空き容量が足りません | ナノ

・来神
・S・O・Sの静雄さん視点











涙混じりの声に、ぞくりと背筋が粟立った。見下ろした先、自分の体の下でひっひっとしゃくりあげている綺麗な顔に視線が釘付けになった。
「……臨也」
涙と涎と粘液でぐちゃぐちゃになっているその顔がたまらなく可愛くて、少女のように胸が高鳴る。恋と呼ぶよりも先に目覚めてしまった衝動のすべてをぶつけながら、静雄は熱い息を吐いた。
「も、やだ…しず、ちゃ……」
頑是ない子供のようにしゃくりあげる姿すら艶めかしく、片想いの相手が静雄を呼ぶ。ぞわりとわきあがった情欲を、臨也の身体の奥深くに押し込んだ。上がる悲鳴は、静雄にとって天上の音楽だった。うっとりと細めた目には、臨也しか映らない。
「臨也……すげえ可愛い…」
「う、ぁっ…」
聞きたくない、と首を横に振るのを微笑ましく思いながら、臨也の真っ平らな胸に指を這わせる。やっぱりどんな女の胸よりも可愛い、これ以上ないくらいに素直な気持ちでそう思う。















ああ、そうだ、こいつも男なんだ――嬉々としてAVを吟味する臨也を横目に見ながら、静雄はそんな当たり前かつ重大なことを改めて考える。クソノミ蟲野郎と揶揄して忌み嫌う一方で、複雑極まりない劣情を抱いている相手だ、それは静雄にとって目から鱗が落ちた瞬間だった。
臨也にナースもののAVを見られたとき、情けないことに静雄は羞恥と怯えに震えていた。幻滅されるだろうか、汚らわしいものを見る目を向けられるだろうか。そんなことばかりが気になって、臨也の顔などまともに見られなかった。
けれど、そんな静雄とは対照的に、臨也の態度といったらまるで普通。それ以上でも以下でもなかった。それはそうだろう、臨也は女の子ではない、立派な男子高校生なのだ。静雄は、知らず知らずのうちに臨也に妙な夢を見ていた自分が急に恥ずかしくなった。
だが、からかいしか感じられない声音と視線にほっと胸を撫で下ろしたのも束の間のこだった。臨也の――密かに想いを寄せる相手の発した言葉に、静雄の脳はズガン!と音をつけたくなるくらいの衝撃を受けることになる。

「シズちゃん、こういうの見るのか……」

「いや、別に。ただ、なんかショックというか……」

どことなくつまらなそうなその顔に、その声に、静雄の心臓がばくばくと音を立てる。女の子ではない臨也は、きっとAVだって見たことがあるだろう。おそらく童貞でもないはずだ。それなのに、静雄がAVを見るのがショックだと、そう言ったのか?それは一体どういう意味だ?
期待にも似た何かに突き動かされるように、静雄は臨也の腕を掴んでいた。そして、とんでもない誘いを口にしていた。

「一緒に見ねえ?」

思い返してみても、何故あんなことを口走ってしまったのかはよくわからない。わからないが、静雄はあのときの自分の行動にこれ以上ないくらい感謝していた。とんでもない僥倖だとすら思う。
静雄は臨也に恋をしている。いや、そんな可愛らしい呼び名ですむような感情ではない。人間を愛していると言う割には誰も近寄らせない心の奥まで暴いてやりたいし、その心を包んでいる体も割り開いてみたい。精神的な意味でも、もちろん、肉体的な意味でも、だ。











臨也がAVを選んでいる間、静雄は気づかれないように臨也を見つめていた。さらさらと音を立てて指から滑り落ちていきそうな黒髪、折れそうに細くて白い首、赤く色づいたくちびる、どぎついDVDを掴む綺麗な指――およそ同じ男とは信じられないくらい、折原臨也を形作るパーツはどれをとっても美しい。
静雄は手持無沙汰にマカロンのストラップをいじりながら、ともすれば指を伸ばしたくなる気持ちを押し殺していた。馬鹿にするつもりで寄越したのだろうが、そんなことはどうでもいい。臨也がくれた、それ自体に意味があった。
なかなかに決めかねているらしい臨也の目元に、静雄の視線は集中する。ああでもないこうでもないとうろうろ彷徨う目の動きが愛らしくて、ずっと見ていたい気持ちになる。
あの不思議な色をした目に自分だけを映すことができたなら、一体どれだけ幸せなのだろうか。想像するだけでぞくぞくと背中を駆け上がるものがある。
「おっぱいラーブ。俺はD以上が好き〜」
上機嫌な臨也の呟きを聞き流しながら、静雄は改めて思った。ああやっぱり男だ、臨也は男なんだ。
どこか潔癖さを感じる臨也の口から性的な言葉が出るのは、妙ないやらしさを感じさせる気がする。本人が至って普通に口にしているのがまたたまらない。静雄はにやけそうになる口元を必死に取り繕いながら、臨也が選ぶのを待っていた。
「俺は胸より腰がいいけどな」
「ああ、腰もいいよね。くびれ、たまんないね」
珍しく素直に同意してくれた臨也に曖昧な返事をしてから、静雄は臨也の腰を視線で撫でた。くびれ、とはまた違う、細くて締まった男の腰だ。いつからだろう、なめらかな曲線を描く女の腰よりも、どちらかというと直線的な臨也の腰の方により興奮を覚えるようになったのは。
あれを両手で掴んで、揺さぶって、奥の奥に熱を吐き出してやりたい。うっかり勃起しそうになるのを叱咤しながら、静雄は頭を振った。焦ってはいけない。警戒心の強い猫を、ようやくテリトリーに連れ込めたのだから。
「ベタなのばっか!シズちゃん趣味わりー」
けらけら笑う臨也に、静雄は心中でほくそ笑む。そうだな、手前で勃っちまうくらいだもんなあ、と。








臨也が選んだAVを並んで見ている間も、臨也のことばかり考えていた。よりにもよってこれを選びやがって、と恨みたいような誉めたいような気持ちで。
静雄はどちらかというと年上趣味で、好きなのは人妻物や女教師物だ。初体験物は、今見ている一本しか持っていない。それも臨也が言ったとおり、どちらかというと筆おろしの方が静雄の好みには合っているだろう。それでもこれを入手したのには、理由があった。
パッケージの裏側で、顔を真っ赤にして喘ぐ女優のさらさらとした黒髪に目を奪われたことを静雄は今でも覚えている。これが、一番似ていた。この女優が一番、臨也と髪型背格好が似ていたのだ。そんなわけで、静雄は目下このDVDには一番お世話になっていたわけである。
とはいえ、最終的にはいつも苦しそうに喘ぐ臨也の顔を想像して射精に至っていたので、結果的には臨也で抜いていたことになるのだが。
「なあ、なに考えてんだよ……っ」
若干上擦った声が、静雄の鼓膜を貫く。思考を停止して、静雄は臨也を見つめた。ごく、とその喉が上下したのを見逃しはしない。今も手に残る臨也の下半身の感触、AVで興奮したらしい臨也に興奮して仕方がなかった。
こいつは男だ、静雄は今日何度目かになるその言葉を呪文のように心の中で呟く。静雄が触れただけで壊れてしまうような、華奢な少女ではない。幾度ぶっ潰しても、何度痛めつけても、次の日には笑って静雄にナイフを向けてくるノミ蟲だ。この世で一番嫌いで、この世で一番欲しい、折原臨也だ。
「手前のことしか考えてねえよ……舐めんぞ」
「ちょっ…や、や、だぁ……っ」
「やだぁ……って、手前……あーやべえ、また俺の想像負けた」
抵抗しようと手に力を込めたところで、無駄だとわかっているだろうに。静雄は鼻歌でも歌いたい気持ちになりながら、臨也の乳首にくちづけた。びくっと震えた胸に気分をよくして、ぱかりと口を開ける。臨也が悲鳴を上げる前に、小さな突起を口に含んだ。
「…っ」
嫌だ、と、絞り出すように臨也が言う。聞く耳を持たない静雄は、つんと上向いた乳首を舌で転がした。片方を指でいじると、臨也の抵抗は激しくなる。
「嫌だ、やだ、変態変態変態…っ」
子供のような雑言を吐きながら、臨也がぶんぶんと首を横に振る。腕を振り回して抵抗する様子も、ずっと見ていたくなるくらい愛らしく感じられたが、今はさっさとつっこみたい気持ちでいっぱいだったので手っ取り早く縛ることにした。もったいないが、仕方ないだろう。
ちゅっと一際強く吸ってから、臨也の乳首から口を離す。てらてらと唾液で光っている乳首は淫靡で、そうさせたのが自分だと思うとまたさらにいやらしい気持ちになった。
「臨也、ベルトとドライヤーのコードならどっちがいい?」
「……は……?」
「決めねえなら、俺が決めんぞ。ごーお、よーん、さーん、にーい、いーち、」
「ま、待っ……ベ、ルト……っ」
不思議そうな、だが確実に嫌な予感を覚えているらしい不安そうな顔で、臨也がそう答える。静雄は優しい笑みを浮かべて、臨也のベルトに手をかけた。臨也の喉が引き攣る。
「暴れんじゃねえよ、手前がベルトっつったんだろ?いーざやくんよォ……」
「こんなの聞いてない…!」
「安心しろ、言ってねえ」
「いっ、痛い、って…っ」
ぎち、と音が鳴るくらいに縛り上げたせいで、臨也はとても辛そうに顔を顰めている。少し強かったかと反省して一度解いたが、すぐさま大暴れしたのでやはりきちんと縛ろうと静雄は思った。できることなら肌に傷は残したくないのに、と残念な気持ちになる身勝手さに、恋をしている男は気づかない。
抵抗する術を削がれた臨也は、純度の高い殺意を視線に込めて静雄を射抜いてくる。臨也の目も深く愛している静雄には、それがまるで春のひだまりのように心地よいものでしかないと早く気づけばいいのにと思う。
「臨也……臨也、好きだ」
音にした途端、臨也への複雑な感情が静雄の中で激流のように踊る。だから、つい臨也の首に噛みついて痕を残してしまうし、つい臨也の乳首を乱暴に擦り上げてしまうし、つい臨也の下着に手を突っ込んで性器を扱いてしまう。仕方がない、仕方がないことなのだ。
静雄は言い訳のようにそう思いながら、臨也にキスをする。触れ合うだけのキスで泣き出した臨也の口の中に舌をつっこんで、ぐちゃぐちゃにかき回してやった。想像や夢の中でしたキスの方が気持ちよかったが、満足感は比べ物にならない。
「い、や……気持ち、悪い…う、ぅ〜…っ」
ぼろっと零れ落ちた臨也の涙にも舌を這わせながら、興奮できつくなった下着に舌打ちをする。扱いてもなかなか勃起しない臨也の性器とは対照的すぎて、少し恥ずかしいくらいだ。
「臨也、気持ちよくねえの?」
「い、いいわけ、ないだろ…!も、やだってば…っ」
「……それってよぉ……処女だから、か?」
「しょっ……」
ぼんっと音が出そうなくらいの勢いで、臨也の頬が赤くなる。またしても下着がきつくなるのを感じながら、静雄は興奮を隠せなかった。隠せるわけがない。ああやっぱりあのAV買ってよかった――静雄はそう思った。
「優しくするって……できる、だけ」
「しなくていい…しなくていいから、もう、帰らせてくれ……」
「誰が帰すか」
「ん、ぁっ」
爪でぐり、と先端を引っかくと、臨也の細い腰が揺れる。何度も想像の中で掴んだ腰だ。静雄の劣情を煽ってやまないそこが、今、静雄の目の前に投げ出されている。下着の中で出さないだけ誉めてくれ、静雄はそう思った。
「臨也、このままここでするか、ベッドか、どっちがいい?」
「な…っ……しない!誰がお前とそんなことするか!死ね!」
「しょうがねえなあ……決めねえなら俺が決めちまうぞ?ごーお、よーん、」
「ひ、」
「さーん、にーい、」
「や、やめ…やめろ……」
「いーち、」
「シズちゃん…っ」
「ぜー」
「ベッド!ベッドがいい…!」
言った途端にぼろぼろと大粒の涙を零した臨也がやっぱり可愛くて、静雄の胸はきゅんと高鳴った。














「あ、あ、」
ぐすぐすと泣きながら喘ぐ臨也のせいで、静雄の性器は萎えることを知らない。解すときに使った軟膏と静雄が出した精液で、臨也の小さな穴はぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てている。
「すげえなあ…最初は、っ、指一本でもぎっちぎちだったのに、よ……」
「や、っ…ぅ……ご、かな…で………い、た…」
ひっひっと短い息を吐いて、逃げるようにベッドをずり上がろうとする細い体。静雄は汗で滑るてのひらで、臨也の腰を掴んで引き戻した。ぐち、と奥まで強引に押し込んだせいで、臨也の内壁がぎゅっと静雄の性器を締めつける。
「ひっ、ぃ…ぁ、あああ……っ」
「っ、は、…ばか、またイッちまうだろーが…っ」
「う、うう…っうー……っ」
縛られた両手で目を覆い、臨也が泣き声を上げる。やはり耳に心地よいその音に混じって聞こえてくる甲高い喘ぎが、うるさくてかなわない。それでもリピート再生を解除する時間さえ惜しく、臨也を貪ることしか考えられなかった。穿って、擦って、抉る。その度に、臨也は泣いて、泣いて、鳴く。
萎えるたびに擦って射精させているせいで、臨也の真っ白な腹は、臨也の精液でさらに真っ白になっている。指で掬って舐め取ると、ほんのり甘い気がした。やめろと叫ぶその口にも塗りたくると、噛みちぎる勢いで指に食いつかれる。
「はー……手前はほんとに……馬鹿だろ?」
「んぐっ、んんんっ、ん、んっ、んー…っ!!」
ちり、と感じた指の痛みのせいで、臨也の中につっこんでいる楔がまた大きくなった。それを直接粘膜で感じ取った臨也が青褪めて口を離すよりも先に、指を奥まで突っ込んで腰を振る。ガクガク揺れる臨也の顔は苦しそうで、静雄は興奮にくちびるを舐める。
「手前も男なんだから、こういうときにしていいことと悪いことの区別くらいつくだろーが……それってつまりいじめてほしいってことだよなーあ……?」
「んっ、んんっ、ぐ、ぅ…っ」
目を見開いて嫌がる臨也の耳朶を噛み、静雄は腰を打ちつける。ベッドが軋む音と、肌のぶつかる乾いた音と、臨也のくぐもった悲鳴、そして画面から聞こえてくる甘い喘ぎ声。異質な空間だった。これ以上ないくらいに、異質だ。
「……あ、そうだ」
いいことを思いついた。臨也の視線がうつろなことを確認しながら、静雄はにやりと笑って手を伸ばした。まずはリモコンを手にし、スイッチを押す。
テレビの明かりだけに頼っていた視界が、パッと明るくなった。臨也の目は、相変わらずうつろだ。静雄は微笑んだまま、臨也の口から指を抜く。げほげほと噎せる臨也に、優しい声で語りかけた。
「いーざーやー……もう帰りてえ?」
「あっ、あ……か、…り、たい」
「そっか…じゃあ、あと一回。俺が出したら、もう終わらせてやる。臨也が俺のをぎゅーって締めて擦るの頑張ってくれたらすぐ終わるからよ……協力するよなあ?」
「っ…う、ん……する、シズちゃ、…する、…なんでもする、からぁ…っ」
もう嫌だ、と泣く臨也の頭を撫で、静雄はほくそ笑む。照明のリモコンを床に放り投げ、先ほどのようにまた手を伸ばした。腰を引きながら掴んだ携帯電話を開き、動画機能を呼びだす。ずるる、と性器が抜けていく感触に、臨也が甲高い悲鳴を上げた。
「あっ?あ、っ、あっ、や、やだ、やだあああ…っ!」
「っあー…やべ……かわいーなあ、手前…なんだよ、抜かれんの好きか?」
「ひ、ぁ…わ、わか、んな…い…っ」
「はっ……手前、なんで可愛いんだ…その声だけでイっちまうだろうがよ…」
ぼんやりとしている臨也の目の焦点が合わないうちに、ピントを合わせてボタンを押す。撮影開始の間抜けな電子音が臨也の耳に届かないようにと、静雄は臨也のうねる粘膜を擦り上げながら激しく腰を揺らした。臨也の悲鳴にも似た喘ぎ声が上がる。静雄の目論見は成功したらしい。
「はっ、あ、ああっ、や、っ…や、だぁ……っ」
「臨也…臨也、いざや……っ」
「ぁ、ひ、ぁ……や、ぁ、あああっ、あんっ、シズ、しず、ちゃ……シズちゃん…っ」
「ああ、もっと呼べよ…っ」
液晶画面越しに覗く泣き顔もいいものだと、静雄は快感に痺れる頭で思った。録っては保存して、保存しては録って――静雄はずっと同じことを繰り返す。そうして、『空き容量が足りません』というメッセージが出た携帯電話をシーツの上に落とした。
「臨也、可愛い、すげえ可愛い…」
「あっ、あう、…ひっ、ぁ……も、やだぁ…っ」
「わかってるって…もう泣くな……興奮すんだろうがよぉ…」
涙と涎でぐちゃぐちゃな可愛い顔を見下ろしながら、何度目かになる絶頂を目指して腰を振る。悲鳴が啜り泣きに変わっていくのを楽しみながら、静雄は臨也のくちびるにキスをした。視界の端にある携帯電話を、愛しげに見つめながら。



なあ――また一緒に見るよなあ?



20111206

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