いつものようにみかん畑の手入れをしようと足を踏み入れると、見えるアイツの後ろ姿。


寝癖をつけたままのボサボサ頭が揺れてる。



可愛いなぁ…なんて、ついつい口元が緩みそうになるのを抑える。

いけない、いけない。
見た目の可愛さに惑わされては。


アイツは凶悪なみかん泥棒なんだから。




「こら!また勝手に私のみかん食べてっ!」
「げげっ!ナミ!?」


ルフィが振り向くと同時に、ほとんど抱き付くといった方が正しい格好で後ろから飛び付いた。
案の定バランスをくずしたルフィと一緒に重なって倒れた。



草の匂いが鼻先をくすぐる。



芝生に手をついて上体を起こすと私の真下にいるルフィと目が合った。
馬乗りになった私を恨めしそうに見上げている。

「何よ。何か文句あるの?」
「……。」
「今日こそ許さないんだからね!」
「…お、」
「お?」
「俺が簡単に負けるかぁ!」
「きゃあ!」


腰を掴まれたと思ったら、そのままゴロンと体を反転させられて今度はルフィが私の上に。
一気に形勢逆転されてしまった。


「しししっ!俺の勝ちだな!」

白い歯を見せて満面の笑み。


…全く、コイツって男は女の子相手に手加減ってものを知らないのかしら?



「ちょっと!どきなさいなよ!」
「嫌だね!ナミが俺の勝ちを認めるまではどかねぇ!」


何の勝ち負けよ?
そもそも私はみかん泥棒を捕まえただけなのに。

でも勝ち負けをハッキリさせたいなら仕方ないわ。
あんたは私には勝てないってことを教えてあげなきゃね。



「ひ、ひどい!」
「ん?」
「何でそんな意地悪するのよ、ルフィのバカー!」


うわーん、と大袈裟に泣き真似をしてみればルフィはもう大慌て。


「わわっ!な、な、何で泣くんだよ?」


ほらね。
私が両手で顔を覆い隠して、真っ赤な舌を出してることなんて知りもしないで。タジタジじゃない?


「ご、ごめん。泣くなよ、ナミィ…。」


恐る恐る顔を覗き込もうと、私の両手を引き剥がしにやってきたルフィの両手を捕まえて思いっきり引っ張った。


「隙アリ!」
「おわっ!」


逆転の逆転で、今度こそ私の勝ちね。


ルフィに跨がったまま問いかける。

「どう?降参?」
「んん、参った。コーサンだ!」


ルフィは頭の横に手をおいて完全にお手上げのポーズ。
その姿があまりにも間抜けで噴き出してしまう。


「ぷっ……ふふふ、…アハハ!」
「ししし!」




ふたりの笑い声が風に乗って、みかん畑から空に抜けていった。


木々の隙間から漏れる日差しが眩しくて目を細める。


こんな意味のないじゃれ合いをしている時間ですら愛しくて幸せで


ああ、やっぱり好きだなぁ…



改めて自分の想いの強さに驚く。


でも、あんたは私の全部を受け入れてくれるから、素直じゃない私も素直になれるの。



「ルフィ、好きよ!」
「おう!」
「『好き』の返事は『おう』じゃないでしょ!何度言ったらわかるの!?」
「あい、すびばへん。」


ギュウッと捻った頬を離すと、パチンと音がして元の形に戻る。
何度見ても飽きないゴムだ。



「ルフィ、好きよ。」
「…うん、俺も。」




目を閉じると、ルフィの唇が優しく私の唇に重なる。

唇と、唇が、触れ合うだけの、
「大好きだよ」の、キス。



ふたりの唇の間から笑い声が零れる。

恥ずかしくなるぐらい甘ったるい時間。


唇が離れるのは少し惜しいけど、キスした後のルフィが少し大人びた笑顔で私を見つめてくれる。
その顔が見たくて目を開ける。



















そこで、いつも目が覚める。








真っ白な部屋の中。





ここは、小さな空島―




ウェザリア。





ここには、


寝坊助の剣士も
怖がりで勇敢な狙撃手も
面倒見の良いコックさんも
寂しがりやの船医も
心優しい考古学者も
見かけに似合わず涙脆い船大工も
律儀で、陽気な音楽家も



誰よりも泣き虫で弱くて
誰よりも優しくて強い



アイツもいない。






その現実を受け止めるには充分過ぎるほど静かな空間。


ベッドから起き上がって、洗面所に向かう。




アイツがいてもいなくても私の一日は始まるし、時間だけはどんどん過ぎていく。


顔を洗って支度をしなきゃ。


ここに来て、どのぐらいの時間が過ぎたのだろうか。
鏡に映る私の髪は、あと少しで肩まで届きそう。



ひどい顔。


今にも泣き出しそうな自分を戒めるように、ピシャリと頬を叩いて鏡を睨み付ける。




泣くもんか。

アイツに会うまでは、もう泣かないって決めたから。

アイツの腕の中で思いっきり泣いて困らせてやるんだから。











ねぇ、ルフィ。








会わないと忘れちゃいそうよ。







あんたの笑った顔、





私の名前を呼ぶ声、






抱きしめられた時の腕の体温。











全部、忘れちゃいそうよ。





まるで今までのことが夢だったんじゃないかと思えるほど。




でも、夢だったらこんなに苦しくはないよね。


夢だったら、あんたのことを考えただけで押し潰されそうなほど息が詰まったりなんかしない。











ねぇ、ルフィ。





もし二度と会えなくても、この世界のどこかであんたが生きててくれるならそれで良いよ。












なんて、そんな健気なこと私が言うとでも思った?











そばにいなきゃ意味がない。




カッコ悪くても、ボロボロでも、地面に這いつくばっててもいいの。




あんたの痛みも苦しみも一緒に乗り越えられるように私に分けて欲しい。






そんなに私も強い人間じゃないけど。






誰よりも仲間が大好きで
誰よりも一人ぼっちが嫌いなあんたが、


今、一人ぼっちで泣いてるんじゃないかと思うと、それだけが心配なの。






ねぇ、ルフィ。



会いたいよ。







すごく、すごく、

会いたい。





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