来神設定
モブ視点注意オリキャラ注意











「や、久しぶりだね」
相変わらずの優しい声と笑顔に胸がときめく……と言いたいとこだけど、ここ、ファミレスだよね?ファミレスってアットホームじゃなきゃだめだよね?
「初っ端からパフェ?はあ?あったまおかしいんじゃないのシズちゃん。あ、ごっめーんおかしいんだったね!」
「るっせえんだよ、ノミ蟲ぃ……捻り潰すぞコラ」
なんか今にもつかみ合い始まりそうな雰囲気なんですけど。折原くんと平和島静雄くんが同じテーブルについてるなんてあっていいの?いや、いいわけがない。来神の生徒じゃなくたって、池袋近辺の高校生ならみんな知っている。
「二言目にはそれだし。飽きちゃったあ!新羅ーしーんらー俺フレンチトースト食べたい」
「あーはいはい、注文するから待っててね」
一触即発な二人に挟まれてるはずの岸谷くんは、ただ相変わらずの優しい笑顔を浮かべてる。その表情と声に胸がきゅんと鳴った。中学の同級生だった岸谷くんが、私はずっと好きだった。岸谷くんにじゃれつく折原くんを睨む平和島くんの図をぼうっと見ていた私に気づいて、岸谷くんが声をかけてくれる。
「ごめんねーこの二人を同席させるのはどうかなあって思ったんだけど……僕他に友達いないんだ」
「あっ、ううん、全然いいの……!」
私は岸谷くんに会えたらそれで!と続けようとした私の発言を遮るように、折原くんが口を開いた。折原くんも元気そうだ。中学のときはいろいろあったけど、仲は悪くなってないみたいでよかった。
「新羅も人が悪いよね、合コン来てとしか言わないんだから。シズちゃんも呼んでるって知ってたら、俺絶対来なかったのにさ」
「俺をノミ蟲と同じ空間に押し込めやがって……新羅ぶっ殺す」
噂以上に仲が悪いらしい二人を前にして、ごくごく普通の女子高生である私たちがびくついてしまうのは仕方ないことだと思う。
視線を泳がせていた私の左隣にいた友人Aの様子に気づいた折原くんはいたずらっぽく笑い、同じような状態だった私の右隣にいる友人Bに申し訳なさそうな顔で平和島くんは謝った。
「ごめんねえ、シズちゃんが乱暴で」
「わ、悪い……ノミ蟲のことは気にすんな」
私は友人が恋に落ちた瞬間を見ました。二人ともすごい綺麗な顔してるもんね。よかった岸谷くんじゃなくて!と喜んでた私に、折原くんが手を振ってくれた。ちょっとやめて友人Aその顔怖い。
「やあ、久しぶりだねえ元気だったかい?君って相変わらず趣味悪いみたいだね!まあ一途な子は嫌いじゃないよーもうそれって一種の信仰だしね。これだから人間が好きだ!」
「ああ、うん。相変わらずみたいだね、折原くん」
「ふふ、誉め言葉だね」
高校生なのにこの色気、はんぱないわ折原くん。友人Aの視線がこれ以上ナイフみたいにならないうちに、私は愛想笑いを返して岸谷くんに向き直った。
「ごめんね、岸谷くん。無理なお願いして」
「いやいや、こっちこそ。デュラハンについての本があんなにたくさん手に入るなんて思わなかったから、これくらいお安い御用だよ」
「いっ、いいの、そんなの……!」
古書店を営んでいる父に、心の底から感謝した。でゅ、なんとかの本が欲しいとわざわざ私に連絡してくれた岸谷くんからのお礼の申し出を断り、私は一つお願いをしたのだ。来神の子と合コンをしたいと。正直岸谷くんに近づきたかっただけなんだけど。
「じゃ、まあ、なんか頼もっか!待ってる間に自己紹介ってことで。臨也はフレンチトーストでよかったんだっけ?」
「気が変わった。鍋がいい」
「馬鹿か、このクソ暑いのに鍋なんか食いたくねえよ死ね」
「シズちゃんが死ねよ。俺だって化物なんかと鍋つつきたくないですーう。死んでもごめんですーう」
「そうか、じゃあ死ね。確実に死ね。ぱたっと死ね」
「お前が死ねばいいんじゃないかなあ」
……どうして……この二人に挟まれて笑顔でいられるの岸谷くん。そんなとこが好きだけど。



結局フレンチトーストを頼んだ折原くんの人間が大好きだ!発言を最後にして自己紹介は終わった。友人AもBも向いにいる折原くんと平和島くんに夢中なようだ。もっとも、折原くんも平和島くんも睨み合いに夢中なようでさっぱり気にしてないけど。
「シズちゃんが合コンなんてどういう風の吹き回し?気でも違った?そのまま死ぬ?」
「手前が死ねよ臨也。そんなもん俺の勝手だろうが。手前こそどういうつもりなんだよ」
うーんほんとに仲が悪いんだな、と思いながら岸谷くんを見ると、ただひたすら微笑ましそうな顔で間に挟まれているだけ。どうしてそんな顔、と思ったとき、友人Bが口を開いた。
「あっあの!私、平和島くんの好みのタイプ聞きたい!」
「え」
平和島くんは、途端に顔を赤らめた。やだ可愛いかも。それを見た折原くんは、眉をつりあげていたけど。ごほん、と咳ばらいをして、平和島くんが口を開く。
「あー……髪が長くて、タレ目で、セーラー服が似合ってて、間違ってもナイフとか振り回さなくて、俺のこと化物扱いしないやつ」
なんてピンポイント。それを聞いた折原くんの眉が、今度は急激に下がった。その代わりのように岸谷くんの笑みが深くなる。あれ、なんかこの雰囲気変じゃない?
「私は、折原くんの好みが聞きたいな」
友人Aが負けじと声を張り上げた。折原くんははっとしたような顔をした後、困ったように笑う。一瞬視線が平和島くんに向けられたような気がしたけど、ほんとうに一瞬すぎて確信が持てない。そんな私にはお構いなく、折原くんが綺麗な声を聞かせた。
「俺?……背が高くて、目つき悪くて、金髪で、ブレザー似合ってなくて、顔に似合わず甘いものが好きで、」
ぴたりと折原くんの声が止まった。ついでに、その場の時間も。だって、それって、それって……!
「……俺のこと、殺したいくらいに嫌ってる人……かな」
こちらが切なくなりそうな声でそう言った折原くんの目は、平和島くんを見ていた。ただ、ただ、平和島くんだけを。
「い、いざ、」
「ごめん、帰る。新羅、お金は明日請求して」
「ちょっと、臨也?」
焦ったように折原くんの名前を呼びかけた平和島くんの声を無視して、折原くんは席を立った。慌てて声をかけた岸谷くんに手を振って、折原くんは出口へと歩いていく。一瞬ちらっと私の方を見て、ごめんねとくちびるを動かした折原くんは、やっぱり綺麗だった。
「……静雄、行かなくていいのかい?」
どうにも気まずすぎる沈黙を、岸谷くんの静かな声が破く。びくっと肩を揺らした平和島くんは、岸谷くんと私たちと折原くんがさっきまで座っていた場所に何度か視線を滑らせたあと、折原くんと同じようにくちびるだけでごめんと言って出て行った。
「まったく手がかかる友人だよ」
楽しそうに笑った岸谷くんは、もしかしてこれが狙いだったのだろうか。一部の女の子の間で噂になってた、折原くんと平和島くんの不可解な関係。その噂以上の真実を垣間見てしまった私たちは、被害者と言ってもいい。特に、私の両隣でしかばねのようになっている二人は。
「んーじゃあ、二人も抜けちゃったし、終わりにしようか?」
笑顔を崩すことなく、岸谷くんがそう言った。じょ、冗談じゃない!私は伝票を持って席を立とうとする岸谷くんの袖を掴んで引き止める。
「ま、待って!私、私、ずっと岸谷くんのこと、」
「ごめんね、僕好きな人いるんだ」
申し訳なさそうに謝る岸谷くんの言葉は、私に大きすぎる衝撃を与えた。一般的な断り文句。その後に続いた一言が、問題だった。

「それに、君には首から上があるだろう?」

耳を疑った。開いた口が塞がらなかった。そんな私にもう一度優しい声でごめんと言って、岸谷くんは今度こそファミレスを出て行く。引き止める気力なんてあるわけない。
「……来神の男となんて、二度と合コンしない……」
私たちの恋が散った理由を池袋に噂としてばらまいてやったのは、言うまでもない。


110219

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