生徒×教師
温いですが無理矢理注意









「あっ、ああっ……や、だ……痛い、シズちゃん……っ」
泣きながら頭を振る度に揺れる黒髪にキスしながら、ただがむしゃらに腰を振った。背中を晒して震えている男は折原臨也。俺の高校の音楽教師だ。
「シズ、ちゃん……」
涙に濡れる声が痛々しくて、でも、それ以上に官能的で止まらない。細い指が、逃げ場を求めて白と黒の上で踊る。喘ぎ声に混ざってピアノが切り裂かれたように音を立てた。



ずっと、ずっと好きだった。入学式の日、校歌を弾く姿に全部持って行かれた。普通の恋を知らなくても、これが普通の恋でないことはよくわかっていた。俺の高校生活は、最初から終わってた。
あいつは、俺が大嫌いなこのおかしな体質に興味を示し、以来何かと特別扱いを受けた。言動は胡散臭いし変な噂があるし、これっぽっちも素晴らしい教師ではないが、不思議と生徒には好かれている『折原先生』のお気に入り。そう言えば聞こえはいいが、実際はからかわれて嵌められて、期待しては地獄に突き落とされる日々。

限界だった

俺はまだガキで、あいつは立派ではないにしろ社会人で、同じ土俵にすら立っていない。こんなに好きなのに、あいつの視界には愛すべき生徒としてすら映らない。
折原は人間を愛していると言う。君は人間じゃないから愛せないと言う。初めてそう言われた日、俺は柄にもなく眠れなかった。折原は、そんなこと知らない。興味もないはずだ。
化物をからかうのは、そんなに楽しいことなのだろうか。折原は、無意味に触れては俺から離れていった。自分からすり寄ってくるくせに、手を伸ばせば叩き払われ、滑稽なものを見るようにくちびるを歪ませる。俺がどんなに傷ついてるかも知らないで。

限界、だった

放課後の音楽室。音楽の授業に出なかった罰として、歌のテストをするからおいでと言われた。二人きりの密室は、俺の理性を木っ端微塵に砕く。ピアノの前に座り、遅かったねと笑った口を塞いだ。見開いた瞳は、遠くから見ていたときよりずっと綺麗だった。


ぐずぐずに溶けそうな快感が腰から背骨を走って脳髄を叩く。俺は気持ちよくてたまらないが、折原は違うのだろう。痛い、痛いと繰り返し叫ぶ喉に触れ、ゆるく撫でた。ピアノは上手いけど歌うのはちょっと苦手なんだ、と言ったときの、いつもと違うはにかんだ表情が脳裏を焼いた。
「ひっ、あ、あ……や、やめ……う、ごかな、で……痛い、よ……!」
指が、鍵盤を目茶苦茶に叩く。折原のピアノが好きだ。でも今はうるさい。だって、青空みたいな綺麗な泣き声が聞こえない。
「……ピアノの蓋、閉めろよ、センセイ。うるせえんだ、それ。手前の声が聞こえねえから」
「っひ、あ、あっ……で、でき、な……ああああっ」
咎めるように、細い腰を掴んで奥をえぐった。びくりと背中を跳ねさせて、折原は震える手でピアノの蓋に触れる。指を挟まないで蓋を閉められたことを誉めるように背中にキスをして、折原の身体を抱く。そのまま抱き上げて、入れたまま身体を反転させた。
「やっ、なに……あ、ああっ!や!」
向かい合うようにさせた薄い身体を、閉めたピアノの蓋の上に座らせる。やっぱり背中より顔が見たい。大嫌いな化物に犯されて、泣いてるその顔も綺麗だ。俺の『先生』俺だけの。
「し、ずちゃ、やめ、よ?ね、今なら……誰にも、言わないから……忘れて、あげ、……から……」
「……忘れんの?」
「ぅ、ん……忘れ、る」
こくこくと頷く折原は、か弱い動物のようで可愛かった。『化物』の俺を散々にいたぶる、悪い魔女のような男なのに。愛しさで、目が眩んだ。先生、可愛くて残酷な俺の先生、


やっぱり、手前は全然わかってねえ


「ひっ、や、あ、あああああああああっあーっ!!」
遠慮とか、手加減とか。もともとないようなもんだったものが、本当になくなった。俺の気持ちなんて全然わかってねえ。ふざけるな、なにが忘れるだ。忘れてほしいと思うくらいなら、最初からこんなことしないだろ。
「っ……す、げ……うねってる」
「あっ、いや、シズちゃ、ん……!」
「なあ、センセイ。気持ちいいの?」
「や、だ……やだあ……奥、しないでぇ……っ」
「……好きだよ。好きなんだよ」
泣いてるのも、泣きたいのも折原なのに、俺の頬は濡れていた。身体は気持ちいいのに、胸にはぽっかりと穴が開いたまま。これを埋められるのは折原だけだったけど、もうそれは絶対に叶わない。

好きで好きでたまらない。苦しくてみじめで、捨てたくなる。それでもやっぱり顔を見たらたまらなくて。気づけば、いつも昨日より好きになってた。
こんな苦しいことを、人は繰り返すのか。俺は嫌だ。俺が恋をするのは、たった一度だけでいい。ずる賢くて最低で、俺を化物呼ばわりするあいつがいい。他はいらない。一人でいい。

いつの間にか、動きを止めていた。辛くて苦しくて、涙が止まらない。こんなことをしたいわけじゃなかった。傷つけたいわけじゃなかった。隣で笑ってくれたら、あの声でシズちゃんて呼んでくれたら、好きだと言ってくれたら――俺は、死んだってよかったんだ。
「シズちゃん……泣いてるの?」
掠れきった声が聞こえる。なにも答えられない俺の頬を、指輪のついた指が撫でた。優しく触れるこの手も、またすぐに離れていくのだろう。ずっとこうしていてくれないなら、最初から触れてなどくれなければよかったのに。
「シズちゃん」
罵倒と拒絶を待つしかできない俺を、綺麗な声が呼ぶ。離れた指に、ああやっぱりと絶望を覚えた瞬間、しなやかな腕が俺の頭を抱いた。
「……お、りはら」
「先生、でしょ。ううん、違うね。名前を呼んで。知ってるだろ?」
「……臨也」
「そう、いい子」
一人きりの夜に、何度も口にした名前だった。臨也、臨也と繰り返す俺を見る目が、甘くとろけているように見える。期待してはいけないと思うのに、また突き落とされるだけだとわかってるのに、馬鹿で子供な俺はまた恋心を育ててしまう。
「……ねえ、」
耳元で囁かれた五文字の言葉。それは、どんなに荘厳な音楽よりも俺の心を震わせた。


110130

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五文字が「あいしてる」なのか「しんじまえ」なのかはご想像にお任せします

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