おまけの温泉プレイ | ナノ

 確かに今日は君の誕生日で、君が主役だ。そこに異論なんてもちろんあるわけない。君のことが死ぬほど好きなのも認めるし、君の望むことならできる限り叶えてやりたいと思っているのだってほんとうだ。

 でもね、シズちゃん。ああ、俺のシズちゃん。
 だからってさすがに限度ってもんがあると思うんだ。

 ばしゃばしゃと音を立てたお湯が濡らす岩肌にこびりついた白いものを見たくなくて目をそらしたのに、俺を後ろからいじめているシズちゃんがそれを許してはくれない。ちょっと前までは俺の中を散々いじくりまわしていたその指で頤を掴み、前を向くように促すこの男はやっぱりただの鬼だ。
「あっ、ひ、ぃや……シズちゃん…っ」
「嫌じゃねえだろ、手前が出したもんくらい責任取って見てやれよ。すげえべっとりついてるじゃねえか…出しすぎだろ? あ? いーざやくんよォ…?」
「だ、っれの…!」
 言いかけた口を塞ぐくちびるは熱っぽく、少しふやけていた。何時間風呂に入ってるんだかもうわかったものじゃない。上げるはずだった文句を全部寄越せと欲張りにねだる舌に翻弄されてしまうけれど、それは俺のせいじゃないのだ。
 でも、「誰のせいだと思ってるんだよ」って、聞いたところで無駄だろうなあとも思う。なんといっても相手は傍若無人がバーテン服を着て暴れているような男だ、しかも俺が相手となるとその理不尽さは天元を突破する。ひどい話だ。
「あっ、あう…しず、ちゃ…」
 もうどれくらいこうして淫らな遊びに耽っているのだろう。シズちゃんが何度も中で出したせいでぐちゃぐちゃになっている後ろの穴は女の性器のような音を立てていて、そこに余計に興奮するのか何度懇願しても抜いてくれないのは新手の嫌がらせなんだと結論づけることにした。
「も、っ、や、休ませ、て…っ」
「んー…もうちょっと…」
「さっきからっ、あ、あっ、…そればっかじゃん…!」
 腰を掴んで揺さぶり続けている男が元気すぎるのか、俺が元気なさすぎるのか、セックスにおいて彼と俺が同じくらい満足することはほとんどない。たいていは彼がしぶしぶ引き下がる形で俺を解放してくれるのだが、さすがに今日は誕生日ということで自分が満足するまでヤるおつもりらしい……俺は死ぬのかもしれない……。
 機嫌よくちゅうちゅうとうなじに吸いついて痕を残すシズちゃんの指が、乳首をくすぐる。シズちゃんと付き合い始めてから弱点になってしまったそこに触れられるのに、俺はとても弱い。思わず悦びに鳴る俺の喉をくすぐるのが、シズちゃんはとても好きらしい。猫みたいで可愛いって言われて思わず赤くなってしまったのは、墓場まで持っていきたい秘密の一つである。
 ぐりぐりと意地悪く尖りを潰したのと同じ指でことさら優しくくすぐられると、どうしたって声が出る。甘えの色が多分に含まれるそれを聞きとめたシズちゃんが、含み笑いで「すけべ」と言ってきた。どっちがだ。でもすごい興奮したよ、それ。
 シズちゃんの太くて硬くて熱いものが、ずりずりと粘膜を擦って肉を抉り、奥へ奥へと入り込んでくる瞬間がたまらなく好きだ。圧迫感と異物感に怯えるそこを、宥めるように指でなぞられるのが好きだ。バックからしているとき、箍が外れてほんとうの獣みたいにになったシズちゃんにガツガツ貪られるのが、たまらなく好きだ。
「あっ、ああ…あーっ、シズちゃん…シズちゃん、きもちいい…いいっ、イイ…!」
「んっ…俺も……い、ざや…ぁっ」
 感じて上ずる声を聞かされるたび、ほっとする。女のように受け入れる機能が備わっていないこの身体でも、彼に快楽を与えられるのだと実感できるからだ。そう言ったらシズちゃんがとても怒るから黙ってるけれど、ほんとは声を上げて泣き叫びたいくらい幸せだった。
 だからこそ、こんなめちゃくちゃなセックスにも応じてしまうのかもしれない。シズちゃんが求めてくれるうちが花なのだと、そんなことを心のどこかで思っているのかもしれない。
 彼がどれだけ俺のことを大事に思ってくれているかも、愛してくれているかも、ちゃんとわかっている。だけど考えずにはいられない。俺の手を振り払い、他の誰かのところへ飛んでいく彼の背中を、俺はきちんと見送ることができるのだろうか――……?
「……臨也…手前、また変なこと考えてんだろ」
「え? あっ、ああっ、あー! や、やぁ、んあ、あっ、…シズちゃん…」
 いつの間にか止んでいた律動のせいで、余計に考え込んでしまっていたらしい。
 突如として再開された――というか、より激しくなった――腰の動きに翻弄され、喘ぎまくりながら岩にしがみつく俺の背中に自分の腹をぴったりと押しつけ、シズちゃんが耳たぶをかぷかぷと優しく噛んできた。微妙な刺激とダイレクトな快感に朦朧としながら声を上げていると、シズちゃんの指が俺の腹を辿って下へ下へと降りていき、出しすぎて敏感になっているペニスに触れた。
「ひ、だ、だめ…いや……」
 擦られる恐怖に縮こまる肩を舐める舌が、熱い。
「元気があるから余計なこと考えんだろうが……」
 苛立ちを含んだ声音でささやかれると、なんだかとても悪いことをしてしまった気分になるから不思議だ。どっちかというと悪いことをしているのはシズちゃんのはずなのに。
「し、シズちゃんのことしか、考えてない…」
「へえ? 可愛いこと言ってくれんじゃねえか、臨也くん?」
 耳たぶを犬のように舐めまくるシズちゃんの声はとても楽しそうで、ああやっぱり怒ってるんだなあと実感せずにはいられない。再び腰をぐいぐい揺さぶるシズちゃんの手に爪を立て、必死に訴える。
「ちょ、ま、待ってよ…せっかくのスイートだよ? ベッドでしようよ…」
「あー……」
 それもそうだな、というシズちゃんの言葉にほっと胸を撫で下ろした、のも束の間だった。
「俺があと一回イッたらな」
「……うそだろ…」
 どんだけ風呂でヤる気だよ、と青くなる俺の腰を掴み直したけだものは俺の首筋に牙を立て、押し殺した声で唸るように囁く。
「手前がつまんねえこと考えなくなるまで、可愛がってやるよ…よかったよなあ、部屋に露天風呂がついててよお? ドロドロのぐちゃぐちゃになっても、すぐ洗いに行けるもんなあ? なあ、臨也くんよォ…?」
 シズちゃん。ああ、俺のシズちゃん。
 そうかい、君は俺を今以上にドロドロのぐちゃぐちゃにするつもりなんだね。
「……お望みのままに…」
 全部を諦めてそう呟くと、ご褒美と言わんばかりの優しいキスが降ってくる。それは、誕生日だからしょうがないかもなあ、とか考えてしまってる俺の心を揺さぶるには十分すぎる代物なのであった。



 翌日、誕生日当日だというのに疲労困憊で動けなくなった俺をかいがいしくお世話してくれたシズちゃんにケーキを食べさせてもらう幸せをもっと感じていたくて、うっかり宿泊を延長してしまったことをここに付け加えておこうと思う。
 うん、温泉はとてもいいものだ。また行こうね、シズちゃん。


20130221

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