今日もアイツは楽しそう。

私のことなんかお構い無しに。










昼食を済ませた後の各々の時間、みんな自分の好きなことをして過ごす。


「ごちそうさま」を言い終えるよりも前にイスから飛び降りて外に出ていき、今日も遊ぶことに忙しそうなアイツは私の「愛しい人」。


愛しい人。

自分で言って思わず笑ってしまう。


全然、ガラじゃない。


私には到底理解不能のオリジナルの遊びを開発して、ゲラゲラと楽しそうに笑っている姿を見ているとアレがうちの船長だとは信じがたい。

それよりも本当に17歳かと疑ってしまう。きっと7歳ぐらいで成長が止まってしまったに違いない。


不本意ながらも、私はその7歳の船長に惚れてしまっている。

そして、彼も私と同じ気持ちでいてくれることも知っている。

自惚れではなく、すごく大事にしてくれていると思うし、愛されていると思う。


なのに「両」想いではないように感じるのは私の気のせいだろうか。


「ナーミさーん!ロビンちゃーん!」

そんな私の思考回路を遮るようにやってきたのは食後のデザートを運んできてくれたサンジくん。

毎日毎日、食後の美味しいデザートと愛の言葉を欠かさない。
吃驚するぐらい細かいことに気付いてくれて「そのグロス、新しく買ったやつですか?美しすぎるナミさんの魅力を更に引き立たせる色だ。すごくお似合いです。」と誉め言葉も忘れずに。

ルフィにもこの十分の一、ううん、百分の一でもいいからサンジくんの気遣いを見習って欲しいものだと思う。

サンジくんの作ってくれるデザートは美味しいのは勿論、色彩にも彼のこだわりが出ていて見ているだけで幸せな気持ちにしてくれる。

目の前にある可愛らしいデコレーションが施されたフルーツたっぷりのタルトをフォークで一口大に切り取って口へ運ぶ。

「んー!おいしっ!」
大袈裟に喜んで、ちらりと横目でルフィを見る。


私だって、甘い言葉をプレゼントされて悪い気はしないのよ。
ちょっとぐらい妬いてくれたって良いんじゃない?


そんな細やかな願いが届いたのか、突然遊びをピタッとやめたルフィがこちらを向いたので視線がバッチリ合ってしまった。

「あー!サンジずるいぞ!!」とルフィが駆け寄ってきて、次に出てくる言葉に期待したのも束の間。

「俺の分のケーキは!?」

ガクッと音がしたんじゃないかと思うほど私は大きく項垂れる。
分かりきっていたことだけど、一瞬でも期待したがためにショックも大きい。
アイツの嫉妬の対象は私よりもケーキに向いてると思い知らされたようで。


サンジくんは「邪魔だ邪魔だ」とルフィを足でシッシッと追い払うものの、ちゃんとケーキを用意してくれている。
しかも、質より量のルフィを考えた特大サイズ。

私のタルトの十倍はあるだろう巨大ケーキをパクパクと平らげていくルフィは本当に幸せそう。


洗い物があるからとサンジくんはキッチンに引っ込んでいき、ロビンは調べたいことがあるからと図書室へ。
私はダイニングにルフィと二人きり取り残されて、口のまわりにクリームをベタベタつけたお子様を見つめて溜め息をひとつ。

「何だ?ナミ、腹でも痛いのか?」
「あんたと一緒にしないでくれる?悩みが全部食べ物に関することじゃないわよ。」

現に、私はケーキ相手に嫉妬してしまっているのだけれど。

「あんたは幸せそうね。」
「俺、しやわせだー。」


私の悩みなんか知りもせずに。


「どした?そのケーキいらねぇなら俺が食うぞ。」

私の食べ途中のケーキに、文字通り伸びてきたその腕をフォークで一突き。

「ダメよ!これは私の!」
「イッテ!!お前何でフォークで刺すんだよー。」
「だって、あんたゴムだから叩いても痛くないでしょ?」
「そっか。お前、頭いいな!」


何を納得したのか、ルフィはまた嬉しそうに自分のケーキを食べることに専念する。


「ねぇ、ルフィは嫌じゃないの?」

ルフィはモグモグと口を動かしたままで首をかしげて「何のことだ?」という表情。コイツには遠回しに言っても通じないとわかっているから思い切って聞いてみる。

「だから、その…私がサンジくんに優しくされたりして!」
「俺はナミがみんなに優しくしてもらえんのは嬉しいぞ。」

キョトンとした顔で見つめてくるその顔が本当にお子様で、何でこんなやつ好きになっちゃったんだろうと自分に対してイライラが募って思わず言葉を荒げてしまう。

「あー、もう!そういう意味じゃなくて!!」
「どういう意味だ??」
「だからね。私が、あんた以外の男の人にチヤホヤされたりしてんの見て、何とも思わないの!?」
「別に…ケーキくれんのは良いことだぞ?」

全く話が噛み合わない。

「サンジくんだけじゃないわ!あんたは知らないでしょうけど私ってモテるのよ。声かけてくる男なんて、いーっぱい居るんだから!」
子供じみた主張だと自分でも思うけど止められない。口が勝手に動く。


「だから??」
「だから…っ、あんたがうかうかしてたら、私が他の人を好きになっちゃうかもしれないのよ!」


ハッと我に返って言い過ぎたと口を押さえてももう遅い。発してしまった言葉は戻ってこない。

たまにはヤキモチを妬いて欲しいって言いたかっただけなのに話の流れが大きく逸れてしまった。


何とか場を取り繕ろわないと、と何か言おうと口を開きかけた瞬間、ルフィがゲラゲラと大声で笑いだした。


「ちょ、ちょっと!何がそんなに可笑しいのよ!」
「だってよー。お、お前…アッヒャッヒャ!」

笑い過ぎて涙まで流す始末。
人が目の前で浮気宣言したのに何がそんなに面白いのか。

「笑ってないで何か言いなさいよ!」

何だかバカにされてるようで癪にさわる。


一頻り笑い終えて、やっと落ち着いたルフィは満面の笑みで爆弾を落とす。






「だってナミは俺のことが大好きなんだから、他のヤツを好きになるわけないだろ?」







ししっと笑うその顔に今日も私はノックダウン。


どこからそんな自信が湧いてくるのかと問い詰めたいところだけど、アイツが言ってるのは紛れもない事実。

悔しいはずなのに嬉しいだなんて相当アイツに惚れ込んでしまっている証拠。


結局、惚れた弱みでルフィには敵わないってわけね。




ああ、なんて報われない両想い!





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