空はこんなにも晴れて気持ちが良いのに、私の心はどうもスッキリしない。
みかん畑の隣にパラソルとデッキチェアーを用意して、サンジくんが作ってくれたハーブティーも美味しいのに読書に集中できない。
「はあ…。」
朝から数えて今日何回目になるかわからない深い溜め息をついた。
「さっきから、うるせぇな。んな溜め息ばっか聞かされてたら、こっちまで気分悪くなんだろ。」
声がした方に目をやると、剣の手入れをしていたゾロがあからさまに嫌そうに眉間に皺を寄せていた。
ちょうど話し相手が欲しかった私は手頃な標的を見つけて一気に捲し立てる。
「あんたってホンットに冷たい男ね!こんな可愛い女の子が悩んでるのよ。『どうしたんだい?悩みならいつでも聞くぜベイビー』ぐらい言えないの?」
「死んでも言えるか。どっかのエロコックじゃあるまいし。」
「いいわよ。どうせ、あんたに話しても無駄だもの。」
「お前の言う通り無駄だから黙っとくんだな。」
……。
会話が終わると、さっきまでこんなに静かだったかというほどの沈黙が流れた。
「ねぇ。」
「…。」
「ねぇ、ゾロってば!」
「何だよ。無駄だから俺には話さないんだろ?」
「ゾロは、あたしを見て抱きたいとか思わない?」
「なっ…」
ガバッ、ゴホッとゾロがいきなり咳き込んでから私を睨んできた。
「何よ?」
「お前、頭でもおかしくしたのか?」
「何でよ?こんな魅力的な女の子が目の前にいるのよ。ムラムラくるのが男ってもんじゃないの!?」
「…聞く相手が間違ってんだろ。本人に聞けよ。」
ゾロが呆れたように言う。
「本人に聞けたら、こんなに悩んだりしないわよ!昨日だって…」
***
夜も更けてきて、そろそろ寝ようかとベッドに向かうとそれを見計らったかのように勢いよくドアが開く。この時間にノックも無しに女部屋を訪ねてくるのは1人しかいない。
「あら、ルフィ。どうしたの?」
目的をわかってて、わざと聞く。
「今から寝るのか?」
「そうよ。」
「俺も一緒に寝ていいか?」
「ええ、どうぞ。」
ロビンが見張りの当番で居ない時は、決まってルフィが訪ねてくる。
私はベッドの端に寄って、ルフィのスペースを作ってあげた。
ありがとな、と言ってルフィは素早くベッドに潜り込むと話を始める。
それはウソップとチョッパーと遊んだ話だったり、故郷の思い出話だったりする。
ルフィはずっと天井を見て話をする。私はその嬉しそうに話す横顔を見るのがすごく好き。飽きることなく相槌を打ちながら話を聞く
ひとしきり話し終えると、ルフィは私の視線に気付いて体ごとこちらを向く。
視線が合うとそれが合図かのようにスイッチが入る。
ルフィの大人スイッチ。
「ナミ…。」
いつもより少し低い声で名前を呼ばれて私の心臓はキュンと音を立てる。
静かに目を閉じると、軽く抱き寄せられて優しくキスされる。
啄むように何度も繰り返すその感触がくすぐったくて、思わずフフッと笑ってしまう。ルフィもつられて一緒に笑ってくれる。
何度も唇を重ねるうちに、それは段々と深いものへ変わっていく。
いつの間にかルフィの腕は私の背中にしっかりと回されていて、私もルフィの服をギュッと掴む。
ルフィのくせして、キャラに合わない情熱的なキス。
しかも、どこで覚えたんだか相当巧い。
野生動物にも本能として備わっているのかしら、なんて考える余裕も無くなってきて握りしめる手に更に力を入れた瞬間。
ルフィの唇がスッと離れる。
「ナミ、おやすみ!」
「お、おやすみ。」
そうして私はいつも何だか不完全燃焼のまま、呼吸を整えながらルフィな腕の中で寝るのだ。
言葉通り「寝る」だけ。
ルフィが私を寝かし付けるように背中をぽんぽんとさすってくれるのだけど、気付くと毎回ルフィの方が先に眠りに落ちているのだ。
***
「信じられる!?それが年頃の健全な男子なのかしら!」
「お前、真っ昼間から何つー話してんだよ。」
「深刻な悩みでしょ!こっちは女として魅力ないのかって心配になっちゃうじゃない?」
ゾロがやれやれと深い溜め息をつく。
「…大事にされてんだろ。」
「そういうものかしら?」
「そういうもんだ。」
納得したら二度と俺に話しかけるなよとブツブツ文句を言いながら、ゾロは剣の手入れを再開する。
納得出来たような出来てないような。
もっと色々聞きたかったけれど、これ以上話しかけたらゾロが本当に怒り出しそうだったのでとりあえずやめておくことにした。
「男心って案外複雑なのね。」