みなさんこんにちは。新宿の情報屋、折原臨也です。車窓から見える景色というのは実に美しいね。そこに息づく人間たちの日常を思うと、もう俺は駅弁すら喉を通らないよ。
「臨也、ほらこれ美味いぞ。あーんしろ、あーんて」
だから箸こっちに向けないでくれるかなあ、平和島静雄くん。通路挟んだ席のお嬢さんがきらきらした目で見てるじゃないか。そのふざけた格好だけでもクソ十分に目立つってことがわからないのかな、シズちゃん!今すぐ池袋に帰れ!
「おい臨也、聞いてんのか」
「聞きたくない……」
なんでこうなった?俺、そんな悪いことした?だったら心の底からごめんなさい。信じてないけど神様許して。だから俺に平穏な時間をくれよ。この化物抜きでな!



事の起こりは1時間前だ。
別に信じてくれなくてもいいんだけど、俺とシズちゃんはお付き合いをしている。セから始まるお友達ではなく、正真正銘相思相愛比翼連理の仲だ。新羅みたいだって?もう自棄なんだよ、ほっといてくれ。
話を戻すけど、俺とシズちゃんは恋人だ。俺は彼が好きだし、彼もまたしかり。路地裏に連れ込まれて好きだと叫ばれたときは身の危険を感じたが、好きな人には存外紳士らしいシズちゃんはただただ俺の返事を待つだけで、そもそもシズちゃんに特別な感情を抱いていた俺が頷かないわけがなかった。そうして俺達は、長年に及ぶ殺し愛に終止符を……あれ、何か変換おかしい?まあいいか。大体そんな感じ。
それだけならね、美しい青春ラブストーリー(俺らいい年だけど、シズちゃんは365日思春期だからこの表現間違ってない)なんだけど、俺は――シズちゃんをナメていたようだ。
シズちゃんは俺に甘い。ものすごーーーーーく甘い。砂糖に蜂蜜ぶっかけてメープルシロップを添えたくらい甘い。胸やけしそうな表現だろ?毎日それ食らってる俺の気持ちを察しておくれ。
断っておくが、俺だってシズちゃんが好きだ。愛してる。誰より特別で離したくないと思ってる。けど、俺の愛とシズちゃんの愛じゃ重さが違うんだ。愛を比べるなんてナンセンスだと思うやつは俺と代われよ。3秒でわかるから。いや、やっぱだめだ。シズちゃんは俺のだ。
「臨也、手前なにさっきから百面相してんだよ?」
「……別に。あ、お姉さんアイスクリームください。バニラね」
「ありがとうございます、270円です。固いのでしばらく置いて溶かしてから召し上がってくださいね」
「はいはーい。あ、お釣りいりませんよ」
販売員のお姉さんのスマイルに負けないくらいのスマイルで1000円札を渡してカップを受け取る。そしたら、左の二の腕を引かれて後ろから抱きしめられた。犯人はもちろんシズちゃんだ。眼前でゲイカップルの抱擁を見せつけられたお姉さんは、しかし何事もなかったかのようにお辞儀をしてから台車を押して去っていく。そのプロ意識、素晴らしいね!これだから俺は人間が好きさ。いっそ死にたい。
「シズちゃん、公共の場でこういうことしないで」
「だって手前、俺の話は聞かねえくせに……」
「うるさいなあ。シズちゃんにいいものあげようと思っただけじゃない……ほら。感謝してよね。俺、抹茶の方が好きなのにさ」
「……臨也」
結局、俺もシズちゃんには甘いのだ。うれしそうにぎゅうぎゅう抱きついてくる駄犬の躾もできない程度には。
ああもう。グリーン車だからゆったりしてるのに、わざわざくっつきたがる意味がわからないよ、シズちゃん。

話が大きく逸れた。そうそう、こうなったきっかけを説明しようとしたんだっけ。
俺は、ちょーっと疲れてたんだ。ほら、俺ってもともと一匹狼気質じゃない?孤独を愛する男じゃない?ぼっちじゃねえよお一人様だし。だからね、いくら好きとはいえ四六時中べたべたいちゃいちゃべたべた甘やかそうとしてくるシズちゃんは、ちょっと食傷気味だったわけ。膝に乗せたがるし抱きしめたがるし一緒に風呂入りたがるし。困ったもんだ。嫌ではないんだけどさ。
だから、たまには昔みたいに一人で気楽に愛する人間たちを見守りたいなあと思ったんだ。そんなことを考えながらネサフしてた俺の目に飛び込んできたあの広告。これだと思ったね。すぐさま新幹線予約したね。雪化粧も美しい金閣。こんな素晴らしいものをつくってしまう人間を、俺は心から愛してる!!

「よう、遅かったじゃねえか」

な・の・に!東京駅で山手線を降りたら、そこは雪国じゃなくて池袋最強の俺の恋人の両腕の中でした。な、なにを言ってるか以下略である。
「し、シズちゃん……なんで……?」
「手前の秘書の姉ちゃんが教えてくれた。そんでこれくれた」
波江えええええあいつマジで俺のこと嫌いなんだな!見せられた新幹線の切符の席番は、ご丁寧に俺の隣。グリーン車。どうせ俺の支払いになってるんだろうな。
「俺、京都なんか初めてだ」
ありがとな、臨也、だなんて。可愛いなんか、思ってないんだからな……!

こうして、俺のぶらり京都一人旅は早々に幕を下ろしました。代わりに始まるシズちゃんとのうれし恥ずかしランランランデブー。もうどうにでもなれ。名古屋を通過しながら、俺はそう思った。





11/01/15

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