もふっと"love"で接近中! | ナノ

例のわんにゃんコスでエッチしてるだけの話。




 自宅に届いた段ボール箱を開け、臨也は絶句した。
「……は?」
 ぱちぱちとまばたきをしてみる。が、どれだけ目を凝らしても、残念ながら手にしたものの形状が変わることはなかった。
「……んん?」
 首を傾げ、まじまじと荷札を見つめる。
 お届け先のところに書かれているのは、間違いなく自分の名前だった。送り主の名前にも見覚えがある。先日、通販を利用したショップの名前だった。
 だがしかし、あのとき臨也が注文したのは普通のパジャマだったはずだ。こんなファンシーすぎる物体ではなかった。しかも、なぜか二着も入っている。
「これは……ものすごい間違いだな……」
 純粋に感心しながら、臨也は携帯電話に手を伸ばした。すぐに返品を――……と思ったところで、ぴたりと動きが止まる。にんまりと弧を描くくちびるは、ほとんどの場合、ろくでもないことを考えている合図である。





 玄関の扉が開く音がする。ぴくっと鼓膜を震わせ、臨也は立ち上がった。一人暮らしの頃から愛用しているうさぎのスリッパをパタパタと鳴らし、玄関へと続く廊下を歩く。ちょうど靴を脱いでいるところらしく、ガラの悪い金髪の下にある顔が今は見えない。
「おかえり、シズちゃん」
「おう、ただいま」
「お疲れ様。今日は標識一本も抜かなかったね。えらいじゃん」
 情報屋らしく胸を張って誉めてやると、露骨に嫌そうな溜め息をつかれてしまった。恋人に対する態度がそれかと憎らしくはあるが、長年の仇敵相手に対する態度としては合格点ぶっちぎりである。むず痒いし、嫌ではないのがムカつくところだ。
「臨也くんよォ。手前、何でそんなこと知ってやが」
 る、まで発音できなかったらしい。
こちらを向いた静雄の顔は、まるで宇宙人にでも出会ったのかと思うほどの衝撃に満ち満ちていた。その顔が見たかった臨也にしてみれば、大成功と言うより他はない。
「どう? 似合うかニャン?」
 アイドルよろしくパチッと片目を閉じ、ペロリと舌を出す。いま臨也が着ているのは、手違いで送られてきた猫耳フードつきの真っ白なコートだった。
「………………」
「シズちゃん? 声も出ニャイのかな?」
 目も口も開いたまま固まっている静雄の顔はほんとうに間抜けで、なんだか胸の奥がキュンとしてしまった。美食家とは言えなくとも、ゲテモノ食いでもないはずだったんだけどなあ、としみじみ嘆息しそうになる。
「……とうとうマジでイカれたか……」
 憐みすら込められた視線を笑顔でかわし、臨也は右手を曲げて頬に近づけた。招き猫のポーズで、今はいつもよりも少しだけ低い位置にある静雄の顔をじっと見つめる。
「そんなこと言って、ほんとは可愛いって思ってるんだろ?」
「思ってねえよ、クソ蟲野郎」
 脱ぎかけだった靴を完全に脱ぎ捨てた静雄が、臨也の前へと足を進めてきた。いつもと同じ位置に戻った目を覆うサングラスが、静雄の手で胸ポケットへと仕舞われる。
 なんとなく一歩下がったら、静雄が一歩足を踏み出してきた。じりじりと壁際に追いつめられていることに焦りを覚え始めた頃、おもむろに静雄が右手を臨也の方へと伸ばす。何だ何だと身構えた途端、ピンクのしっぽをむぎゅっと掴まれていた。
「……へえ、本物みてえだな」
 つくりものの尻尾を見つめたり、指で突いたりしながら、静雄はニヤニヤと笑っている。血が通っていないはずのしっぽがゾワっとしそうなほどに、凶悪かつ凶暴な笑顔だった。
「シズちゃん、本物の猫の前でそんな顔したら逃げられるよ?」
「手前もネコっちゃネコだろうが。なあ、臨也くんよォ」
「……こないだまで童貞だったくせにえっらそうに……」
「おかげさまで卒業させてもらったしなあ?」
 男で童貞を捨てたことに対し、何の恥も疑問も抱いていなさそうなところが苛立たしい。さも当然のように臨也にネコ役を押しつけておいてこの態度だ。さすが化け物、言葉も理屈も通じやしない。
「そうだったね。可愛くもなんともない俺で卒業しちゃったんだよねー童貞静雄くんはさ」
「ああ、そうだ。手前を可愛いなんざ思ってねえ」
 相変わらずしっぽをいじりながら、静雄がさらに距離を詰めてくる。ぴょこんと立った偽物の耳を左手で撫で、静雄はフードに隠されている臨也の本物の耳にくちびるを寄せた。ふわりと香った煙草と汗の匂いに、不覚にもドキッとしてしまうのが悔しい。
「すっげえ可愛いって思ってる」
 普段よりもずっと甘い声が、臨也の鼓膜を優しくくすぐった。セックスのときでも滅多に聞かせないくせに、よっぽどこの猫耳としっぽが気に入っているのかもしれない。
 ざわつく心臓を気取られないように、臨也は呼吸を整えることを意識した。単なる恋人ではない自分たちにとって、すべてをさらけ出すことはセックスよりもずっと恥ずかしくて難しいのだ。
「ふーん、可愛いんだ?」
「正直今すぐ押し倒したい」
「物好き」
「手前もな」
 けだものらしく歯を見せて笑う仕草がちょっとかっこいいなんて、ああほんと死んでも言いたくない。
「ね、それは後でね。それよりさ、シズちゃんのもあるんだよ」
「ああ? ……俺の? そりゃどういう意味だよ、臨也くん。まさかとは思うが、俺にもその馬鹿みてえな格好しろって言いてえのか?」
「君にしては察しがいい」
「ふざけんな、殺すぞ」
「俺のことすごく可愛いって言ってくれたのは嘘だったんだ?」
「嘘じゃねえけど、それとこれとは関係ねえだろ」
「ええーだって俺も見たいもん、可愛いシズちゃん」
「……男が『もん』とか言うんじゃねえよ……」
 げんなりとした顔でそう言う静雄は心からムカつくが、ここで喧嘩になったら元も子もない。せっかく買い出しにまで行った苦労が水の泡だ。
「シズちゃん、お願い。ちょっとだけ。ちょっとだけだから!」
「嫌だっつってんだろ!」
「……あーそう。ふーん、そういうこと言っちゃうんだ? へーそっかー」
 眉を顰めたまま微笑み、臨也はポケットに手を突っ込んだ。身構えた静雄は、きっと臨也がお得意のナイフを取り出すと勘違いしているのだろう。単純な思考を鼻で笑い、臨也は指に力を込めた。
「これを見ても、まだそんなことが言えるのかな?」
「ああ? なんだよ……っ!? て、手前!」
 唸りを上げた静雄が伸ばした手に奪われる前に、臨也が間合いを詰める。持っていたスマートフォンを静雄の鼻先に突き付け、今日一番の笑顔を見せてやった。
「これ、どういうことかな? 俺にわかるように説明して?」
 画面いっぱいに広がっているのは、静雄が女性に抱きつかれているところを撮った写真だ。池袋に何人かいる手駒の一人が送ってきてくれたものなのだが、見覚えのあるそれに、静雄はわかりやすく動揺していた。
「そ、それは……」
「それは? なあに?」
 息がかかるほどに近い距離にいるせいか、静雄が焦っているのが手に取るようにわかる。うろうろと目を泳がせる様は可愛いと言えなくもないが、今そんな心境を読ませるわけにはいかない。なんだかんだで静雄には弱いところにつけこまれ、丸め込まれるのは好きじゃない。
「ち、……違うんだ、臨也くん……話せばわかる……」
「うん、だから話してごらんよ、シズちゃん。俺が実家に帰らなくてもすむように、ちゃーんと説明してくれるんだろ?」
「おいおい実家って……ちょっと大袈裟すぎじゃねえか……?」
「へえ? じゃあシズちゃんは、俺が通りすがりの女の子に告白されても平気なんだ? 泣きながら『キスしてくれたら諦めます』とか縋られても平気なんだ? あまつさえあっさり抱きつかれても平気なんだ?」
「なんでそこまで知ってんだよ!」
「それこそ俺を誰だと思ってんのって話だよね。俺だよ? 素敵で無敵な情報屋、折原臨也くんですよ!」
 静雄がぐっとくちびるを噛みしめる。視線の落ち着かなさは、そのまま罪悪感に比例しているはずだ。静雄はそういう風に、とても単純にできている。
「俺が納得できる説明をしてみなよ、シズちゃん」
「説明って……あれは、俺の」
「あ、待って。俺の意志じゃねえとか、そういうのはわかりきってるから結構だよ。君が俺にベタ惚れなのは、疑いようのない事実だしね」
「……どうしろってんだよ!」
 逆ギレに至るまでが早すぎて笑いすら込み上げてきた。
ごちゃごちゃ考えるのが大の苦手である静雄にとって、一番めんどうなことを強いている自覚はある。そのままイラついて、思考を停止してくれればいい。それが臨也の目的なのだから。
「ちゃんと話してくれないのかい? 悲しいな……」
 わざとらしく口元を手で覆い、視線を逸らす。実に十年以上の長い長い付き合いだというのに、相変わらず馬鹿で可愛い静雄はわかりやすく狼狽えてくれた。こういうところが好きで、たまに心配になる。
 俺以外の誰かにこんな風に騙されないでよね……と心の中だけで呟きながら、臨也は顔を上げた。にこりと微笑み、スマートフォンのライトの明るさを最大にする。
「ねえ、シズちゃん。俺の言いたいこと、わかるよね」
 語尾を上げなかったのは、質問ではなくてただの確認だったからだ。
「……チッ」
 頭をガシガシかきむしり、二度舌打ちをした静雄の反応に、臨也は早くも勝利を確信している。
「……ノミ蟲」
「うん?」
「猫は、絶対着ねえ。絶対にだ」
 その譲歩はいまいちよくわからないけれど、臨也は笑顔で頷いた。





「シズちゃん、可愛い! こっち向いて!」
 デジカメを右手に、ビデオカメラを左手に、臨也は興奮気味の口調で捲し立てていた。捲し立てられている方の静雄がうんざりしていたのは知っているが、特に気にする必要性を感じなかったので放置し続けている。
「シズちゃん似合うね。まるでシズちゃんのために仕立てられたようだよ……」
 うっとりしながら呟くと、ものすごく不機嫌そうな顔で睨まれてしまった。誉めているのに、ひどい。
「うれしくねえんだよ、臨也くんよォ……なんだよ、これ。手前の趣味か? あれですか、臨也くんは欲求不満ですか?」
「えー違うよ。心外だな。俺が注文したやつとは全然違うのが届いちゃったんだってば」
 にやにやしながらデジカメ越しに静雄を見つめる。居心地悪そうにしている静雄が身じろぐたびに、ふわんと揺れる犬の耳がとても可愛らしい。臨也が身につけている猫コートに負けず劣らずの出来である。尻尾もまたしかり、つやつやの毛並みがとても眩しかった。
「大体、欲求不満とかどの口が言ってるわけ? 誰かさんのせいで、寝る間もないくらいなのにさあ……」
 昨夜もたっぷりと愛された記憶がよみがえり、思わず溜め息が漏れる。その音に反応した静雄が小さく喉を鳴らしたことに、臨也は気づいていない。
「……手前がエロいから悪ぃんだろ」
「シズちゃんは何でもかんでもそうやってすぐ俺のせいにする。いけないなあ、実によくないよね……」
 ビデオカメラとデジカメを机に置き、臨也は隠しておいた紙袋を取り出した。怪訝な顔つきで臨也の行動を見守る静雄に笑みを返し、取り出した中身を見せつける。
「お仕置きしなきゃね?」
 静雄の目が見開かれるより早く、臨也は静雄の首に手をかけた。冷たい皮の感触に震えた静雄の首筋に吸いつきたくなる衝動を堪え、指を蠢かせる。金具を穴に通すと、ちょうどよい具合に馴染んでくれた。
「手前……っ」
「あはは、似合うじゃない」
 真っ赤な首輪をつけてすごむ静雄を見ていると、何とも言えない高揚感が体を突き抜けていく。
「一番高くて綺麗な赤い首輪をください」と言った臨也に、ペットショップの店員が「ワンちゃんのこと、とってもお好きなんですね」と笑っていたのを思い出す。首輪を買った臨也の目的はあの笑顔にはとてもふさわしくないけれど、これをつけたいと思っている相手のことをとても好きだという気持ちに、一つも嘘はなかった。
「シズちゃん、すぐフラフラしちゃうからね……」
 首輪と一緒に買ったショッキングピンクのリードをつけ、右手で握る。そのままぐっと引き寄せると、静雄がふらりと臨也の方へと体を傾けてきた。その肩口に額を押しつけ、目を閉じる。フードに隠れた頭を撫でる手が愛しくて、たまに泣きたくなるのは一生秘密にしておきたい。
「……フラフラなんかしてねえだろうが、クソ蟲」
「うそつき。抱きつかれて、鼻の下伸ばしてたじゃん……」
「伸びてねえよ、手前の目は節穴か」
「脳みそ節穴だらけのシズちゃんに言われたくないし」
 リードを掴んだまま、輪っかに縛められている首に両手を回す。かつては何かを壊すことしかできなかった手が、臨也の背中を優しく抱きしめた。鼻を掠めた煙草の匂いに、心臓がぎゅっと締めつけられる。
「俺を殺してくれないなら、せめて愛してよ。ちゃんと、俺のことだけ見ててよ……」
 一度は砕けた両手が、古傷の痛みを訴えている。臨也を絶望に叩き落としたその手で、救い上げた静雄が憎い。憎くて、憎くて、いっそ殺したくなるほどに愛している。今度この手が自分を殺そうとしたときは、迷わず差し違えてやろうと思えるほどに。
「……手前しか見てねえよ」
 大きな手が、背中を撫でる。宥めるように、慰めるように、だがきちんと情欲も伝えてくる動きだった。ずいぶんと器用になったものだと眉を顰めながらも、内心では恥ずかしくて仕方がない。静雄にあれこれ教え込んだのが、紛れもなく自分だったからだ。
「こんな馬鹿みてえな格好だって、しろっつったのが手前じゃなきゃ死んでもしねえし」
 そう言いながらも、臨也の猫耳を口に咥えるあたり、意外とこういうのが好きなんじゃなかろうかと勘繰ってしまう。いつでもどこでも情報を引き出そうとするのは、もう職業病みたいなものだった。
「やっと捕まえたのに、あんまつまんねえことでヘソ曲げんなよ。俺が情けねえだろ」
 頬に触れるだけのキスをしながら、静雄が臨也の腰のラインを確かめるように指でなぞる。思わず漏れ出そうになる声を堪えながら仰け反ると、むき出しになった喉を舐められて、背筋まで震えた。
「臨也」
 好きだ、と甘くて低い囁きを耳元に吹き込まれ、臨也は呆気なく陥落した。





 冷蔵庫のドアはつるつるしていて、爪を立てるなんてとてもできない。指先に痛いほど力を込めながら、必死に縋りつく程度だ。
「ひ、ぁ…っ」
 ずる、ずる、と熱い塊が内壁を擦るたび、くちびるから抑えきれない喘ぎが零れ落ちていく。いつもならそれを恥ずかしいなんて思わない、むしろ場を盛り上げるために多少サービス過剰に喘いでやるくらいだが、ベッド以外の場所ではさすがの臨也も羞恥心を捨てきれなかった。まして、それがキッチンなどという日常生活の要とも言える場所ならば、なおさらだ。
「へ、ヘンタイ……っ」
 立ったまま後ろから突かれながら、臨也は膝を震わせた。腰を支える静雄の手がなければ、とっくにへたりこんでいるところだと思う。
「ああ? 誰が変態だって? 臨也くんよォ……?」
「ぃ、っぁ」
 ぐり、と弱いところを強く刺激され、痺れるような快感が背中を走り抜けた。口の端から零れ落ちたよだれが、ポタポタと床を汚している。
「っ、言えよ。誰が、変態だって? こんなとこでさかりまくってる俺か? それとも、こんなとこでヤられて感じまくってる手前か?」
 ピンクの手袋をはめた静雄の手が、震えながら先走りを垂らしている臨也の性器を包み込んだ。
「ぃ、ぁ…や…っ」
 いつもとは違う感触に身を縮めたが、下半身は熱くなる一方だ。下腹部にたまった熱を解放したいと泣きわめく臨也のうなじに噛みつき、静雄が熱い息を漏らす。
「ぁ、臨也…臨也……っ」
 静雄の腰の動きが単調なものになってきた。増す速度は、静雄の限界の近さを訴えている。冷蔵庫に縋りつきながら、臨也は涙でぼやける自分の体をじっと見つめた。すっかり勃ち上がった性器と、太ももにあたりでゆらゆら揺れるピンクのしっぽ。羞恥で頭がおかしくなりそうなのに、気持ちよくてたまらない。
「ぁ、シズ、シズちゃん……もっと、もっとして…っ」
 力を振り絞って後ろを振り返り、臨也のペニスを掴んだままの静雄の手に手を重ね、懇願した。一瞬だけ止まった静雄の動きは、何かのスイッチを入れるための準備にしか思えない。案の定、非常に凶悪な顔でくちびるをつり上げた静雄は、臨也の体をより冷蔵庫に密着させる形で押さえつけた。中で角度を変えたモノが、前立腺の辺りをぐりぐり刺激してくる。
「は、ぁっ…シズちゃん……気持ちいい…」
「っ、俺も…っ」
「あっ、ああっ、あーっ」
 静雄のペニスが、何の遠慮もなく臨也の中を擦り上げる。まるで自分専用の形に作り替えようとしているのではと疑うほどに、執拗で丁寧で激しい動きだった。
 頭の奥と目の前で、星が白く瞬いている。限界はすぐそこで、あとちょっとでも刺激されたら達してしまう予感があった。
「あ、あっ、シズ、ちゃ、…シズちゃん…っ」
 もうイく、と言葉にしようとしたその瞬間、静雄は臨也のペニスから手を離した。急に放り出された臨也の体は、混乱してまごついている。
「な、なんで……?」
 もつれる舌で訴えると、背中で静雄が意地悪く「臨也くん」と呼びかけてくる。振り返らずとも、どんな顔をしているのかは十分に理解できた。きっと、獣のような目をしているに違いない。
「おねだりしてみろよ。シズちゃん、イかせてほしいニャンってよ」
「はあ!? ば、馬鹿じゃないの……男が言ったって、寒いだけだろ…っ」
「なんでだよ。さっきは自分で言ってたろ」
 ゆるゆると腰を回しながら言う静雄が、本気で憎らしい。中でビクビク震えている静雄のそれも、とっくに限界が近いはずなのに。
「臨也、なあ」
「い、や…やだ……っ」
「手前、ずっとこのままがいいのかよ?」
 臨也の弱いところに緩やかな刺激を与えながら、静雄が濡れた声で臨也の鼓膜を舐める。
「なあ、臨也…聞きたい。あれすげえ可愛かったから、もう一回聞かせろよ」
「や……か、可愛くない…っ」
「すげえ可愛い。可愛い。世界で一番、手前が可愛い」
「や、だ、……あっ……あーっ!」
 びくびく体が震えて、頭が真っ白になった。身体の中も外もわけがわからないくらいに気持ちよくて、触れてもいないペニスが淫らに涙を零している。
「っ、ぁ、…い、ざや……っ」
 中に入れられたままだった静雄の性器が、ブルブルと震えた。熱いものに内側から汚されていく感触は、惨めで、恥ずかしくて、死にたくなるくらいに気持ちがいい。
「……手前」
「やだ…言ったら殺す……」
「可愛いって言われてイくとか……手前……おい」
「殺すって言った!」
 羞恥で顔を真っ赤にして叫ぶと、静雄の指に顎を捕まえられてしまった。抵抗むなしくくちびるを奪われ、舌で歯列をなぞられる。ぴちゃぴちゃ響く音が嫌だ。いやらしいことをしていると、嫌でも理解させられるから。
「……可愛すぎだろ、手前」
「違う……これは……違う」
「違わねえよ、アホ蟲」
 とんでもなく満足そうな静雄はもう一度臨也にキスをしてから、やっと顎から指を離してくれた。無理な体勢を強要されたせいで引きつっていた首筋と背筋の緊張を解し、臨也がほっと安堵の溜め息をつく。
 だが、与えられた平穏はまったくの束の間、はかない蜃気楼のようなものだった。
「っ、あ!? あっ…」
 中に埋められたままの静雄の性器が、いつの間にか固さと熱さを取り戻していた。揺さぶられ、再び冷蔵庫に頬を押しつける。必死で首を曲げ、非難と文句を込めた視線で静雄を睨みつける。揺れる犬耳が間抜けで可愛いなんて、ちっとも思っていない。
「も、やだ、なんで…」
「だって、イかせてほしいニャンって聞いてねえもん」
「男が『もん』とか、っ、言う、なぁ…!」
「手前の真似してやったんだろ」
 楽しそうな声に、臨也は負けを悟った。こうなったら静雄は絶対に引かない。セックスにおいて勝ち負けなんてないと臨也は思っているが、体力的な面のみに言及すれば常に負けっぱなしである自分に選択の余地はないのだ。
「いい声で鳴けよ、臨也?」
「…ヘンタイ」
 そう遠くない未来、静雄が望むままにニャンニャン言いまくっている自分が簡単に想像できて、臨也は乾いた笑いを零した。
 けだもの二匹の夜は、まだ始まったばかりである。



20140320

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