こういうのを「暇を持て余す」と言うのだろうか。

それとも、

「幸せなひととき」とでも言うのだろうか。




ウソップとチョッパーがそれぞれの部屋に籠って、発明やら研究やらしているらしく、遊び相手のいなくなったルフィは甲板に寝転がってお昼寝タイム。

私はその横で読書タイム。


「ナーミー。」
「何よ?」
「俺と遊べ!俺、ヒマなんだ!」


いきなり目を開けたかと思ったら「遊べ」だなんて一体何様のつもりかしら?


「嫌よ。私は暇じゃないもの。」
「本読んでるだけじゃねぇか。」
「だから、本読んでるから暇じゃないの。あんたと違って勉強しなきゃいけないことが、たーくさんあるんだから!」
「俺と違ってとは何だ!お前、失敬だな!失敬だぞ!」
「はいはい。」
「知ってるか?勉強ばっかしてるとバカになるんだぞ。」
「誰が言ったのよ?そんなこと。」
「俺だ!」
「あー、そう。」
「む!お前、信用してないな?」
「してる、してる。バカにならないように気を付けて勉強するわ。」
「ちぇー、つまんねェの。」


そう言うと、ルフィは手に持っていた麦わら帽子を顔に乗せて日除けにして、二分と経たないうちにスゥスゥ寝息を立てて本格的に眠り始めてしまった。

いつもなら、もっとしつこいぐらいに粘るのに、やけに今日は聞き分けのいいこと。


ていうか、
あんたが眠っちゃったら、私が暇になっちゃうじゃない。


本なんて最初から読んじゃいないわよ。

読むんだったら、もっと適した場所があるし、何でこんな日除けも何もない場所で紫外線を浴びながら読書しなきゃいけないのよ。


あんたのそばにいたいから、こうしてるんじゃない?


そんな、かなり自分勝手な文句を心の中で並べてみても意味がないことはわかってる。

アイツが、空気を読むだとかそんな気の利くことできるわけないもの。



でも、


わかってよ。察してよ。
もっと、私に構ってよ。


多分、私が「抱きしめて欲しい」とか「頭を撫でて欲しい」とか言えば、アイツはきっと力いっぱい抱きしめてくれるし、優しく優しく頭を撫でてくれるし、私の望むことなら何でもしてくれる。


でも、それじゃダメなの。

私があんたに触れたいって思うのと、同じタイミングで同じように思って欲しいの。



自分でも呆れるぐらい贅沢な悩み。


ただ私が素直じゃないだけ。



「ねェ、ルフィ。本当は起きてるんでしょ?」

つま先で、寝転がっている脇腹をツンツンつついてみても、ルフィは微動だにしない。


こんな可愛い私をほったらかしにして、自分だけ夢の中なんてあんまりじゃない?


「どうせ、寝たふりしてるんでしょ?」


そーっと上から覗き込んで、間抜けな寝顔を見てやろうと麦わら帽子を捲った瞬間─








頭を抱き込まれたかと思ったら、力任せに赤いベストに押し付けられて、一瞬息が止まる。


「いきなり何すんのよ!」

頭を抑えられているから目線だけ上に向けて睨んでみても、ルフィの形のいい顎のラインが見えるだけ。


「んん?ナミがこうして欲しいのかと思って。」
「な、そんなわけないでしょ!」

違うわよ!ばか!勘違いしないでよ!


この期に及んで、そんな可愛いげのない言葉ばっかり口から飛び出す私は相当な意地っ張り。


「…離して、よ。」

消え入りそうな声で呟くのは、最後の強がり。

「ダメだ。俺には、離して欲しくねェって聞こえる。」


ルフィは私の前髪に鼻先を埋めると、

「寝れねぇなら子守唄でも歌ってやろうか?」

だなんて、まるで大人みたいなことを言う。

年下のくせに生意気なのよ。


私の手から麦わら帽子を奪い返すと、ルフィはふたりの顔を隠すように被せて、またスヤスヤと眠りの世界に入ってしまう。



こんなところを、他のみんなに見つかったら何て言い訳すれば良いのよ?





…でも、ルフィが離してくれないんだもの。



仕方ないわよね?







ああ、どうしよう。




何か、すごく、











幸せ、かも。











何だかんだ言っても、

私は彼の腕の中にいられれば、結局それだけで幸せなのだ。








そんな自分の、
甘さだけを再確認した昼下がり。





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