る。
 
昼下がりの測量室、ナミはさっきからずっとペンを走らせている。
よく飽きなねぇなーと思いつつ、ベンチに寝転がってるうちにゆっくりと打ち寄せる眠気に誘われて瞼を閉じた。
 
 
 
数分経ったか経ってないか、眠りに落ちるか落ちないか。ちょうどそんな時、顔の前に気配を感じて目を開けると丸い胸が目の前にあった。
 
「何だ?」
「あ、起こしちゃった?ちょっと本が見つからなくて。」
 
ナミが、俺の上に身を乗り出して壁側の本棚を漁りながら答える。
チラリと目線だけ本棚に向けると、細くて白い指が背表紙のタイトルをなぞりながら行ったり来たりしている。


ふわふわの髪の毛が揺れる度に俺の顔をくすぐる。
 
 
「かゆい。」
「アハハ、ごめんごめん。もうちょっとだけ我慢してて。」
 
 
細いのに柔らかくて、俺とは違う不思議な匂いのする身体。俺の前ではムボービ過ぎるコイツ。
手を伸ばすと簡単に腕の中に収まった。
 
 
「なっ、何?」
 
俺の上でナミが慌てて上体を起こす。
 
「何が?」
「何がって…いきなり…。」
 
でっかい目が忙しなく瞬きを繰り返して俺を見る。
 
「嫌なのか?」
「嫌っていうか…作業中だから、ちょっと困る……かな?」
「そうか。」
 
仕方なく手を離すと、あっという間に飛び退いて机に戻って行ってしまった。


「本は?見つかったのか?」
「また今度探すから良いっ!」
 
 
呼びかけても振り向かない背中。


もう少しギュッと閉じ込めておいても良かったな。

物足りない気もするけど、耳が赤く染まって見えたことに満足してまたを目を閉じた。

 

 

見なくてもナミがどんな顔してるかは想像がつく。眉をハの字にして真っ赤になってるに決まってる。

 

なのに、アイツはすぐ知らんぷりをする。

捕まりそうで捕まらない。面倒くせぇのはあんまり好きじゃないんだけどな。

 

 

 

カリカリカリカリ、羽ペンは相変わらず忙しそうな音がする。

 

 

 

 

 


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
眠れねぇ。
 
昼寝し過ぎたせいか、全然眠くならねぇ。
そういや腹も減った気がする。
 
時計を見ると深夜1時。サンジは………よし、寝てるな。
 
そろりと男部屋を抜け出して、メシの部屋に向かった。
冷蔵庫には鍵がかけられてるけど、この前ウソップが開ける方法を発見したから問題ない。
ちょっとぐらいなら食い物が減っててもバレねぇだろう。
 
 

 


 
冷蔵庫に頭を突っ込んで中を物色してたら、つい夢中になりすぎて外の気配に気付くのが遅れた。
扉が開く音がする。
 
やべぇ、バレた。
 
サンジの蹴りを2、3発覚悟して固唾を呑むと、聞こえてきたのは予想外の声。
 
「コラッ!また盗み食いして!」
 
 振り向くと風呂上がりのナミがいた。
 
「もー、誰もいないと思ったのに!ま、アンタだから別にいっか。」
 
濡れた髪を頭のてっぺんでまとめて、バスタオル1枚巻いただけの格好で近付いてくる。 
俺の隣で一緒に冷蔵庫の中を覗き込む。しゃがんでる俺の目線は、ナミの太ももの位置。ナミが動くとバスタオルが危なげに揺れる。


「私も喉渇いちゃった。何か飲もうっと。」
 
コイツ、俺のこと男だってわかってんのか?
 
「俺だから別にいいって、どういう意味だ?」
 
さっきの言葉に少しだけ腹が立ったから聞き返す。
ボトルに入った飲み物をうまそうに喉に流し込んでからナミが答える。
 
「どうって…その通りの意味よ。サンジ君とかブルックだったら危険だけど、アンタは女の裸とか興味ないでしょ?」
 
俺が変なこと聞いたみたいに、ナミは不思議そうな顔をしてる。
 
髪からぽたりと落ちた滴が床に小さな染みを作った。
 
「あるぞ。」
「…え?」
「お前のはキョーミある。」
 
ボトルを冷蔵庫に戻そうとしたナミが、顔を俺の方に戻してぽかんと口を開けて固まってる。
 
「お前、すげーアホ面。」
「えっ…、ア、アンタ何言っ…。」


ナミの手からボトルが滑り落ちて、ゴトッと音を立てる。
割れてはいないみたいだ。


「聞こえなかったのか?お前のハダカならキョーミ…」
「わー!バカ!それ以上言わなくていいっ!」
「タコみてぇ。真っ赤。」
「う、うっさい!変態!バカ!!チカン!!」
 
喚くだけ喚いて、ドタバタとスゲー足音で部屋を出て行った。
 
別にハダカ見せろって言ったわけじゃねぇのに、そんな怒ることか?
 
一人取り残された部屋に、まだナミの匂いが残ってる気がする。
拾い上げたボトルを中にしまって冷蔵庫の扉を閉めた。あんまり食えなかったけど、まぁいいか。
その代わりに面白れぇもん見れたしな。
 
あの真っ赤になった顔を思い出すだけで口元がニヤけてくる。
 
さて、これからどうするか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
翌朝、みんながメシ食ってるとこに顔を出すとナミの姿は無かった。
 
「あれ?アイツは?」
「ああ、ナミなら今日中に終わらせたいことがあるからって測量室にこもってるわ。」
「ふーん…。」
 
まぁ、ロビンが言うならその通りなんだろうな。
テーブルについて、山盛りのパンに手を伸ばした。

「海図を描く真剣な横顔も素敵だったなぁ〜。」

サンジがだらしねぇ顔で、焼き上がったオムレツを俺の目の前の皿に乗せる。

コイツもきっと、ナミのあの真っ赤な顔は見たことねぇだろうな。

けどナミは「サンジだと危ない」と言った。つまり、サンジのことは男って意識してるってことか?

「…何だよ。さっきから俺の顔見てニヤついたり、ムスっとしたり。」
「何でもねぇ。」
「じゃあ、俺の料理が冷めねぇうちにさっさと食え。」
「食う。」

オムレツにフォークをぶっさすと、中からチーズがとろりと出てくる。
出されたもんは全部とりあえず一口で飲み込んで、その場を後にした。

 


 
だけど、メシ食い終わってすぐに測量室に行ってもナミはいなかった。


昼メシの時も「読みたい本があるから。」という訳わかんねぇ理由でいねぇし。
みかん畑にも、見張り台にも、アクアリウムバーにもいない。
 
段々、腹立ってきたぞ。アイツ、俺から逃げてんな?
 
 
でも、この船の中にいることは間違いねぇんだ。だとしたら、残すところは多分あそこだ。 
ハシゴを降りて地下に向かった。


ソルジャードッグの扉を開ける。確か二番だ。
 
 
…やっぱりな。

ミニメリー号の上でスヤスヤと眠りこけてるナミがいた。膝の上には読みかけの本。
 
ナミを見つけたものの起こすべきかどうするか。このまま寝顔を眺めるのも悪くはねぇけど。
そんなことを考えてると睫毛がしぱしぱ動いてナミが目を覚ました。
 
 
「おう、起きたか。」
「…ん?あ、ああ…ルフィ…げっ!」

げって何だと言う前に、慌てて立ち上がったナミが足を滑らせてメリー号の向こう側に落ちそうになる。

「おっおい、バカ!」

間一髪。

落ちる寸前のところでナミを捕まえた。海に落ちたら助けらんねぇもんな。

伸ばした腕をナミに巻きつけたまま俺のところまで戻した。

「ありがと…。」
「お前なー、危なっかし過ぎるぞ。」
「うん、ごめん。」

腕の中のナミが下を向いたまま、俺の胸をグイグイ押し返してくる。

「何だよ。」
「離してくれない?」
「何で?」
「何でって…、もう大丈夫だから。」
「何で?」
「だ、だって!アンタ、変なんだもん!」
「変?俺が?」
「アンタも変だし、私も変なのっ!アンタが昨日変なこと言うから、変なこと考えちゃって…。」
「変なこと?」
「ちがっ、そういう意味じゃなくて!」
「そういう意味?」
「あー、もうっ!!余計なこと言わすなっ!」
「イテッ。」

ナミの振り上げた手が顔面にヒットする。
痛くないはずなのに、ナミに殴られると何でか痛い。


「お前、さっきから言ってること訳わかんねぇぞ?」
「私だってわからないわよ!」 

顔を上げたナミは想像通りの茹でダコ。 

「そうか。やっと気付いたか。」
「はっ?何にも気付いてないしっ!何言ってんの!」
「知らんぷりすんなよ。」 

そんな赤い顔で睨みつけても無駄だ。
オレンジ色の髪をどかして、ナミの肩に顎を乗っけた。

ジタバタと無意味な抵抗をしてから、諦めたナミが大人しくなる。


「だって…。」
「ん?」

よく耳をすまさないと聞き取れないぐらいの小さい声でナミが呟く。

「だって…いきなり、男みたいなこと言うんだもん…。」
「俺は男だぞ。」
「……知らなかった。」

そう言うと、また黙りこくって静かな時間。

こうやってずっとくっついてんのも良いけど、ハッキリさせねぇと気がすまないのが俺の性格。

「で?認めたか?」
「気付くとか認めるとか、さっきから意味わかんないから!いい加減離してよっ!」
「やだ。認めるまで離さねぇ。」
「何それ!そんなのずるいわよ!」

不思議と、耳元でわーわー喚かれても今日は何だか良い感じだ。

「可愛い」っていう感覚よくわかんねぇけど、きっとこういうことを言うんだろうな。

「何でそんな離れたがるんだ?」
「だから…こ、困る……から。」
「何で困るんだ?」
「…わかんない。」
「でも、嫌じゃないんだろ?」


何分経ったか俺にしてはかなり辛抱強く、気が遠くなるぐらい待ち続けていたら、さっきよりも小さい声でポツリと言った。

「………………………………………………やじゃない。」 

たまらずナミを抱き締める腕に力が入る。

「ちゃんと答えたでしょ!だから離してっ。」
「嫌じゃないなら離さない。」
「何それ!ずるい!嘘つき!」
「お前は俺に勝てっこねぇんだ。諦めろ。」
「勝ち負けとか知らないし!」


やっと掴まえたのに離すかよ。

柔らかい髪、甘い匂い、俺の腕の中にすっぽり収まる細い肩。

早く、全部、俺のものにしたい。

ナミは真っ赤な顔でブーブー文句を言うのをやめない。
捕まえたは良いけれど、手なづけるのは中々大変そうだ。










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何とも思ってない相手に「あれ?私のこと好きなのかな?」って気付いた瞬間好きになっちゃうことってあるよね…(解説)


リクエストは「ルフィ視点で、ルフィらしく無自覚ナミを落とす的な話」でした!

…あんまり、落とせてない…。す、すみませ…。
でも、楽しく書かせて頂きました!

素敵なリクエスト、ありがとうございましたー(*´∀`)ノ



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