男共には一生わかるまい。










「ああ、もう!何で女だけ、こんな苦しまなきゃいけないのよ!?」


腰の痛みと、下腹部のダルさ。
何にも手につかなくて、ベッドに突っ伏してやり場のない怒りを枕にぶつける。



「ナミちゃん、大丈夫?」

顔を上げると、ロビンが私の腰元を擦りながら心配そうにしてくれていた。

「んー…ごめん。横になってれば、少し楽になると思う…。」
「そう?何か温かい飲み物でももらってくるわ。」

そう言うと、ロビンは私の髪を一撫でして女部屋から出ていった。
パタン、と軽く心地よい音と共にドアが閉まるのを見届けて目を閉じた。







ロビンに子供扱いされるのは嫌じゃない。






―少しだけ、ノジコを思い出す。










私はこの歳になるまで、生理が来なかった。









体が「女」になることを拒否していた。










アーロンと1人で戦うことを決意したあの日から。




もし自分が男だったら、
もし自分に力があったら、


有りもしない妄想で過去を塗り替えようとしては、現実を突き付けられて絶望していた。


筋肉のつかない細い腕も、少し膨らんできた胸も、全てが嫌だった。









でも、世の中の男はバカで虫みたいに言い寄ってくるヤツしかいないと知ってから「女」であることが武器になるなら最大限に利用してやろうと思った。


「見た目」で油断させて近付いて、力では敵わないとわかっているから頭を使う。


自分を守るのは自分しかいないから、一瞬たりとも隙を見せてはいけない。

飲めないお酒だって一度も酔ったことはない。
味わうこともなく胃に流し込んでいくうちに、飲み比べでは負けないほどヤケに強くなっていた。











何で女なんかに生まれてきちゃったんだろう。





いつも、考えていた。














アーロンパークが崩壊して、島のみんなに昔と同じ笑顔が戻った。


8年間の我慢が一気に放出された大宴会は凄まじいパワーだった。
私も、生まれて初めて美味しいと感じるお酒に酔い始めていた。


ふと、違和感に気付いて視線を落とす。


ミニスカートの裾からチラリと見える太股の間をつたう、

血。



その赤い色を見た瞬間に頭の中はパニック状態。

知識としては理解しているつもりだったけど、まさか自分の体に表れるとは思ってもみなくて。


どうしていいかわからなくて、誰かに気付かれる前にとその場から逃げるように走り去った。

血相を変えて走っていく私を通りすがる人達は不思議そうに見ていたけど、そんなことは気にしてられなかった。


家に駆け込んで呼吸を整える。


「ちょっと、ナミ。どうしたのよ?そんなに慌てて。」
「あ…ノジコ。ノジコ!助けて!!」


私を心配して後から付いて来たらしいノジコに飛び付いて助けを求めた。







状況を理解したノジコは、私のあまりの慌てぶりを少し笑ったけど、すぐにテキパキと対処してくれた。




落ち着くと、いきなり気恥ずかしくなってきた。



リビングでテーブルを挟んで向かい合っていたけど、何だか目を合わせられなかった。


「あ、あの…ごめん。あたし、その、初めてで…慌て過ぎよね?アハハ…」
茶化すように笑ってみせた。


「ナミ、今までいっぱい色んなこと…我慢してきたんだね。」

ノジコは笑ってはいなかった。



「これからはさ、ナミの好きなこと何でもしていいんだよ。

『コレ』は、ナミが『大人の女の人』になっていくための準備。
ホントはお祝いしないと、いけないことなの。

あたしら『女』をもっと楽しまないと。


なーんてね。」



はにかんだノジコの顔が、血が繋がってないはずなのにベルメールさんにそっくりで。



少しだけ切なくなって
少しだけ温かくなった。











「―ミ…、ナミちゃん?」


ノジコよりも少し低いトーンの女の人の声で起こされた。


「ロビン…。」

いつの間にか眠ってしまっていたようだった。


「ごめんなさいね。少しうなされてたみたいだったから。」
「何か……夢見てた、かも。」
「どんな?」
「うーん…ちょっとだけ悲しかったけど、ちょっとだけ幸せだったかな。」
「そう。」


サイドテーブルに目をやると2人分のココアが置かれていた。

「あ、ごめん。せっかく持ってきてくれたのに冷めちゃったわね。」
「いいのよ。温め直してくるわ。」
「あたしも一緒に行く!」
ベッドから起き上がってロビンの後を追った。

「あら、大丈夫なの?」
「うん。寝たらだいぶ楽になったわ。」



外に出ると予想以上の晴天が広がっていた。
眩しすぎる太陽に眉をしかめる。


しまった。
足元がフラつく。

腰の痛みは引いたものの、貧血かもしれない。
目がチカチカする。

ロビンが話しかけてくる声が段々と小さくなってきて、それでも何とか聞き取ろうと耳に神経を集中させる。



遠くの方で誰かに名前を呼ばれた気がして、振り向こうとしたところで、


完全に目の前が真っ暗になった。


















「おい!ナミ!ナミ、大丈夫か!?」



床に打ち付けられたはずの体に痛みはなくて、フワフワと宙に浮いている感覚。

「ナミ!」

もう一度力強い声で呼ばれて目を開けると、ルフィの顔が目の前にあった。

背中と膝の裏に回された腕。



自分がルフィに抱き抱えられているんだと認識するまで、少し時間がかかった。


「あ、ありがと…ルフィ。」
「お前、具合悪いんだろ?フラフラ歩くなよ。」
「え?」
「ロビンが言ってたぞ。腹痛いんだろ?ぶっ倒れるまで無理すんなって!な?」
「そうなのよ。ルフィ、ナミちゃんを部屋まで運んであげてちょうだい。」
「え?え?」

すぐ上のルフィの顔と、ココアを両手に持ったロビンの顔を交互に見ている私を置き去りにして、2人の間だけで会話が進んでいく。


「じゃあ、そういうことだから。よろしくね、ルフィ。」
「おう!まかせとけ!」


ルフィはくるりと踵を返すと私が来た道をスタスタ戻る。
ルフィの肩越しに見えたロビンが、唇だけで「ごゆっくり」と言っているように見えた。



「気を効かせすぎなのよ。…ロビンたら。」
「ん?何か言ったか?」
「何でもない。それよりも、ねぇルフィ。下ろしてくれない?自分で歩けるから。」
「ダメだ!またナミにぶっ倒れられたら俺が困るからな!」

私の言い分なんて聞き入れてくれず、ルフィの腕に更に力がこもる。









こういうのは本当に困る。









心地好すぎて癖になる。









この腕を離したくなくなるじゃない?







あんたに出会って、初めて知ったの。



「女」扱いされることが、こんなにもくすぐったくて幸せな気持ちにさせられることを。











女に生まれて良かったなぁ、とか

月に一回の女にしかわからない苦しみもたまには悪くないかも、

なんて甘ったれた考えが出てくるのも、


全部、全部、あんたのせいよ。










何で、女に生まれてきたのか。









いつもいつも考えてた。





最近わかった気がするの。






それは、きっと












あんたに出会うため。










そう言ったら、あんたは笑うかな?








私は、ちょっと笑っちゃう。









まさか、この私がこんなこと考えちゃうなんてね。











でもね、いくら考えても
やっぱり答えはそれしか見つからないから


きっと、そうなんだと思う。








そんなことを考えながら、幸せな腕の中に身を任せて目を閉じた。







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