毎日会っているからこそ、気付かないこともある。
「島が見えたぞー!!」
「はいはい、わかってるわよ。」
次の島を見つけた時のルフィは本当に嬉しそう。
子供みたいに大はしゃぎしている。
私も素っ気なく返事をしているけどルフィにつられて笑顔になってしまう。
アイツがワクワクしてると私もワクワクする。
アイツには周りを巻き込むそんなパワーがある。
隣で目を輝かせているアイツの横顔を見て、ふと違和感に気付く。
「ねぇ、ルフィ…」
「ん?何だ?」
振り向いたルフィと目線の高さが違う。
ああ、やっぱり、
「背、伸びたわね。」
同じ高さだったはずなのに、いつの間にか私が見上げている。
「んん、そうか?」
「ほら、こんなに違うじゃ…」
言葉は言い終わる前に行き先を失う。
背比べをしようと、私の頭のてっぺんに置いた手を、真っ直ぐルフィの鼻先に伸ばしたところでいきなり掴まれたからだ。
そのまま真剣な眼差しで、ずいっと顔を近付けられて思わず目を閉じた。
キスされる―
かと思った。
恐る恐る瞼を開けると、一度驚いた心臓がまたドキッと高鳴る。
お互いの鼻先がくっつくかくっつかないか、その間5ミリの距離で目の前にルフィの顔があった。
「な、な、何よ?」
「本当だー。ナミ、小っちゃくなったなぁ。」
「あんたが大きくなったの!」
顔が赤くなっているのが自分でもわかるほど頬が熱くて、ルフィに気付かれる前にと肩を押し返す。
悔しい。
いつまでも子供だと思ってたのに、私ばっかりドキドキさせられている。
「やっぱり肉食ってるからでかくなったんだ。ナミもでかくなりたかったから、肉食え!肉!」
相変わらず検討外れの発言とは裏腹に、私の頭をポンポンと撫でるその仕草はどこか大人びていて。
さっきからドキッとしたりキュンとしたり、心臓が忙しい。
「早く着かねぇかなー」と呟くアイツは、自分の成長には大して興味が無いらしくまた島を眺めて嬉しそう。
島を、その先の冒険を、見据えるアイツの横顔から目が離せない。
身長だけじゃない。
肩幅も、腕の太さも、アイツを形成する全てがどんどん大人になっていく。
悔しい、よりも、
本当は、
寂しい。
自分だけが取り残されて、アイツひとり大人になっていくみたいで。
「置いていかないでね。」
口から出てしまった予想以上に頼りない自分の声に戸惑って、それを誤魔化すようにルフィの腕にしがみついて肩口に顔を埋めた。
「なーんだ、ナミも一緒に冒険したいなら早く言えば良いのによ。次の島に着いたら連れてってやってもいいぞ!」
「…そういう意味じゃないわよ……ばか。」
「違うのか?じゃあ、どういう意味だ??」
大人になったと思ったらすぐこれだ。
ふふっと笑いがこぼれてしまう。
「何、笑ってんだー?」
顔を見なくたって、声色だけでわかる。
今は子供みたいに口を尖らせて不満そうにしているんだろう。
想像するだけで余計に笑いが止まらない。
私の真意を突き止めようと顔を除き込んでくるけれど、絶対に教えてなんてやるもんか。
嬉しくてたまらない。
ルフィが「大人」と「子供」の間を行き来しているのを、ずっとそばで見ていられることが。
悔しいのも本音、
寂しいのも本音。
たまに不安になったりもするけど、毎日そばにいられることが今はすごく幸せ。
知らないうちに大人にならないでね。
いつか必ず「大人」になってしまうことはわかってる。
それでも。
その時、隣にいるのは私であってほしい。
今はまだ、口には出せずに
心の中で祈るだけ。