頬を掠める心地好いそよ風。

それに乗って微かに届くみかんの香り。






みかん畑の隣に用意したデッキチェアーに寝そべって微睡む、なんて贅沢な…



―ドタッ、バタン!ゴロゴロゴロ…!



お昼寝タイム、

というわけにもいかず、ものすごい音とともにルフィが突然転がり込んできた。

普通の人間だったら骨折の一つや二つしているだろう派手な転び方だったけど、案の定ゴム人間はけろっとした顔で起き上がる。

「おう、ナミ!何してんだ?こんなとこで。」
「その言葉そっくり返すわ。あんたこそ何してんのよ?」
「ウソップとチョッパーとかくれんぼしてんだ。」
「かくれんぼがそんな激しい遊びだったとは初めて知ったわ。」
「あいつら見つかんねーんだよ。お前は?」
「…お昼寝するつもりが、誰かさんに邪魔されたところよ。」
「何!?そんなヤツいたのか?俺がぶっ飛ばしてやる!」
「ありがとう。じゃあ、取り敢えず海に飛び込んでちょうだい。」
「わかった!その悪いヤツは海の中にいるのか?」
「海の中っていうか、船の中っていうか、目の前にいるんだけどね。」
「いいなー、そいつ毎日魚食い放題じゃねぇか。でも俺、泳げねえから困ったな。まー、俺は肉の方がいいけどよ。」


これで悪気が無いのだから質が悪い。


「あー、もう頭痛い。」
大袈裟に頭を抱え込んで、ため息を吐いた。


「大丈夫か!?今、チョッパー呼んでくるからな!」
「い、いいわよ!いいわよ!」

慌てて飛んでいきそうになったズボンの裾を掴まえる。

何でコイツは人の言葉をすぐ鵜呑みにするのか…まぁ、それがコイツのいいところでもあるんだけれど。

頭が痛いっていうのは言葉のあやで原因はあんたなのよ、とルフィに説明する気にもなれず「すぐ治るから」と誤魔化した。
わざわざ医者を呼ばれたらたまったもんじゃない。


「ほんとか?すぐ治るのか?」
「う、うーんとね、」

ルフィが本当に心配そうにつぶらな瞳で見つめてくるものだから、ついついイタズラ心が出てしまう。



「ルフィがそばにいてくれたら、きっと治ると思うわ。」


お昼寝を邪魔されたんだから、少しぐらいわがまま言ったってバチは当たらないわよね?


「そばにいるだけでいいのか?」
「私が眠るまで手を繋いでて。」
「手を繋いだら、頭が痛いの治るのか?」
「健康な人のパワーが手から入ってきて腕を通って頭に届くのよ。」
「そうか。“ふしぎ腕”だな!」


デッキチェアーのすぐ隣に座り込むと、ルフィは疑いもせずに私の手を優しく握る。

あまりにも素直に言うことを聞いてくれるルフィに少し戸惑うけど、こんな時でしか甘えられないのだから存分に甘えなきゃ。


かくれんぼして鬼に見つかるのを待ってるウソップとチョッパーには悪いけど、今だけはルフィを独り占めさせてもらうわ。









目を閉じるとさっきよりも心地好い風を感じる。




「ナミー、治ったか?」
「んー、もうちょっと。」


心配かけていることに、ちょっぴり罪悪感もあるけれど。

よく言うじゃない?


騙される方が悪いって。



あんたは私の罠にかかっちゃったの。


遊びに戻りたくてウズウズしてるはずなのに、繋いだ手は離さないでいてくれる。



嬉しくて、
でも少し恥ずかしくて、

手が熱い。


ドキドキしてる心臓が“ふしぎ腕”を通って手のひらに移っちゃったみたい。





瞼の裏で感じていた光が無くなって、ルフィが日陰を作ってくれたんだろうなと思った。

そんな些細な気遣いできるヤツだっけ?



「まだ、頭痛いか?」
「そうね…」


そろそろ解放してあげてもいいけど、やっぱり名残惜しい。



「ルフィがキスしてくれたら治るかも。」


簡単に離すのは面白くないから最後に意地悪を言ってみる。

ルフィは黙ったままで何も言わない。

きっと相当狼狽えているんだろう。


口元が綻びそうになるのを何とか抑えて、困りはてた顔を見てやろうとそっと目を開ける。












一瞬、状況が理解できなかった。





隣にいたはずのルフィはいつの間にかデッキチェアーの上に移動していた。




ルフィが私に跨がっているから体を動かすこともできないし、頭の横に両手を置かれて顔も固定されているから、真上から除き込んでくるルフィを見つめ返すことしかできない。



「えっ、なっ何?」
「キスしたら治るんだろ?俺がナミの頭痛いの治してやるから。」
「ち、ちょっと待って!待っ…」
「待たねぇ。」


チュッと軽い音がして触れ合うだけのキスが落とされた。


「もう治ったか?」







そこで初めて気付くのだ。


罠にかかったのは私の方だったということに。



さっきまでの心配そうな顔をしているルフィは既にいなくて、目の前にいるのはイタズラっ子の目をした狼さん。







「…まだ。全然そんなんじゃ足りない。」






この私が騙されたなんて癪だけど。

どうせ罠にかかってしまったなら、狼さんに美味しく食べてもらわないと。



ルフィの首に腕を巻き付けて、キスをねだる。



さっきより、長くて甘いキスを。





ほら、こうすれば罠にかかったのがどっちかなんてわからない。







かくれんぼに飽きたウソップ達が見つけにくる前に三度目のキスを。










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