前立腺を刺激されたら、あとはもう射精することしか考えられなくなる。男は俗物的で浅ましい生き物だ。臨也とて、決して例外ではない。 「は、あ……あ、あっ……シ、ちゃ……ちゃんと……!」 後ろをいじられるだけでは、絶頂には届かない。慣れすぎないこの身体が、この時ばかりは少しだけ恨めしく感じる。勝手にうねる腰を止めるより、出口を求めて腹の底で暴れ回る熱をなんとかしてほしかった。臨也の懇願に、静雄はとても幸せそうな顔をする。 「どこ?どこ触ってほしい?教えてくれよ、臨也」 「っざけん、な……あ!あっ……わ、かる、だろ!」 「わかんねえ。手前の言う通り、単細胞だからよ」 「っあああ!」 しこりを強く押されて、声が跳ね上がった。イきたい、イけない、いやだ、死にたい、助けて、殺したい、死ね、気持ち悪い、気持ちいい――様々な感情が、どろりと胸の中で渦を巻く。気を抜けば滲みそうになる視界を保つために、臨也は指を噛んだ。鎖が喉に触れる。どうして、こんな目に合わなければならないのだろう。 「……ぃ……」 「ん?どうした、臨也……?」 「きら、い。大嫌いだ、おまえなんか死んじまえ」 「……へえ」 すう、と静雄の声の温度が急激に下がった。どこか夢見心地だったその顔から表情が消え失せるのを見て、臨也は自らの失言に気づく。言ってしまったことを取り消すことはできない。血の気が引くのがわかった。 「臨也ぁ……言ったよなあ?『嫌い』はだめだってよお?なあ?かしこーい臨也くんなら覚えてるよなあ……?それとも、あれか?また滅茶苦茶にしてほしかったのか?ああ、そうか、そりゃあ悪かった!ならよお、期待に応えてやんねえとなあ?ええ?臨也くんよお!」 「っ、あ、ああああああっ!!あー!あ!いやっ!い、やあ……!」 先程までは、わずかながらも確かに存在していたはずの手加減が、綺麗に霧散した。四本に増えた指が、ばらばらに動いて粘膜を嬲る。違和感と痛みに零した叫びは、静雄の舌の上に消えた。 自分の唾液が、静雄に吸い込まれていく。この男は、いつか臨也自身もこんな風に取り込もうと思っているのだろうか。なら、早くしてほしい。これ以上――死にたくならないうちに。 「は、あ、ああ、あっ、あっ、やあ……っ」 機械音と、自分の淫らな声と、静雄の荒い息。どろどろとした愛欲で淀んだ二人きりの部屋には、少しばかり響きすぎだと思う。静雄の膝の上、片手で腰を支えられながら、臨也は玩具で遊ばれている。朦朧とする頭を、静雄が愛しそうに撫でた。ぐちゃぐちゃの顔を背けることすら、静雄は決して許さない。 長い指が、頤を持ち上げる。幾筋も伝う唾液を指で掬い、その指を舐めてはまた臨也の唾液を掬い取る。変態じみた、ではなく変態丸出しの行動を非難する余裕はなかった。 「ひっ、やっ、やだっいやだ……気持ち悪い……っ」 「あ?何言ってんだよ、おっ勃ててんじゃねえか」 「や、あっあっあっ……あっ、う、ごかさ、な……や、ひゃ、っん」 穴を塞いでいるバイブをぐりっと動かされ、ついでに振動を強くされて、背がのけ反った。じわっと視界が滲みそうになるのを、臨也はくちびるを噛んでひたすら耐える。これ以上不様な姿を晒すのはごめんだった。 静雄は不満そうに舌打ちをしてから、すぐににやりと口角を上げる。何十にも巻かれた細い紐で強制的にせき止められている射精感を促すように勃起しているものを扱かれ、目の奥が熱く爆ぜた。 「ひ、ぃ……ぁ……あっ、あーっ……!」 「臨也……すげえ可愛い……」 目を見開いて、涎を垂らして、尻の穴にバイブを入れてがくがく震えている姿を、静雄はまるで愛らしい子猫を見るような目でみている。この男は頭がおかしいに違いない、背筋がゾッとした。 「し、ずちゃ……や、だ……も、ゆる、許して……」 「ん?臨也……反省したのか?」 「し、た……した、からあ……!あっ、あっ、も、抜いて!取って!死んじゃう……よぉ………」 プライドなんて、耐え難い悦楽の前には塵ほどの価値もない。最後の理性で必死に涙を堪えながら、臨也は頭をぶんぶん振った。汗で張り付いた前髪から水滴が落ちる。体内で暴れ回っているものを抜いてほしくて、燻る熱を吐き出させてほしくて、臨也はすべてを捨てて懇願した。 「ね、が……お、ねが、いっ」 「……いいぜ。愛してるって言えたら抜いてやる」 愛という単語が脳に届いた瞬間、捨てたはずの矜持が後ろ髪を引いた。折原臨也を形作る人間への愛、平和島静雄には決して向けられないもの。それを静雄はいつも欲しがる。拒む臨也の逃げ道を、力ずくで押し潰しながら。 「……い、……てる」 「聞こえない」 バイブが前立腺に当てられる。ぐりぐりと抉るように動かされると、腹の底が焼けるように熱くなった。臨也の弱いところもいいところも、きっと今では臨也以上に静雄の方がよく知っている。 「ひっ、あ……ああああっ!あ、あい、して、ひっああっ、愛して、る、シズちゃん、シズちゃん……あ、愛してる、からあ……助け、てぇ……っ」 「臨也、可愛い、キスして」 「んっ、はあ……んっ、む、ぅ……」 甘く粘ついた懇願に、臨也は静雄が望んだとおりキスで応えた。突いてくる舌を受け入れ、絡めて吸う。静雄がうれしそうに髪を撫でるのを、ぼんやりと感じた。 「臨也、可愛い。俺の臨也、俺だけの臨也だ……」 「ひ、あっ、あん……っ」 ずる、とバイブが引き抜かれた。ほっと息を吐きながら、静雄の指が前に回って紐を解いてくれるのを待つ。けれど、それよりも先にジ、という音が聞こえて、鳥肌が立った。さっきまで散々に弄られていた部分に当たる熱に、嫌な予感は現実へと変化する。 「シズちゃん……!や、やだ、いやだ……抜くって言った……!」 「オモチャは抜いただろ?俺のを挿れねえとは言ってねえ」 「ひっ、や、ぁ、やだっ、や……いや、あああああああ……っ」 言葉遊びを非難する時間は与えられなかった。潜り込んでくる機械とは比べものにならない熱さに身震いする身体を抱きしめて、静雄は笑う。臨也の性器から紐を取り、擦って扱いて無理矢理に吐精させる間も、静雄はただただ楽しそうに笑っていた。 怖い、怖い、こんなのはシズちゃんじゃない 臨也の瞳から、とうとう涙が零れた。箍が外れた涙は、止まる術を知らない。突き上げられ、泣きながら喘ぎ続ける臨也を、静雄は恋人のように抱きしめる。 「やっと泣いたな……!あんまりひでえことさせんなよ、臨也ぁ……素直に泣いてりゃいいのによ。やっぱいいな、たまんねえよその顔……っは、……俺だけが知ってる顔だもんな……?」 「や、だぁ……やだ、っひ、あっ、あああっ……だ、れか……助けて……」 「俺しかいねえよ……臨也、ああ臨也っ……愛してる、永遠にずっと一緒だ。もう誰にも見せない、絶対に触らせねえ……臨也、俺のもんだ、俺だけの臨也……っ」 呪いにも似た愛の言葉を霞む頭で聞きながら、臨也は手を伸ばした。鎖に繋がれたままの手で、何を掴みたかったかは臨也にもわからない。その手すら、臨也の精液で汚れた静雄の手に捕えられたら、どうしたらいいのだろう。 「……死んでよ……」 揺さぶられながら涙と一緒に吐き出した言葉に、静雄がうっとりと頬を染めるのが見えた。 110215 - オモチャがただの空気ですみませんでした |